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10年前の私へ / #あなたへの手紙

暗い暗い、何も見えない真っ暗闇の中、ただひたすらに前を向いて突っ走る勇気だけを携えて必死に生きていたあなた。

前ってどちらかもわからないまま、いくら目を凝らしても目標とするゴールテープも見えない状態の日々が始まった。

それを選んだのは紛れもないあなた自身だ。だから後悔はなかった。ただそこには「不安」という魔物がデンと腰を落ち着け、ふと気が緩んだときに突然目の前に現れては意地悪をした。

それは大抵夜の静かな時間、子供達が寝静まった頃。明日も早起きして子供達のお弁当を作らなければいけないのに、気ばかりがせいて心と身体がバラバラになってゆく瞬間に訪れた。

真っ暗な部屋の天井をカッと目を見開いて睨みつけるあなたは、今にもその身体の上に落ちてきて潰されそうな幻想と戦いながら必死にその魔物と戦っていた。

走り続ける覚悟はできている。だからこうして頑張れる。しかし現実を目の前にすると、命と暮らしを守る責任はそのまま底知れぬ恐怖とともに、背負いきれないプレッシャーにすり替わる。

一人でやれるのだろうか。この先にどんな試練が待ち受けているのだろう。

考え出すと眠れなくなった。魔物は頻繁にやってくるようになる。


眠れない夜をいくつ超えてここまで来ただろう。それでもこうして生きていることの奇跡と不思議は、ひとえにあなたの持ち前の楽観主義のおかげだろう。考えても仕方ない。明日になればまた一から頑張ればいい。そうやって一日一日、一つずつ石を積み上げるようにして生きてきた。その「何も考えない」を考える日々は、あなたに色んなラッキーをもたらしたと言える。あくまでもラッキーだ。あなたの功績ではない。

好きなこと、やりたいことしかできなくてわがまま放題だった若い頃。まさか自分が我慢の限界を超えて壊れることになるなんて想像もしなかっただろう。それでもこうして生きてこられたのは、その経験から学んだ「無知の知」に気づきながら少しずつ成長してこられたからだ。

この先の10年間はそれまでの人生とは比べものにならないくらい、しんどくて大変かもしれないけれど、それまで持っていた薄っぺらで下らない価値観を悉くぶっ壊しながら、まるで道なき道を開拓してゆくブルドーザーのように、力強くしたたかに進んでゆくのだ。

前に進むことも後ろに戻ることも自由に選べる立場になった時に初めて見えてくるものがある。その自由は一瞬、あなたに格別な景色を見せてくれるだろう。それまで見たことのないもの。それは美しく光り輝いているように見えて、実は辛く悲しい現実と背中合わせであるかもしれない。だけれど、その枯れ果てることを知らない持ち前の好奇心をもって、その先にあるものを見届けたくはないか?その山は、いつかは越えなければならない試練の山だったことに気づく時、初めて今その現状にいることの意味がわかるだろう。

そこへ行ってみないと気づけない課題が、人生には山ほどある。しかし辿り着きたくない人はハナっから行ってみることもしないだろう。何故なら辛い試練をわざわざ引き寄せる事はかなりの体力と精神力が必要だからだ。そんな事しなくても楽に生きていけるのに。そう言ってバカにされるのが関の山かもしれない。

だけれど、あなたはそれができない。できないのなら前に進むしかないのだ。自ら火中に飛び込んで、痛い思いをして初めて学ぶのだ。そうして得られた新しい世界を想像してごらん。きっと生まれてきた意味を、今生の課題をやっとそこで獲得できることになるだろう。

しかし、たった10年で分かったような顔をしてはいけない。その先、少なくとも3年間は問題は続く。その3年をクリアして初めて、もしかすると本物の自由というやつを手に入れることができるかもしれない。できるかどうかはあなた次第だ。物理的な数字はあくまでも一つの問題解決にかかる時間であり、あなたの人生そのものを根底からクリアにしてくれるとは限らない。

そもそも人生をクリアにしようなんて考えることが思い上がりというものだ。あなたの人生はあなただけのものであると同時に、あなたは一人きりでは何事もなし得ないということをもっともっと学ばなければならない。

それは人とのつながりであったり、人への、あるいは人から受け取った思いや言葉の数々の有り難みに気づくこと。それによってあなたが得られた莫大な課題や恩恵は、あなたが生きていくための道標となってくれるはずだ。


何故こんな手紙を10年後の未来から送りつけてきたのかって?

それはね、今のあなたがあまりにも何も知らなさすぎるから。そして何も考えなさすぎるからだよ。あなたはあなた自身のことも知らないことが山積みだ。もう既に人生の折り返し地点は過ぎているというのに。もう少し焦ったらどうだい?

10年後のあなたは少しは自分のことが分かりかけているようだよ。まだまだ先はあるけれど、先があるというのは幸福なことだ。明日、世界が突然終わるかもしれないとしても、先があると思って生きていくことはきっと幸せだ。

さて、魔物はいなくなったかな?

人生はこれからだ。


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親愛なる水野うたさんの企画に参加します。


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あとがき

「 誰か一人に宛てた手紙を書く 」というお題に向き合った時、私は今、誰に何を伝えたいだろうと考えました。これまでの人生で感謝の気持ちを伝えたい人は山ほどいます。一人に絞る事は到底できません。それなら、これまでの人生で一番キツかった頃の自分に向けて、一発「喝」を入れてやろうと考えました。うじうじしてんじゃねぇ!まだまだ先は長いんだぞ、という気合いの言葉を10年前の自分に宛てて書いてみようと思いました。人生は人との出逢いに助けられることが山ほどあります。それは決して当たり前の幸運ではないのです。そのことに気づけるかどうかでその先の人生をより良い方向に定めていけるのだと確信しています。

さぁ、今後の課題は何だろう。常に考えながら、もがきながら、成長しながら、さらに学びを深めていきましょうや。


#あなたへの手紙コンテスト  





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