見出し画像

斎場御嶽でブラタモリ(その1:寄満)

NHK「ブラタモリ×鶴瓶の家族に乾杯 新春!沖縄スペシャル」関連記事。その0はこちら

斎場御嶽でブラタモリ(その0)

斎場御嶽の拝所のひとつ「寄満(ゆいんち)」には「豊穣の寄り満つる場所」という意味があるそうです。仲介貿易で栄えた琉球王国時代を象徴する御嶽と言えますね。ここでは、石灰岩で生じる化学的なプロセスを読むことがポイントです。

表紙画像の写真をみていただくと、石灰岩に鍾乳石(つらら石)がぶら下がっていることがわかります。このつらら石は、斎場御嶽がかつて鍾乳洞だったことを示唆します。どういうことでしょうか。

石灰岩の主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)です。炭酸カルシウムをはじめとする炭酸塩鉱物(CO3と化合した鉱物:CaCO3やMgCO3)は、水に溶けやすいという特徴があります。そうは言っても、純粋なH2Oにはなかなか溶けません。しかし自然界の水は、いろいろな物質を溶かし込んでいます。

降雨はどうでしょうか。大気中には二酸化炭素(CO2)がありますが、二酸化炭素は水に溶けやすいガスです。二酸化炭素を溶存させた降水は、弱酸性(自然状態でpH5.6;しかし実際にはpH4.8程度)になります。ちなみにこのレベルは酸性雨ではありません。

さて、炭酸塩鉱物が酸性の液体に接触すると、どうなるでしょうか。降水のpHはさほど低くないですが、土壌を通過した地中水は、生物活動の影響で二酸化炭素の濃度が高くなっています。したがって、土層を浸透した地中水は、炭酸塩鉱物を溶解させる力が大きくなります。

炭酸カルシウムは、この溶解という化学的プロセスによって、陽イオンであるカルシウムイオン(Ca^2+)と、陰イオンである炭酸水素イオン(HCO3^-)として、水に溶存します。石灰岩にできる洞窟は、降雨が地中で河川となり、それが石灰岩の岩盤を溶解させることによって形成されたものです。化学反応(イオン式)としては以下になります。

CaCO3 + CO2 + H2O -> Ca^2+ + 2HCO3^-

洞窟には、さまざまな鍾乳石がみられることがあります。鍾乳石は、溶存物質を多く含んだ地中水が洞窟の天井を滴り落ちるとき、炭酸カルシウムを沈殿させて成長します。化学反応(イオン式)としては以下になります。

Ca^2+ + 2HCO3^- -> CaCO3 + CO2 + H2O

鍾乳石ができた洞窟は、鍾乳洞と呼ばれます。それでは、鍾乳石はどういう環境でできるでしょうか。洞窟の天井から滴り落ちる水が必要ですから、水がないと駄目ですが、そもそも洞窟があるなら水は問題ないでしょう。しかし、滴り落ちる間に、炭酸カルシウムを沈殿させるだけの時間が必要です。

洞窟の内部は、年間を通じて、温度も湿度もほぼ一定です。相対湿度は100%近くを維持します。しかも、ほぼ無風です。そのような環境では、水はなかなか蒸発しません。地中に浸透して、洞窟の天井に到達した水は、ゆっくりと滴り落ちることになります。そこでつらら石ができ、滴下するところ(つらら石の直下)には石旬ができ、それらが繋がると石柱になります。さらに水の動きによっては、カーテンやストローなどと呼ばれる微細な鍾乳石もできます。

ここで、斎場御嶽の寄満にみられる鍾乳石が何を意味しているかを考えてみましょう。鍾乳石があるということは、かつて鍾乳洞だったことを示唆しますよね。太陽や風があたるような開放された空間では、なかなか鍾乳石はできませんから。

次回は、鍾乳洞だった空間が今のようになった地形変化を考えます。

斎場御嶽でブラタモリ(その2:大庫理)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?