見出し画像

闘病生活-その河の向こう-|2003.05.31

社会人になってから二度目の入院が悲惨だった。会社で仕事をしているときに急に「ぶちっ」と音がした。胸には激痛。みるみる顔面蒼白に。先輩に「帰ったほうがいい」と言われるくらいには顔色が悪かったようだ。地下鉄に乗る頃には普通に歩くこともできず座っているだけでも我慢できないくらいに胸が痛い。偶然休みだった父に駅まで迎えいに来てもらい、そのまま病院へ。

病院到着後、通常の気胸の処置を受けるけども出血が止まらない。両手両足がどんどん冷たくなっていき、目の前の景色もぼやけてくる。ここから徐々に痛みや不安なんかが消えていく。不思議と「死ぬかもしれない」なんてことは思いもつかなかったし、逆に治るかどうかなんてことも考えなかった。ただただ目の前の現実が苦痛で1秒でも早く終わって欲しかった。結果がどう転ぼうが関係なく終わって欲しかった。

小さな石ころと硬い土の道。左右は背の低い雑草が生えている。ずっと向こうには河が流れている。そこにはひとつだけ橋が架かっている。遠くてよくは分からないけども、おそらく橋なのだろう。橋の向こうには一面の花畑が見える。地平線の向こうまでそれは続いている。理由は分からないけども、その場所はひどく幸せな場所に見える。なんとしてもその橋の向こうに行きたい。そういう思いでいっぱいになる。一歩踏み出す。転がっている石ころを踏んでしまい次の一歩を諦めてしまうくらいに痛い。なんだろう。スーパー銭湯にある丸っこい石の歩くやつ?あれを歩いてる感じ。次の一歩を踏み出す。やっぱり痛い。もう諦めよう。顔をあげると相変わらず地平線の向こうまで花畑は続いている。けれどもあの橋まで辿り着ける自信がない。あっさり諦めて振り返った。

看護師が絶叫している。目の前にはマスクをした大人たちが数人。その中のひとりが絶叫している。あれ?ドラマで見たことのある景色。手術室だ。手術台だ。ここは。あとから聞くと麻酔から覚ますために一度起こしたそうだ。理由は忘れてしまった。長い長い手術のあと、集中治療室へと運ばれる。躰にはなんかいっぱい線が繋がれている。またここに戻ってきてしまった。諦めないであの橋の向こうに辿り着いていたならば、あの道はどこまで続いていたのだろう?誰が望んだのか二週目の人生の始まりだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?