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こーしんくの一生

【生誕】

「おんぎゃぁぁぁぁぁーーーー!!!!!
おんぎゃぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」

病室に響いた声。果てしなくうるさい声。
産婦人科の先生も苦笑いしながら、赤子のこーしんくはサンシャイン池崎に顔負けしないほどの声をあげる。

こーしんくは産まれる前、性別が女だと思われていたもので、名前は「国崎 ニコル」になった。

産まれる前に名前を決定させていたもので、産んだ後の今さら名前を変えられない。

ひどく虚しいニコルの陰茎は、親の失望を連想させる。

しかし、「いくら男で産まれたとしても、結果には抗えないので仕方がない!」
と思った母親は、ニコルにあだ名をつけることにした。

「クンニ」だ。

あだ名は「クンニ」だ。

「くにざき」の「く」の部分と、
「ニコル」の「ニ」の部分を合わせ、
それらを繋ぐ役割の撥音として、間に「ん」を入れる。

その「ん」は、まるで関係代名詞のthatのよう。
whichでもいい?いや人だからwhoか?いや、敢えてここは逆張ってwhomにする?whose?
いや、この文章の場はnote。書き言葉にしないといけないから、thatにしておこう。

そんなことはどうでもいい。
とにかくあだ名は「クンニ」になったんだ。
「クンニ」という言葉自体に大した意味はないが、なぜか愛着が湧くからそうしよう。

以降、国崎ニコル(=こーしんく)のことを「クンニ」と呼びます。

0歳〜4歳

クンニはますます成長していった。
はいはい歩き(四足歩行)、自分で歩く、自分で着替え、自分で食事、いろんなことができるようになった。

しかし、未だにできていないことがある。
それは言語の習得だ。
4歳児になっても、まだ短い単語ですら喋れない。

発達障害かとも思われたが、親は病院には行かせなかった。

これは常識の欠如である行為とも言えるが、産婦人科の先生がクンニのお母さんに向かって

「マリオメーカーの操作と間違えてあなたのおっぱい揉んじゃいました〜笑」

などと意味不明なセクハラを受けたので、どうやら医師を信用していないようだ。
以降、クンニのお母さんはマリオメーカーのことが大嫌いになった。

4歳〜6歳

「Pog2提出できなかった〜」
5歳、クンニは遂に初めての言葉を発した。

Pog2とは何か、提出をするとは何に提出するのか、クンニの親は全く意味が理解できなかったが、初めて日本語を発したことに感動を覚えた。

クンニはひまわり保育園に入った。
母が我が子のことを「クンニ〜」と呼ぶ度に、保育士の人が険悪そうな表情をするが、なぜなのかは分からない。

ちなみに、クンニ母はクンニのことを
「国崎ニコルくん」と呼ぶ保育士を断じて許さないそう。

保育園の卒業式で「国崎 ニコルくん」と名前が呼ばれたときには、クンニ母が怒りのあまり放火殺人未遂をしてしまったが、警察に通報されずに済んだ。

何事の問題もなく卒業した保育園を去り、いよいよ明日から小学生。
そんなときに届いたクンニのランドセルは、朝日に照らされていた。

6歳〜12歳

今日から小学生!
クンニは1年2組になった。
「1年生にしては厳しい先生」という評判の2組の担任は、意外にもクンニに優しく接していた。

クンニはテストでは毎回92点。
「お前おもしれえな」
「毎回同じ点数しかとらんじゃん」
などの小学生らしい絡みを受けるクンニは楽しそうだった。

順当に1年生の生活を終えた後、2年生、3年生、4年生を終えていく。

しかし、ここで事件が発生する。
5年生、クンニは同級生の女子に

「ねえ、一緒にエッチなことしない?」

と言われる。
(以降、同級生女子のとこを「Yちゃん」と呼びます。)

