#アドベントリレー小説 18日目
「アドベントリレー小説」とは、25人の筆者がリレー形式で1つの小説を紡いでいく企画です。
ここまでの物語と企画の詳細は↓から
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『緋色のヒーロー』 #18
「……おかしいな」
ぽつりと呟いた言葉は、マグカップのコーヒーの中へと吸い込まれた。
ただ一人、研究所の中でカナコを待つ。
しかし、待てども待てども、一向に到着する気配がない。
「また乱暴なことしたねえ」
突然発せられたその声の元を見ると、そこにはタイチが立っていた。
「無茶のしすぎは良くないよ——自分にも、他人にも」
俺の方に歩みを寄せ、机に書類を置きながら言う。
彼が机に置いた書類に目を落とす。
もう見飽きるほどに見てきた"活動報告"の4文字が見え、俺はすぐにタイチへと視線を移した。
「……またこんな報告書なんか作りやがって」
ふっと微笑みながら、彼は俺が投げた紙を片手でキャッチする。
俺と同じように恐炎中<インサイド レッド>の使い手であり、形而下に置かれた俺のループを観測する、特殊な存在。それがタイチだ。しかし、どうやら隕石衝突時には大事な用事があるらしく、毎回タイチの協力は得られていない。
「さて」
彼は真剣な顔になり言う。
「カナコちゃんと合流できていないみたいだけれど」
「……ああ。いくらなんでもおかしい。どうなってるんだ、クソ……」
タイチは少し間を置く。
「……それなんだけどね、僕はカナコちゃんが本当は緋色のヒーローではなかったんじゃないか、と思っているんだ」
……突拍子のないその言葉に、俺は思わず呆れ顔になる。
「何を言ってるんだ? カナコが炎の技を使ってたのは見ただろ」
「いやそうなんだけどね、どうやら今の彼女の意識は肉体と分離してしまっているみたいなんだ」
「……どういうことだ?」
「つまり、意識上では自由に動けるんだけども、肉体はそれとは別に通常の曝露者と同じようにループ前の行動を行うから、意識にいる彼女は誰にも干渉できないし、同時に誰からも認知されない。そんな危険な状態になってしまったんだ」
……なんと。果たしてそんなことがあるのだろうか。いや、しかしタイチが言うのだから間違いないのだろう。
「僕はあの真紅のドレス——ちひろさんが着ていたあのドレスに、なんらかの効果があったと思っているんだ。その服にちひろさんの能力が、さながら磁化のように移っていたのかもしれないし、もともとあのドレスが特殊だったのかもしれないし。とにかく、服になんらかの効果があった。そう考えるのが今は妥当だと思うんだ」
……これでは計画が大頓挫だ。こんなの、俺がまた新しく犠牲者を出しただけじゃないか。
……俺は。
俺は……また同じ過ちを繰り返したのか?
もう時間は殆ど残されていないのに……
ちらりと時計に目をやり現在時刻を確認する。
隕石の衝突まで、後4時間——
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