推しメタル~ Unlucky Morpheus~

メタルメタル言ってるので、推しバンドを紹介しようと思います。語りたいバンドはたくさんあるけど、どうしても語りたくなったバンドを。

Unlucky Morpheus:現代最先端のヘヴィメタル

通称「あんきも」。正直なところ、私がハマったのはここ二年程度。だが、Pure Rock Japan 2019で生のあんきもを聴いて、撃ち抜かれた。
とんでもないバンドだった。
全編にわたる泣きのメロディ、空間を貫く驚異のボーカル、ライブで演奏していることが信じられないようなバカテクバンド。想像を絶していた。
そして同時に、言葉が無力なことを思い知ってしまった。どれだけ語り尽くしても、音には勝てない。だから一度聴いてもらいたい。

Knight of Sword:あんきも王道、沼ど真ん中

歌い出しから沼。クラシカル(クラシック曲の旋律のように)な情感溢れるメロディを、まるで演歌のように強く強く歌い込んでゆく。その後ろにはヴァイオリンによる別の旋律が流れ、歌と絡み合う。ギター二本・ベース・ドラムがそれぞれに主張しながらうねりを作り、歌いきったところでヴァイオリンとフレーズを合流させ、ヘヴィメタルの激流を、未来方向に迸らせる。特に注意深く聴いてほしいのは、ドラムの緩急と、打点が主旋律とシンクロするところ。あんきもの音楽は各パートが綺麗にシンクロしていて、それが気持ちよさを生んでいるのだと思う。

月明かりに舞う 青まばゆき少女 自らの使命を 果たす Knight of Sword

世界観は伝わるだろうか。剣を持った少女が騎士として戦うRPGの世界である。ヘヴィメタルとは言ったが、たとえばドラクエのように、RPGの王宮に響く弦楽をBGMにして、そこに爆音が乗っているのだ。決して海の向こう、太陽の彼方、遠い国の音楽ではない。
もっと言ってしまおう。メタルの世界は元来非常にアニソン的なのだ。特にこのUnlucky Morpheusは、アニソンの双子の妹といってよい。もともとボーカルとギターの東方カバーからはじまったユニットが、スーパーメタルバンドとして変化し、大爆発を始めたのだ。

Aメロに入った途端に伴奏に大きな変化がつく。このリズムの起伏が、よりいっそう物語を先へ先へと手招きする役割を果たす。その上で、一切ぶれないボーカルの歌が、深い深い物語への命綱となり、サビへ向けてのジェットコースターへ、観客は少しずつ引っ張られてゆく。Bメロパートは、副旋律がギターに、バッキングがヴァイオリンに入れ替わり、リズミカルなドラムに圧倒されながら頂点へと達する過程である。
そこを突き抜けて、歌い出しで聴いたあのサビに戻ってくる。
非常にまっとうな構成で、非常にまっとうなバンドなのだが、こんなに気持ちいいバンドには、なぜか滅多に出会わない。それは私の感覚が大いに狂っているのか、それともその逆なのか……。

これだけの世界を作ってしまうバンドの間奏パートは、まさに華麗なヘヴィメタルど真ん中!
主旋律を奏でるだけでも気持ちいいのに、そこからさらに、全パートのソロを聴かせる構成で作り込んでくれる。このソロパートだけでもずっと聴いていたくなる。歴史的には、Angra「Carry On」、Helloween「Eagle Fly Free」など、全メンバーの持ち味をしっかり見せるために設置されたパートがある曲は、だいたい名曲。バンドの自信と成果物の客観的評価が折り合った時、そこに名曲が生まれる、のかもしれない。

