#スキな3曲を熱く語る Yngwie Malmsteen/Royal Hunt/茅原実里

せっかくの企画なので、単品でも死ぬほど語れる楽曲たちをまとめて語っちゃいます!

Yngwie J. Malmsteen's Rising Force "I'll see the light, Tonight"

スウェーデンから現れた若きギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンの野心を世界に突きつけた名盤「Marching out」の一曲目。この瞬間のイングヴェイにしか出せない、最強のメロディーと最強のギターソロが詰まった楽曲。

そもそも最初から、リフがシンプルかつかっこいい。メロの後ろでシンプルに鳴らしてるのも猛烈にかっこいい。メロとサビと二種類のメロディーしかない超シンプル構成なのに、メチャメチャかっこいい。実は歌詞がスッキリしていてストレートに音楽を聴かせてくるのも素晴らしい。ギターソロに入るととにかく音がクリアで速くて美しくて輝いている。緩急がしっかりしていて無駄がなく、ワイルドに弾いていながらかっちり戻ってくる。
これ以上何も足せないし何も引けない、完成しきったフレーズはイングヴェイの最高傑作。この時代のギターサウンドは、まさにクリスタルサウンド。

「Marching Out」を世界リリースした(ファースト「Rising Force」は日本限定だった)1985年当時のイングヴェイは、超新星として世界中に輝いていた。イングヴェイの成功を見たシュラプネルレーベルが大量にギタリストをデビューさせる(1986-)直前といったところか。前年の1984年にはVan Halenが「1984」をリリース、デビュー前のイングヴェイとも親交のあったロニー・ジェイムス・ディオはDIOで「The Last In Line」をリリースしていた時代。まさに速弾きと様式美、Rainbowの延長線上の物語が世界を席巻しつつある時代だった……。

この曲でもうひとつ思い出すのは、日本で開催されたメタルフェス、2013年のLOUD PARKだ。
アルバム「Fire And Ice」でオリコン一位を獲得したり、イングヴェイの夢であった、エレキギターが第一ヴァイオリンを演奏する協奏曲「Concerto Suite for Electric Guitar and Orchestra in E flat minor Op.1 - Millennium -(邦題:エレクトリック・ギターとオーケストラのための協奏組曲 変ホ短調『新世紀』)」のライブ録音を実現させるなど、イングヴェイと日本はとにかく縁が深い。

そもそも彼のソロアルバム「Rising Force」を実現させたのは日本のレーベルだし、Rainbow大好きな日本人の下でグラハム・ボネットのギターを弾いたAlcatrazzからすべてがつながっているのだ。
ところがふたを開けてみれば、フェス自体が大混乱。2日前にはイングヴェイの次に出てトリを務めるはずだったKing Diamondが突然のキャンセル、イングヴェイ出演前日はEUROPEのライブが完璧すぎてヘッドライナーがガラガラ、当日は昼過ぎに登場したBABYMETALがネットで大炎上(のちに伝説と化す)。突然トリに昇格したイングヴェイは、ステージの上手半分を自分の機材で占め、下手の隅っこにベースとドラムとキーボードを追いやる、伝説的な俺様ステージングを披露して観客を唖然とさせた。

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しかも、開演前からずっと、ギターサウンドに大きなノイズが乗っていた。弾けば収まるが、止まればノイズ。サウンドのこだわりが誰よりも強い王者・イングヴェイが機嫌を壊さないわけもなく、ベースのメンバーが間を埋めるMCをするが、その内容がイングヴェイへのおべっか全開、ちょっとでもメンバーが盛り上がるとステージ上でイングヴェイに睨まれる始末。
そんな中、奇跡的にノイズが収まり、イングヴェイが奏でたのが「I'll see the light, Tonight」だったのだ。これまでのストレスをぶちまけるかのようにイングヴェイは弾き倒す、全盛期のあのクリスタルサウンドが戻ってきたかのような美しさで。

イングヴェイはやはり王者だ、と感じた思い出。たとえ最新作がクソでも、いつか正気を取り戻してくれることを願うばかり。

Royal Hunt "Half Past Loneliness"

デンマークのネオクラシカルメタルバンド、Royal Huntの楽曲。メンバーが大きくチェンジし、1990年代の2代目ボーカル、D.C.クーパーを再復帰させたアルバム「Show Me How To Live」(2011)に収録。

こっちにもLOUD PARKの思い出がある。中古CDショップで買った、D.C.クーパー時代の「Moving Target」からRoyal Huntにハマり、その予習だけでLOUD PARKで見にいったら、なんと名盤「Paradox」楽曲を大量に入れた特殊構成。そっちはこの時点では聴き込んでいなかったため、ハマったのはライブ後だった(めっちゃ悔しい)。
セットリストの中に一曲、聴いたことはなかったけど、クサくて気になった楽曲があった。それが「Half Past Loneliness」。

