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親子二代で至福の時を過ごす床屋のはなし

あなたにとって最も心が休まる場所はどこですか?

私なら迷わず『床屋』と答えるでしょう!我が家の関係者からクレームが入るかもしれませんが(笑)私は床屋を変えない主義です。その理由は「色々と説明するのが面倒くさいから」でもありますが、そもそも心が休まる場を変える必要もありません。

私の行きつけの床屋は、今年2月に享年89歳で他界した父の行きつけでもありました。今や開業して50年以上が過ぎたそうで、お店も桜町という現在の街の中心部から東区の健軍本町へ移転し、建物もモダンな造りとなりました。現在は、比較的私と年齢が近い2代目が引き継いでおられます。

新築オープン直後に熊本地震に見舞われた時には大きく被災され、かなりショックを受けておられましたが、なんとか改修を終えて、現在もお母様と2人で店を開け続けておられます。先代もお元気で、ハサミを握ることはなくなられましたが、時折挨拶に顔を出されます。

その先代から、このお店が開業して一番最初のお客が父だったと聞いたことがあります。亡くなる少し前、病院を転院するときに救急車でこの前を通過したときには、そのことを知らせると表情が少し和らぎました。父にとってそれほど、思い入れ深い場所だったのです。

私が床屋に行く間隔は約1カ月、その日が来るのがいつも待ち遠しくなります。椅子に座ったら毎度「いつもの通りで」。何か言うにしても、夏は「少し短めで」冬は「少し長めで」くらいなもの。そんな私が、ある人たちからそそのかされて「ツーブロックで」と言った時にはとても驚かれました。私にとっては大冒険でしたが、今ではすっかり慣れてしまい、特に朝のセットが簡単なことから不精な私のお気に入りです。

その理由の一つは、座り心地のいい椅子。『理容(バーバー)椅子』というようですが、「我が家に置きたい」と思うくらい気持ちいい魔法の椅子です。マッサージやヒーターなど特別なものが付いているわけではありませんが、あの革張りの空間にすっぽり入ると、全身が溶けてしまいそうになるほどリラックスした気分になります。

映画の世界では洋の東西を問わず、マフィアのボスややくざの親分が襲われたりする場所でもあるのですが、そんな心配は一切なく、カミソリを喉元に突き付けられても平気です(笑)。背もたれを倒され、顔そりの段に入ると、深い深い眠りについてしまいます。父も最後まで通い続けたように、私も、例え髪の毛が無くなったとしても通い続けると思います。

さて、前回から1ヶ月が過ぎました。そろそろ至福の時を堪能しに行ってきます。

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