「このバンドがすごい」と言い切れる、個々の力を超えたもの

ここまでメンバーの名前を書かなかった。それは、音楽を「この人が凄い!」という形に、簡単に還元したくなかったから。Unlucky Morpheusに関しては、個々のメンバーの力をはるかに超えた「音楽」がしっかり発生しているとはっきり分かる、数少ないバンドだから。
ただ、その中心にいるのは間違いなく、リーダーにして作詞作曲もこなす紫煉だ。妖精帝國の元メンバーとしても有名だろうか。
彼はそもそもがギターヒーローの経歴を持つ。しかし腱鞘炎でギターが弾けなくなる危機に陥り、「必ずしもリードを弾かない」という決断をした。かわりにヴァイオリンにリードを任せたり、軽量で負担の少ないギターに変えたり、指一本で弾けるギターソロを作ったり、そもそもギターを持たずスクリーム担当に化けたりと、あらゆる試行錯誤を試みた。
これだけでも偉業に値すると、私は思う。ギターヒーローがエゴの果てに潰したバンド、「リードギターしか面白くないバンド」がどれだけいることか。ギターにこだわらず、前向きに変化し続け、紫煉の才能を全方向に発揮させることができたおかげで、今のあんきもがある。

一度聴いたら忘れない、あの歌声の説明をしないわけにはいかない。
天外冬黄(てんげふゆき)ことFukiの歌唱力は、「群を抜いている」なんて言葉を超えている。もはや暴力的歌唱力である。現代を生きるモンスターである。
Fukiのソロアルバム「Million Scarlets」は是非一度紹介しておきたい。なにせ、一曲ごとに声色が全部違うからだ。これに関しては間違いなく声優顔負け。

「Rのない月の恋はよくない」と「絶戒のJuliet」が同じシンガーというのがもう理解できない。
堀江由衣と喜多村英梨と水樹奈々が同じ声帯から出ている

このふたりの初期メンバーが圧倒的すぎるので忘れてしまうが、他メンバーも十分すぎるほど強い。
セカンドギターの仁耶はナチュラルになんでも弾いてしまうので、逆に表現しにくいほど(申し訳ない!!)。ベースの小川洋行はそもそもメタル志向でもなかったそうだが、そのおかげでいい方向の変化球がついたのだと思う。
メタルバンドには珍しい(だけど私は大好き!!!)ヴァイオリンのJillは、中核メンバーを抜きにしたインスト企画「Quadratum from Unlucky Morpheus」で大ブレイクした存在だ。さすが音大卒という分析力と表現力。テクニカル。
(余談だが、加入した頃のUnlucky Morpheus音源では、かなり「ヴァイオリンっぽくない」残念な音が出ていた。あれはミキシングの人があんまりヴァイオリンの音を生かせていなかったのか……数少ない不満の一つ。)
(追記:いま思うと、きっとエレキヴァイオリンですね。KANSASでも同じような音が出ることがあります)

そしてドラムのFUMIYA。この人に関しては単純に化け物だ。Galneryusと掛け持ちしていたというだけでも、その化け物度合いが伝わるだろう。あと個人的には、聴いていてドラムが気持ちいい。手数の多さが自然と生む緩急だろうか。この気持ちよさを感じるバンドはあまり多くない。

優勝する楽曲たち~最速最強から古典まで

あんきもに関しては、もうこれがベストメンバーだろう。誰を足しても誰を引いても成り立たない。どのメンバーも替えがきかない。そのうえ、彼らの音楽は個人の技量をはるかに超えたところに、Unlucky Morpheusというバンドの総体として存在している感じがする。
ただ楽曲が「いい」だけではない。メンバーのスキルを生かし切りつつファンのど真ん中に刺さる楽曲揃いなのだ。

たとえばプチバズしたこの楽曲「Top of the "M"」。

歌詞がMリーグの世界というのも強烈だが、見るところはとても多い。
まず紫煉がギターを持っていない。Fukiのド真ん中ハイトーンボイスの陰に綺麗に入り込み、楽曲全体の谷を作る。小川のベースは丁寧の極みと言っていいほどで、結果として全パートの動きが驚くほど際立つ。Jillのヴァイオリンはヴォーカルの後ろで鳴る(一方、意外と弾いてないパートもある)。FUMIYAのドラムは完璧すぎるほどの緩急を生んでいる。途中でギターを持ってくる(負担がかからないようにスタンドにセットしてある)紫煉と仁耶のツインギターソロなんかメタルど真ん中で優勝じゃないか。
この緩急のつけかたについては、ヘヴィメタルとか関係なしに、文句なしにナンバーワンでしょ、と思ってしまう。