クンニは性知識が全く持っていないので、
Yちゃんの質問に

「うん」

となんとなくで答える。

「じゃあ今日学校の後に私の家来て!
親いないから!」

と言われ、なんのことかはさっぱり分からないがその日Yちゃんの家に行ってみた。

Yちゃんの部屋に入った途端、彼女は裸になっていた。

「ねえ、裸になれる?」

と言われる。

「いやだよ!」
「なんで裸になってるの?」

とクンニは返すも、無理矢理服を脱がされてしまった。

陰毛が少し、少しだけ生えたクンニ(=こーしんく)のちんちんは既に硬くなっていた。

「クンニって知ってる?」

「僕のこと?」

「それも間違ってはいないんだけど、違うよ。」

「クンニって言うのは、女の人のお股を舐めることなの。」

「私に、クンニ、してみて。」か

無言でうなづいたクンニは、クンニをし始めた。

「なんでそんなに声出すの?
なんでそんなにはぁはぁ言うの?」

「今ね、すっごく気持ちいんだよ。」あ

「うっ、イきそう……」

「一旦、クンニやめて…」

クンニはクンニをやめた。

Yちゃんが言う。

「今ちんちんすっごく硬いでしょ?
それを、私のお股に入れてみて。」

実は、Yちゃんとは幼馴染なのでこれに答えるのは少し抵抗があった。

「抵抗が92Ωぐらいあるよ…」

「いいよ。」

「ふふっ、92Ωなんて、なかなか大きな抵抗があるね。少なくとも、中学理科では中々出てこない数字だね。」

その言葉に興奮したクンニは、Yちゃんの女性器にクンニ(=こーしんく)の陰茎を挿れた。

前後に動かす。

体位は正常位だ。

「なんかおしっこ出てきそう…」

「あ、、、」

「なんか、白いおしっこ出てきた」

「すっごく気持ちよかった」

中に出してはしまったが、Yちゃんはのちにピルを飲んだらしいので大丈夫らしい。

そのあと、クンニはYちゃんにいろいろな性知識を教えてもらった。

性の話が終わった後、Yちゃんが聞いた。

「マリオメーカーってやってる?」

「突然ゲームの話?まあやってるよ」

「でも親にはマリオメーカーやってること言ってないんだよね、お母さんがマリオメーカーだけはダメ、って言うから。」

「そうなんだ。マリオメーカーでどんなことしてるの?」

「まあ……難しいコース作ったり」

「どんな難しいコース?」

「……スピードランとか」

「スピードランって知ってる?」

「知ってるよ。」

「もしかして、高密度、みたいなコース?」

「え?分かるの?」

その後、自作コースの話をしたりマリオメーカーのコースの話をしたりで話題は盛り上がった。


学校に行き、家に帰り、つまらないコースを作り、寝てまた学校に行く。

そんな日々を誰にも話さずに続けていれば、いつの間にか小学校を卒業する日が来た。

12歳〜??歳

中学生になったクンニ。
クラスメイトからは
「ニコルって名前キモすぎだろwww」
「男のクセにどうかしてるだろあいつ」

と言われる日々が続く。

彼にとっての唯一の楽園は、もはやマリオメーカーしかなくなっていた。

14歳、クンニはPogChampという企画を目にした。

しかし、当時の彼はそんな大会に参加するほどの制作力があるとも思えず、参加は諦めた。

受験を終えたクンニは、高校生になった。

そこで目にした企画。
「PogChamp Extended2」
前見たあの企画。あれの続編的な大会をやるらしい。

そう思ったクンニはPogコースを制作し始めた。

しかし、思うような制作が進まない。

日にちは刻一刻とすぎる。

没しか生まれない。

開幕だけ作れて、それ以降はなにもできない。

ああ。

つらい。

俺だけ界隈の波に乗れないのか。

嫌だな。


気づけば今日が提出日。

俺は、提出を諦めた。



「Pog2提出できなかった〜!」


無性にそんな声が出てしまう。


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クンニ母は黙っていなかった。
突然、2階から我が息子の

「Pog2提出できなかった〜!」

という声が聞こえた。

それはあの時の声。

10年以上前か。

我が息子が初めて発した言葉。

今でも鮮明に覚えている。

これはなにか、深い因果関係があるのではないか?

そう考えたクンニ母は、急いで2階のクンニの部屋へ駆け上がる。

「Pog2ってなに?
提出するってなに?」

そう、母が問う。

途端、クンニは持っているSwitchを体で覆い被さるように隠す。

「何隠してるの!」

「見せなさい!」

諦めたクンニは、隠していたSwitchを親に渡す。

「何このゲーム。」

「スーパーマリオメーカー?」

「あんだけ買うなと言ったのに?」

「あと、Pog2ってなに?」

少し、間を置く。

「……マリオメーカーの………大会。」

「………?」

全てが揃う。

10年以上も前に、産婦人科医が発した
「マリオメーカー」という言葉。
あのときから、クンニ母はマリオメーカーが嫌いだった。

「どうして…私に…内緒でやってたの…」

「今までの教育、全て無駄だったの………?」

無性に、そんな声が零れる。

涙で溢れた目。

クンニは、少し状況を理解していないような表情をしている。

「そうだよ。今までの教育全て無駄だったんだよ。クンニ。」

「いや、今ではそんな愛称なんか使う必要はないわね。」

「クンニ改め、国崎ニコル。
お前を絶対に許さないからな。」

猛ダッシュで階段を降りる母。

その理由を考察するまでもないまま、猛ダッシュで階段を登る母。


「嘘だろ…………?」


変わり果てた母の光景。手にはライター。

「別に今からお前を殺すわけではないわよ。
まずはこの家、お前の思い出から何もかもまで燃やしてやるわよ。」


幼稚園、家族と行った遊園地でのお土産。
小学校、Yちゃんと何回も一緒に遊んだときのコンドーム。
中学校、バレー部の県大会で3位になったときの賞状。

今では、それらが灰になる姿を見守るしかない。

全ての俺の宝物。

なんで、こうも簡単に…

目の前の炎へ、泣き崩れる。

正気の沙汰じゃないよ。

精子を包んだティッシュのような顔で、30分前まで楽しんでいたSwitchを、部屋の窓から庭に投げた。


「この15年間、俺はなんだったんだ…」


それは、Pog2にコースを提出できなかった悔しさなんか忘れさせるような光景。



全てを諦める。





真っ赤な炎へ、静かに歩み寄る。

熱い温度に対し、本能的に抵抗する能力さえ、消えてしまったのだろうか。




15歳だった新月の夜、庭にはマリオメーカーの画面の
「こーしんく」の文字。


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