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合歓 - 華、蝶々 後日譚 2

 ここまで来たら、と山本有三は思う。いや最初からそのつもりだった。
 特務司書は一定の条件下で身体が男から女へ変化する。激しい情欲を伴って。その情欲の吐け口になるつもりで山本は特務司書を探したのだから。

 かつて『新思潮』の浄化の折、転生は果たしたものの、松岡譲は久米正雄との負の因縁からその身に残る侵蝕に苦しんた。『新思潮』を浄化し松岡の転生を援けた久米も負の因縁を免れず、互いの侵蝕が互いに影響し合い、松岡と久米を喪失に陥った。特務司書は同時補修で彼らを救った。が、特務司書の術者アルケミストの力が暴走し特務司書の内にある未知の女が現れた。彼女が久米の喪失に影響を受け面会謝絶の補修室に迷い込んだ山本を誘惑してしまった。
 特務司書の自宅に彼女を連れ帰り同衾した山本が万事を胸一つに収め、起こりうる不測の事態に備えて彼女から合鍵を預かったのはこんな経緯だったか。

 あの時は不意打ちだったけれど、今回は。気持ちの準備は出来ている。大丈夫。何も知らない他のコたちが巻き込まれるよりは。彼女の匂いがまた濃くなる。百合のような茉莉花のような梔子のような甘い香りが山本の意識に靄を掛ける。噛みつくように口づけてくる彼女の身体を受け止め襯衣の釦をはずす。特務司書は素肌にそのまま襯衣を着るのか、胸の双丘が転び出る。彼女も山本の襯衣の釦をはずそうとするが、口吻に気を取られているのか、気持ちが焦るのかうまく外せないでいる。こちらから舌を絡め吸い上げると、釦をいじる指先が止まる。息を継ぐのに唇を離し、見せつけるように釦を外して襯衣を脱いだ。ごくりっと彼女の喉が鳴る。髪色が金が混じる銀から瞳の色で塗りつぶしたような漆黒に変わっていた。

