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空気階段 第4回単独ライブ annaと「その日の天使たち」へ



空気階段単独ライブ#04 「anna」のお話をさせてください。
わたし自身様々な事情により今回のライブは配信で鑑賞したんですけれども......本当に罪なものだなと。なにが罪って、アーカイブの視聴期間を終えて1週間が経過した今、猛烈に脳がannaに侵攻されてしまって、もうどうしようもないんですよ。仕事をしていても、料理をしていても、誰かと通話をしていても頭の片隅に居座るannaと目が合ってしまう。
擬人化したannaに手を引かれ時には目隠しをされ、耳元でなにかを囁いたかと思うとYMOのメロディに合わせてプールへ突き落とされる。水面へ顔を出して助けを求めると、恋人の腕よりも先にannaの腕をつかんでしまうのだから、わたしはもうお手上げだ。
annaがこの世に生を受けた人間でなくて本当によかった。だってこんなの出逢ってしまったら最後、すべての垣根を超越してわたしはannaから離れられなくなってしまうだろう。
こんな魔性み溢れる怪物を生み出してしまった空気階段のおふたりにわたしは完全降伏しつつ、エッセイスト・中島らも氏の一節をannaの鑑賞中に思い出し、重ね合わせた記憶をここに綴りたいと思う。

※以下あらすじ含む軽度のネタバレを含みますのでご注意ください。

op

「こんな人生もあるよね!」
そう言って自身の不幸を笑い飛ばしたもぐらさん演じる◯◯(伏せます)。
てっきりかたまりさん本人に起こった現状悲劇、将来的には喜劇(となっていてほしい)をもとにしたコントかと思いきや、この人物がのちにストーリーの中心軸となるとは...これがannaを何度も見返したくなる所以。


27歳

スランプ真っ只中のミュージシャンが居酒屋にて常連の男と久々の邂逅を果たす。自身の将来を「27クラブ」と重ねて憂うミュージシャンに男はある秘密を打ち明け始め...

空気階段ならではのショートショート的ストーリー展開と持ち味が炸裂していたと思うコント。空気階段のキャラが語る「トンデモ夢」センスの奇抜さが本当に好きで好きで、毎回よくこんなの思いつくなぁ〜とぴえん顔で感動してしまう。もぐらさんのもさもさしたあの声で得意げに語られるのがまた一入。


SD

"SD"と名乗るサイバーテロリスト。彼の全世界電波ジャックを阻止するため自宅へ突入した刑事。しかしその部屋に強い既視感を覚え、記憶を辿ると...

「anna」への断片としてのコントの中でこれが個人的に一番好き。既存コント「ゆうえんち」も好きなのでかたまりさんの頭脳派サイコキャラが好きなのかもしれないけど、いくらなんでも面白すぎた。わたしもリスペクトを込めて会社のPCのパスワードを例のやつにしたい勢い。

メガトンパンチマンカフェ

これはもうね、「メガトンパンチマンカフェ」なの。

もぐらさんがキテレツ店主、かたまりさんが普通のお客さんなのだけど、かたまりさんが普通の(というか素ぽい感じ)で出てくると現実と虚構の狭間が曖昧になってきて、かたまりさんも素でもぐらさんのヤバキャラを楽しんでるように思えてくる。笑
お客さん+かたまりさんの皆でもぐらさんを見守るあの空気感が微笑しい。
とはいえこのカフェもまた重要な鍵となる。


コインランドリー

下着泥棒がコインランドリーで盗みを働いていると、背後から咎める男の声が聞こえてきた。振り返るとそこにいたのは...

ついつい踊り場でお馴染みのあのセリフ「なるほどねぇ〜、深い!」が出てしまいそうになったコント。究極の潔癖で生きていきたい気持ちはわたしもわかるので、もぐらさんのとあるセリフが深く滲みるなどしまして...。各所でかたまりさんの哲学を感じられるのが良いですよね。


銀次郎24

個室ビデオ店を訪れたサラリーマン。店員に薦められたVRゴーグルを着用しDVDの世界に没入した瞬間、謎の機械を持った店員の倉田がそっと入室し...

