バイデン大統領の支持率回復はいかに?
米国では11月の中間選挙を前にして、バイデン大統領が学生ローンの一部返済を免除する方針を発表し、波紋が広がっています。
その内容は、年収12万5000ドル(約1700万円)以下の借り手に対し、学生ローン返済を1万ドル(約136万円)免除、ペル・グラント助成金(低所得者向けの連邦政府の補助金)受給者は、1人あたり2万ドル(約270万円)減免されるというものです。対象者は約4300万人、今後10年間にわたる連邦政府の負担額は約3290億ドル(約45兆円)になるという試算も発表されています。日本でも給付型奨学金が拡充されつつあるとはいえ、桁違いの事業規模です。
今回の政策は2020年の大統領選でバイデン大統領が掲げた「学生ローンを一定額免除する」公約を実現させようとするもの。ローン支払猶予の延長や障害を持つ学生のローンを帳消しにするなどの緩和策は既に講じてきており、苦戦が伝えられる選挙を目前に「支持率の回復を」と、一気にアクセルを踏み込んだとの見方が大勢を占めるようです。この政策に対しては、もちろん賛成意見があれば反対意見もあります。
賛成の中にも、貧困層の恩恵が少ないことから免除額のさらなる拡大を求める声があり、共和党を中心に、すでにローンを返済した人や別の進路を選択した人との不公平感、インフレ抑制が主要課題の中、インフレを誘発するような政策はいかがなものか、などといった反対意見も少なくないようです。その共和党では『大統領令を出すことを禁止する法案』も提出されています。ところが、この政策を公表した後、苦戦が続いていた民主党の支持率が共和党を逆転したとの調査結果もあり、支持率回復の狙いは今のところ功を奏したようです。
私の8月21日付のnote「静かなる有事~日本の少子化対策」では、「子どもを産んだら1000万円支給します」といった仮定の政策から、より効果の高い少子化対策について考えてみました。今回のバイデン大統領が打ち出した政策は、少子化対策とは直結しないものの、生活困窮者または中間所得層に対する支援策なのか、学術研究のレベルアップを狙ったものなのか、政策目的自体がわかりにくいと感じています。事業の優先順位や費用対効果を検討することが少なくなり、「無いよりも有ったほうがマシ」といった程度の事業が増えてきたように感じられる昨今、『財政上のモラルハザード』ともいえる状況に懸念を覚えます。
話は飛躍するかもしれませんが、あるTV番組で、石川県能登市が新型コロナ対策交付金2700万円を使って設けられた『イカキング』という巨大モニュメントについて、経済効果6億円と公表されたことを報じていました。キャスターやコメンテーターが、「以前はこの話題について『ムダ使い』と批判的に取り上げていた。こんなに効果があるなんてすごい。心から謝罪します」と、笑顔で報じていました。しかし、「そもそもコロナ対策として、医療や保健分野に使わずにモニュメントの製作が相応しいのか?」「そこが大事な論点ではなかったのか?」と納得できず、「マユツバの経済効果の数字が示されれば、簡単にお詫びしてしまう、その程度の番組なのか!」と一人で憤っていたら、隣の妻が呆れていました。
米国の学生ローン返済免除の話題に戻せば、日本の少子化対策の参考になるのか、今後の共和党の追求に期待したいと思います。政策論争を通して、優先順位を考え、政策の妥当性や費用対効果をチェックされ、政策は練れていきます。能登市の巨大モニュメントも、事前に十分練った上での事業であり、経済効果も狙い通りなのかもしれませんね。いずれにせよ、今後の展開には注目しています。