 見覚えのない女が腕の中にいる。あの時は容は女だったけど、見目は特務司書だった。彼女の匂いが更に濃くなる。匂いに引きずり出された獣欲に山本の身体は震えが走る。欲しい、この女が。そうとだけしか思い浮かばない獣欲には憶えがない。
 山本の思いを感じ取ったのか、彼女が山本の肩を掴んで膝立ちになる。勝ち誇ったかのような顔を近づけて口づける。下唇を挟み扱き上げるように吸い舌先で自分の唾液を塗り込めるように舐める。上唇も同じように挟み扱き上げ吸い舐める。唇と唇が触れ合う感覚を楽しむように、ちゅうと音まで立てながら繰り返す。口吻をされるがままに受ける山本は、襯衣の前を無防備に広げた彼女の身体に手を伸ばす。掌に収まる乳房の重みと柔らかさを愉しむと、襯衣の上からじれったいほどゆっくりと指先で撫で上げるて撫で下ろす。彼女の気が唇から逸れないようにゆっくりと。感覚だけで探るような愛撫は時おり彼女の乳首をはじく。その度に、ピクリと肩を震わせ軽く息をく彼女に、強請るように山本は唇を寄せる。それを何度も繰り返すうち、膝立ちが辛くなってきた彼女が、山本の腰にぺたりと座わる。心地よいで留まる刺激では飽き足らなくなった山本は、凭れていたヘッドボードから身体を起こすと彼女を仰向けに押し倒した。前立てのジッパーを下ろし下履きごと洋袴を引き抜く。
 白い敷布の上に男物の襯衣一枚をまとった彼女が情欲に蕩けた瞳で山本を見上げた。左手を項に添えて肩で踏みしめている髪を引き抜いて、紅に染まった唇で笑う。その唇を山本は右の中指でなぞり、咥内へ突き入れる。指の侵入を待っていたように、彼女は薄目を閉じ、舌先を指に這わせる。指の腹、わき、爪と一通りに舌先が動くと、口先がつぼみ、唇が指の形を確かめるように中指を押し出す。指先が唇に触れると次は薬指も一緒にとばかり口を開き、指を迎え入れようとした。山本はそれには答えずに中指だけを彼女の舌の上に乗せた。彼女はちらりと恨みがましい目を向けたが、すぐに山本の指を舐める。しゃぶりつくすように根元まで。それを見ながら山本は腰の釦をはずし、ジッパーを下ろす。彼女の右手がそろそろと山本の牡を探る。
ぺしっと山本の左手がそれを叩き、指を組んで結ぶと身体を倒して彼女の上にのしかかる。咥内の指はそのまま彼女の舌に預けて、耳元に口を寄せて言った。
「いけないよ。まだ我慢しな」
 言葉を耳の中に封じ込めるように息を吹きかけ、耳たぶを咥え、指がされているように、舐め、甘噛みをする。舌先で耳たぶの裏を掠め舐め、首の輪郭を舐めとるように舌を動かす。舌先で皮膚の、息を吸い込んで彼女の香りを味わいながら、はぁと息をつく咥内を指の腹で撫でまわす。十分に唾液を絡めとった指を引き抜くとつぷりと音がした。いなくなった指を追いかける唇を一筆辿ると、唾液で濡れたままの指は左の脇から腰へ擽るように上下する。山本の舌先も右の中指に呼応するように、彼女の身体の前面を這いまわる。顎下から喉を辿って鎖骨の間の窪みに。窪みに溜まる何かをちゅうと吸い上げ、窪みの底を舐め上げる。はふぅと息ともつかない声を上げて彼女の体が震える。薄い皮膚を吸い上げて甘嚙みすると舌先が腹の方へ下ろす。鼻先が胸の谷間で降りると舌先を収め、山本は頭を右の乳房の預けた。山本の頬と汗で湿った彼女の皮膚が触れ合う。
 右手指は休まず彼女の身体の輪郭を辿り続ける。焦れたように彼女が腰を揺らす。左手で山本の右手を掴むと秘所に導こうとする。指先に彼女の叢が触る。その一房を摘まみ、左右に揺らした。彼女の左手に力が入り、触って欲しいと訴える。彼女の体温が上がり、匂いが増してくる。百合と茉莉花と梔子とが入り混じったような匂いが山本を押しつぶすように香る。全身で山本を絡み取ろうとする香り。ぶるっと山本の何かがその匂いに怯え、嵌りこんだら抜けられない、どこまでも深く落ち込んでしまう予感に身を震わす。山本は彼女が言いかけた言葉を想像する。ああ、それも仕方ないね。
 凭せかけた頭をあげ、舌を伸ばして、左の乳房を元から先へ舐め上げる。先端を舌先でちろちろと舐める。いきなりの刺激で、彼女の喉から嬌声が漏れ、身体が跳ねる。唇で挟んで吸い上げると、彼女は左手の甲を口に当て、漏れる声を押し殺そうとしている。舌先でつつき、舐め上げ、唇で挟んで吸い上げる。それを繰り返しながら、もう片側は左手の指先で撫で回し摘まみ上げる。一度大きく声を出したことをきっかけに、彼女の口からはため息と欲の消火を乞う言葉が五月雨に漏れ出す。腰が揺れ、膝を開き、山本を迎え入れようとする。彼女の香りが更に強く山本を包んだ。
 左手を乳房に添えたまま、山本は上体を起こし、彼女の身体を舐めるように見た。全身の皮膚が茜に染まり、うっすらを汗が浮いている。情欲の熱に霞む漆黒の瞳が更なる刺激を求めて露を湛えて懇願する。右脚は寝台はみ出して垂れ下がっている。立て膝の左脚だけを支点にして腰がうねる。彼女の右手が自分の腰をなぞり、太腿の裏に潜り込むと右脚を寝台に引き上げ抱えこむ。右手の人差し指で門渡りから自分の花を撫で上げると入り口を見つけて中指を差し込む。花の雫が中指を伝う。ぶるっと肩先を震わせて刺激を堪能すると、瞳を山本にあて誘うよう口元を歪めた。分かったよ、我慢比べはお仕舞にしよう。洋袴を下履きごと脱ぎ捨てると山本ははち切れそうな牡を彼女に突き立てた。

<了>



 

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