フリーエネルギーの普及を目指すも叶えられなかったニコラ・テスラをふと思い出してしまった。企業VTRの独特な雰囲気、というかシュールさがたまらなく好きなので、映像ターンは当然刺さった。あの世界線ではあのシステムが世界中に普及するのだと思うと...狂気的であるものの合理的でもあるんだよなぁ笑


Q

これに関してはシークレットの方が良い気がするので詳細は割愛。
ファンの方の考察で「青春の介入」だと推測している人がいて「なるほどねぇ〜、深い!」と膝を打った。踊り場の「介入」をコントに落とし込むことで「現実の『介入』がコントに介入」する図式になるのがステキ。


anna

掃除当番のシマダとヤマザキはラジオパーソナリティー・チャールズの"勇気ラジオ"リスナーであることきっかけに打ち解ける。互いのラジオネームを明かし、投稿を続けては2人だけの秘密を増やしながらゆっくりと距離を縮めていく。高校の卒業式で想いを伝えることを決心するも、奇妙な「介入」に見舞われてしまいーー

空気階段の単独ライブは美しい伏線回収がなされるのが恒例ですけれども、今回も完璧で美麗な回収劇だった。時間軸の移行も見事で泣けるし笑えるし、これはもう100年後の人類まで語り継ぐにふさわしい傑作に違いないのです。

千秋楽の挨拶でかたまりさんが「物理的に不可能なことを台本に書いていて、かなり削った」と言っていた。あれはおそらく映像だったら可能な"あの"シーンだと思っていて、あの瞬間、わたしの脳内では中島らも氏のエッセイ「その日の天使」が思い出されていた。

一人の人間の一日には、必ず一人、「その日の天使」がついている。憂鬱を笑い飛ばし、絶望の淵で微笑む—。

ここでいう天使とは、多くがイメージする可愛らしい妖精ではなく、辛い時ふいに視界に入ってきたフッと笑える人、モノの全てを指す。かわいい赤ちゃんでも、豊満なおじさんでも、その存在によって自分に取り憑いていた憂鬱が少しでも消え去ればそれはその日の天使なのだ、と著書で中島らも氏は語る。

わたしには、このコントで現れたすべてのキャラたちが天使のように思えた。塞ぎ込んでいるときにメガトンパンチマンカフェを訪れたら、ふらりとコインランドリーに立ち寄ったらーー、きっと彼らは誰かの天使になっているはずだ。
空気階段のおふたりは、そんな天使を生み出すのが本当に上手だと思う。少し加減を誤れば危ない人になりそうなところをチャーミングなキャラとして成立させられるのは一種の才能だ。電車のおじさんも、霊媒師も中華夫婦もおかしな学生もどこか愛らしく思えるのが不思議。

チャールズの声を乗せた電波はすべての天使たちを繋ぎ合わせ、シマダとヤマザキのふたりを照らすのは天使たちが作り出した眩しい光である。この完成されきった「anna」の世界にすっかり浸りきってしまって、わたしはまだまだ抜け出せそうにない。
わたしたちはチャールズにも、シマダにもヤマザキにもそして天使にもなれる。そうやってバトンタッチで役割を果たしながら、日常は作られていくのかもしれない。

ちなみに"勇気ラジオ"の正式名称は「チャールズ宮城のこの時代この国で俺が生きてるからって勝手に勇気もらってんじゃないよラジオ」である。空気階段がつける架空ラジオタイトルは面白すぎる。「としやんと深田エミリーのバレーボール語らせろ!」とか。


今回の単独ライブは2度の延期の末に開催されたもので、スケジュール的にもコスト的にも演者運営ともにかなり大変だったのだろうと思う。無事開催できて本当に良かった...。
ただ、心残りなのは当初のチケットをわたしは持っており、その上最も、最もアレな席のチケットであり、それはそれはもう一生の運を使ったと思うほどの席だったので.........延期そして払い戻しは本当に......ほんとにねぇ......コロナって...なんですかぁ......?なに...これが...これが介入ってやつなのか......??えぇ......



まあ、こんな人生もあるよね!

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