さらに「Top of the "M"」を受けて、同じテーマでもう一曲作ってきた。このフットワークのよさ、求められているものとやりたいことを自然と一致させる作曲センスが、あんきもの何よりの強みだろう。

Fukiのボーカルが完全にキャッチーに振り切れ、ヴァイオリンをリフの主旋律へ。FUMIYAのドラミングは冴え渡る。自分たちの独自性を知り尽くしているからこそ、こんな正直でまっすぐな曲が書ける。これだけで、もう並みのバンドじゃないでしょ!?

ここまでオーディエンスや状況を理解できるバンドだからこそ、自分たちのリスペクトをためらいなく表現することもできるのだ。
アルバム「Unfinished」の最終曲、ブラジルのヘヴィメタルバンド・ANGRAの創始者、アンドレ・マトスへ捧げた楽曲「Carry on singing to the sky」。

強烈なヴァイオリンのイントロが耳に残る。ボーカルは英語だ。これまでの曲と違い、展開はやや一本調子になっている感じがするが、おそらくヘヴィメタルど真ん中の雰囲気を意図的に作ろうとしているのだと思う。
サビのハイトーンは、もうFukiにしか出せない響きだ。

イントロはシューベルト「未完成」、ギターソロはベートーヴェン「月光」、ヴィヴァルディ「四季」冬、パガニーニ「24のカプリース」24番からの引用をベースにしてできている。そしてそれぞれ、Angra「Carry On」、Viper(アンドレ・マトスが最初に結成したバンド)「Moonlight」、Angra「Evil Warning」、Angra「Angels Cry」で引用されているフレーズでもある。
また、歌詞の中の「There' s a meaning to life」は「Carry On」のサビで使われている重大なフレーズだ。
つまり、この引用こそが、アンドレ・マトスへのリスペクトであると同時に、Unlucky Morpheusのルーツであるネオクラシカルメタルへのリスペクトである。

https://classic-variations.com/4157.html

引用とは歴史を借りるということであり、歴史を引き継ぐという意志表明でもある。メタルを知っている人ほど、この曲で熱くなれるはず。

最後にこの曲を紹介したい。ライブ盤の「Change of Generation」。

これ、オケ(楽器の演奏者以外の音)が最小限しか入っていない。(もしかしたら入っていないかもしれない、イントロのキラキラはメンバーの音じゃないよね)
非常にあんきも的な曲で、まっすぐ進んでいるようでしっかり緩急がついて、展開に飽きが来ない。間奏パートは超絶バイオリンとツインリード! しれっとユニゾンしている後ろのベースにも注目してほしいし、アウトロの完璧なギターソロで悶絶してもらいたい。しかも、楽曲の位置は、ライブ終盤。ここまで演奏できるバンドが日本にいたのか!? って思ってほしい。

アンコール~未知なる東方ヘヴィメタルの沼

「断罪は遍く人間の元に」。原曲は東方より、「信仰は儚き人間の為に」。

東方を全く知らない私にとっては、「東方沼絶対深いだろ! これ落ちたら一生使うだろ!!」と思ってしまう。あんきもに任せたら何でも最強ネオクラシカルメタルにしちゃうんだろうな、ということがよく分かる。
なお、ピアノフレーズから大疾走する間奏の展開は、Angra「Z.I.T.O」の引用だと思う。しかしツインギターにヴァイオリンまでぶっこんだ猛烈な豪華さは、完全に当時のAngraを超えているのは間違いない。