Royal Huntは、キーボードのアンドレ・アンダーセンが奏でるシンセサイザーの洪水の中で各楽器が演奏する、というパワーバランスで動いている。リーダーがキーボードなのはレアパターンだが、そのおかげでどの楽曲も作り込みが凄い。アルバム「Show Me How To Live」自体はジャケ写通りのシリアスなアルバムで、かつ大作がみっちり詰まっているが、この「Half Past Loneliness」だけはバンド指向の楽曲。
先行するベースリフにシンセのオブリガードが乗り、Royal Hunt史上一番目立つギタリスト、ヨナス・ラーセンのリフが煌めくイントロに、D.C.クーパーの太く暖かな声が乗ってくると、もう、聴いているだけで感動のあまりに泣けてくる。

サビが超強烈。ここまでは絶対に聴いてほしい。

Half past loneliness I'm waiting for
All my dream to show up at my door
(The clock has stopped at)
Half past loneliness, I'm wide awake
How much more a wounded broken heart can take?

日本語の歌詞を持っていないから自分で訳してみよう。

「孤独半」の中、待っているのだ
夢に見たあなたが戸口に現れるのを
(時計はそこで止まってしまった)
「孤独半」の中、目は冴えている
傷つき砕けたこの心は、これ以上、どれだけ耐えられるだろうか?

「Half past」はHalf past ten「10時半」とかそんな感じで使われる。文意的には「The clock has stopped at Half past loneliness」(孤独を半分過ぎたところで、時計(時)は止まってしまった)という感じではないだろうか。
心に残ったあの人を、時が止まったまま、主人公はずっと待っているのだ。「Half past loneliness」=「孤独半」のまま、時計は進むことも戻ることもない。

言うまでもなくメロディーも強烈なのだ。音符にしてみればとてもシンプルなサビだが、それゆえに引き込まれる。その上、コーラスが全面に乗ってくる。Royal Huntはライブでコーラスメンバーを入れるほど、コーラスに入れ込んだ音作りをしていて、ライブ盤では観客が合唱できるのが魅力のひとつ。

ライブアルバム「Cargo」の映像。何箇所かのライブを編集したアルバムで、私が見たLOUD PARK15の音源も入っているようだ。小室哲哉を彷彿とさせる、三面にわたるシンセサイザーに囲まれながら歌うアンドレ・アンダーセン(身長2m)の怪しげな姿も魅力。ボーカルのD.C.クーパーは、消防士をしながらボーカル活動をしているという。

余談だが、このフレーズに似たものが、スウェーデンのロックバンド、Last Autumn's Dream「It's Alright」(2005)でもメインで使用されている。実力派ボーカリスト、ミカエル・アーランドソン(「It's Alright」は彼の楽曲で、1994年ソロアルバム「The 1」収録)の冷たく清らかなボーカルで聴くと、また別の感動が生まれてくる。
フレーズの独自性なんて音楽の前では無力だ、と強く思う。たとえ同じメロディーでも、アレンジや歌によっていくらでも変化するのが音楽だ。


茅原実里 "恋"

日本の女性声優楽曲。ストリングスとシンセサイザーの上に完璧に構築されたElements Garden楽曲を歌い続けてきた彼女が、2015年にリリースした楽曲は、まさかのストリングス抜き、素直なバンドサウンド。フィーチャーされているオクターブ奏法のピアノで、自然と過去のシングル「境界の彼方」「会いたかった空」の延長線を示唆しながら、音楽性を真逆に振ってきた。
楽器の音がスカーンと綺麗に鳴っている印象があり、そこに素直で明るい歌声が飛び込んでくる。これまで構築されてきた世界観を完全に脱却した音像になっている。

ファンに衝撃を与えたのは、楽曲の展開もさることながら「恋」というテーマそのものだっただろう。過去の楽曲の世界観は、アニメとつながる物語に全振りしたものが多く、時に仰々しく、時にコミカルに振り、そこにシンセとストリングスの洪水を重ねたものだった。ところが一転して「恋」、それもキャラクターのいない等身大の世界に、虚飾のない音の組み合わせ。
率直に言えば、ファンを驚かせてしまったのではないだろうか。

私はこういう曲をずっと待っていた。デジタルではないドラム、しっかり響くエレキベース、ボーカルに寄り添うエレキギター、そして何よりも明るく突き抜けるボーカル。茅原実里とバンドサウンドの組み合わせは、ライブでさんざんやっておきながら、なぜかこれまで真剣に取り組まなかった方向性だった。
2014年「向かい風に打たれながら」はそっち側にやや近いが、歌声が「TERMINATED」などの強いアニソン系に振っていて、妙にDragonforceっぽい展開も相まって、なんか違うなー感があった。
この違い、分かるだろうか?「茅原実里はメタル」だとしても、こっちは私の好きなメタルじゃなくて、Slipknotに近い方のメタルだ。それに対して「恋」はジョー・リン・ターナー期のRainbow、ハードロックだ。

ともかく、「恋」は私の一番大好きな茅原実里楽曲だ。その「恋」を中核にしたアルバム「Innocent Age」は、先述したRoyal Hunt「Paradox」やQueensryche「Operation: Mindcrime」に並ぶ、10年に一度のコンセプトアルバムだと思うのだが、それはまたどこかで書こう。