競輪GP2021 平原の競輪道と古性の牙

まさに圧巻の走りだった。30日に行われた競輪GP2021。単騎の古性が後続を突き放す圧巻の走りで初出場初優勝を飾った。

戦前、注目を集めたのは関東3車の並び。吉田の前回りはわかっていたが、焦点は高校の先輩後輩の関係にある平原と宿口どちらが番手、3番手回りかであった。これによってレース展開や他地区ラインの戦法も変わってくるからだ。関東ラインの思惑は、これまで幾度となく献身的にラインの競争で体を張って来た平原を優勝させる事にあった。
そのための最善の並び。
出した答えは吉田ー宿口ー平原の並びだった。決定権は先輩という立場に関係なく格や実績、実力からも平原が握っていたはず。結果論になるが、いかにも平原らしいこの選択が最初で最後の勝負の別れ道であった。
平原という男はケイリンという競技において誰よりもラインの競走というものを体現してきた。結果だけを求めて自分だけ勝ちに行く走りをすればタイトルの数はもっと増えていたはずだが、健気なまでにラインとしてチームとしての役割を果たし、仲間の勝利に貢献してきた。結果よりも内容や過程、また勝ちかたにも美学を持ってこだわってきた。
逆に言えば勝ちに徹しきれない勝負師としての甘さや執念が足りないとみる人もいるだろう。だが平原本人も十分にわかったうえで自分が信じる競輪道を一ミリもブレずに貫き通してきた。平原からしてみれば、そのスタイルで勝たなければ意味がないのである。
だからこそのGP9年連続12回目出場の偉業にも繋がったのは言うまでもない。
吉田ー宿口ー平原の並びも平原は次代を担う若手と後輩の二人を信じてレースの組み立てを任せるのと同時にラインの絆というものをこの大舞台で教えたかったのではないか?
これでレース展開もある程度決まったようなもの。宿口が平原の前を回るという事は他のラインを一切出させない作戦をとったという事を意味していた。それと同時に平原の後ろ、つまり関東ラインの実質4番手が一番脚が溜まる位置、つまり優勝に一番近いポールポジションになったのではないか。
そしてスタート直後から平原の後ろには予想通り古性が張り付いた。残り2周。吉田が関東ラインと古性を引き連れて主導権を奪い一気にペースが上がる。古性の後ろには郡司が入り隊列が決まる。競輪ファンにとっては一足早い除夜の鐘のようなジャンが鳴り勝負所。後方に置かれた清水ー松浦のゴールデンコンビが襲いかかる。それに合わせるかの様に
2コーナー過ぎ早くも関東ラインは宿口が番手発進にかかりどこまで平原を連れて行けるかの勝負に出る。
だがここで息を潜め一番脚を溜めていた古性が一気に牙を向く。宿口とほぼ同じタイミングで仕掛けたのである。
これが絶妙なタイミングとなり後続を引き離し勝利を引き寄せる形となった。
セオリーからしたら古性が仕掛けるタイミングはバック過ぎだと思われていた。一番いい位置を確保した古性からしたらゴールにより近い距離で仕掛けたほうが前を捉えたあとも後ろから差される確率は下がるからだ。
関東ラインもこのタイミングでの仕掛けは予想出来ていなかったのではないか。準備する前に行かれた感じだった。少しでも遅くなっていたら平原に睨みをきかされすんなり前を捉えきれなかった可能性もある。体が反応したと言うよりは最初から狡猾に狙い澄ましていたようにすら見えた。
古性の勝負勘と嗅覚、何より勝負度胸がもたらした勝利だった。
たらればになるが、もし関東の並びが吉田ー平原ー宿口であったなら平原との間に一車分の距離と宿口がサポート役に徹すれば乗り越えるのに障害となるため勝負はわからなかったのではないか。いずれにしろハイレベルな攻防であったのは間違いない。
スナイパーのような冷静さと獰猛な虎のような爪と牙を研いで一瞬の勝負に賭けた古性。
この大舞台でも自然体で己の美学、競輪道を貫いた平原。敗れてなお、強さと選手としてと言うより人間としての器量が際立った。
勝敗以上の人生ドラマを垣間見れた2021年のGPであった。



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