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事業ありき~お役所仕事の先に

地元熊本のニュースを観ていると、行政の最も悪い部分が露呈してきたなと感じます。『お役所仕事』とも揶揄される行政の仕事の進め方には、さまざまな問題点が指摘されますが、その中の最たるものは、「一度やると決めた事業は、環境が変わろうが、計画の根本が変わろうが、遮二無二進められる」ことではないでしょうか。熊本県が進めようとしている、熊本空港とJR豊肥線とをつなぐ『空港アクセス鉄道』が、まさにそんな状態に陥っています。

『空港アクセス鉄道』は2020年3月の県知事選挙の直前に急きょ持ち上がった構想です。熊本空港は都心部から離れた場所にあり、交通アクセスの悪さは以前から指摘されてきたことでした。その改善に向けて色んな構想が飛び出すものの、いずれも莫大な事業費がかかり、費用対効果や採算性の壁が越えられずに消えていくばかり。それが突如として選挙前に打ち出された鉄道構想は、JR豊肥線の三里木駅と空港とを結び、その間に中間駅を設けて、県立総合運動公園や免許センターの利用者だけでなく、新たに沿線に工業団地を造成することでさらに鉄道利用者を増やし、長年越えられなかった壁はクリアできるとされました。当初から私にはかなり見込みの甘いずさんな計画と映ったものです。

それがここに来て、つなぐ駅が変わり、路線も変わり、計画地とは全く違う場所に大型の工場誘致が決まるなど、前提条件も周辺環境もガラリと変わることになりました。さらに当初計画では想定されていなかったコロナの影響も、一時的な落ち込みですぐに元に戻るという考えには疑問です。それでも『空港アクセス鉄道』は、当初打ち出されたものとは似て非なるものに変わったにも関わらず、これまでの延長線上で進めようとしています。

スピード感も大事でしょうが、せっかく見直すチャンスがあるにも関わらず、なぜその機会を有効に使おうとしないのでしょう?
●鉄道だけにこだわることなく、自動運転や新交通システム等の導入も視野に入れ、空港アクセスの改善を考える
●熊本都市圏の交通問題は空港だけにあらず、空港を含めた都市圏の公共交通ネットワークの再構築にこの際取り組む
●そこに新たな工場建設や道路計画も含めた周辺環境の変化に伴う交通需要の変化を見込む
●それらを含めて、あらためて関係者を集めて公の場でしっかりと議論をし、方向性を決めていく。

なぜ仕切り直さないのか、
国との関係で補助金が使えなくなる?
他の補助事業に影響を受ける?
もしかしたらメンツ?
いずれにせよ事業の重要性に比べれば大したことではありません。

そのプロセスを経ないままに事業ありきで突っ走れば、結果的に途中で行き詰まるか、完成したとしても使い勝手が悪く採算の目標にも到底届かないような事業になることは火を見るよりも明らかです。

関わってきた者の責任としてもしっかりと注視しておくつもりです。

熊本日日新聞朝刊(2022年9月29日掲載)

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