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自然との共存、自然の力を生かす精神

熊本県美里町釈迦院には日本一の石段があります。今日はその石段のある山に入り、林業家の方から話を伺ってきました。

私が山に深く関心を持つきっかけになったのは『令和2年7月豪雨』。球磨川流域では、50人もの尊い命が失われました。水害は河川が氾濫することで起きると思われがちですが、実はそれだけでもありません。思いがけないところから水や土砂が襲ってきて、あっという間に家屋等が飲み込まれてしまう。そのことは、2012年に熊本県や大分県を襲った豪雨災害や、2017年に福岡県や大分県を襲った豪雨災害でも実際に起きたことです。

降った雨が河川の支流に流れ込み、そして本流に集まり、海へと流れ込む。その途中で堤防が決壊したり、堤防を越える『溢水』を起こしたり……それがこれまでの水害の基本的な考え方でしたが、想定を上回るような雨が降り続けば河川とは関係なく、山から一気に集落を襲うことも珍しくなくなっています。一昨年の球磨川流域でもそれが起きています。その原因は、もちろん大雨でもありますが、雨量の大半を受けることになる山にもあるのです。

実際に球磨川流域の山に入ってみると、辺り一面が伐採されて泥がむき出しになったところの土砂が崩れ落ちていました。下草刈りや枝落とし、間伐など、ほとんど人の手の入らない山の木々は『えんぴつ林』と呼ばれるほど、一本一本が細く根も浅いことから、少しの雨でも木々も含んだ地滑りが起き、それらが集落を襲っていたのです。箱根で盛り土による土砂災害が発生したように、もっと目の届きにくい山の中で起きていることに直視すべきだと痛感しました。

山がそのような状態になったのも、木材価格の低迷や人手不足、山の所有と管理が切り離されたことなどが要因として挙げられます。ただ最近では変化の兆しもあり、農業を例に挙げると、中山間地域などでは小規模でも特色のある農産物を生産することで、地域活性化につなげようとする動きがあるように、林業でも小規模な山を管理して、環境面にも配慮しながら林業を営もうとする人たちが増えてきています。今日お会いしたのは若手の林業家とその師匠のような存在にあたる方でした。

木材を伐り出すにも道が必要であり、山の中に道を作ることが林業を始めるための第一歩です。徳島県の林業家であり道作りのプロフェッショナルの手がける現場を拝見し、直接話も伺いました。専門的なことは割愛しますが、おっしゃったことで特に印象的だったのは「道を作るにあたって、木一本たりとも傷つけず、石一つ落とさず、虫一匹殺さない」。自然と共存し、自然の力を活かす精神です。先ほどの水害は、ある意味では、自然を軽んじ続けてきたがゆえに起きた災害といえるのかもしれません。自伐型林業、環境保全型林業、呼び方はさまざまですが、その考えをもっと広めていくことで、山を守り、川を守り、私たちの暮らしを守っていきたいと思っています。


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