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世界文化遺産の地球科学的魅力(その4:勝連城跡)

世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」を構成する勝連城跡。

世界遺産「勝連城跡」

琉球王国のグスクは琉球石灰岩の上につくられていると思われがちですが、丁寧にみていくとそうでもありません。確かに石垣は、今帰仁城跡を除けばほとんど全てが琉球石灰岩で組まれています。しかし、だからといって、その立地も琉球石灰岩とは限りません。むしろ、琉球石灰岩の段丘は平坦なので、段丘面そのものは戦略上の理由でグスクには向いていないのです。

勝連城跡からみた中城湾港

掘削船「ちきゅう」も立ち寄る中城湾港の周囲には、海岸の低地(と埋立地)が広がります。グスクのある丘陵はその低地に向けて一気に傾斜し、段丘は認められません。

勝連城跡からみた海中道路方面

海中道路で繋がった平安座島、さらにそこから繋がった宮城島・伊計島・浜比嘉島には、琉球石灰岩からなる段丘があります。しかしその手前に広がるのは低地で、グスクの縁には段丘がないことがわかります。

勝連城跡からみた沖縄島北部方面

遠方に沖縄島北部の中軸をつくる丘陵がみえます。恩納村・金武町を分ける分水界ですが、これは付加体マトリックスの名護層です。その南西側の末端に「その3」で紹介した座喜味城跡が位置します。そして、勝連城跡の北側にも、やはり段丘はありません。点在する丘は島尻層群の堆積岩によるものです。

勝連城跡からみた勝連半島先端方面

この方角に限って段丘が認められます。目の前の地形は琉球石灰岩からなる段丘です。勝連城跡は、琉球石灰岩の段丘が消えかかっている地質的な境界に位置しています。だからこそ、防御に適しているし、一方で加工しやすく石垣に便利な琉球石灰岩の石材も入手しやすいのです。ちなみに勝連城跡の城壁には、礁性ではなく、砕屑性の石灰岩が多いようにみえます。

勝連城跡に点在する井戸

グスクの敷地には、いくつかの井戸と、鍾乳洞の出入口が点在しています。これらは、かろうじてとはいえ、グスクが石灰岩の縁に位置している証拠です。

地形模型(北側から)

グスクの入口には模型があります。これは北から見た地形で、左側(東側)には段丘が伸び、その末端にグスクが位置し、グスクの北側は切り立った崖になっていることがよくわかります。北側の低地には水田が広がり、食料生産の場であったようです。その水が琉球石灰岩を通過して流出した地下水起源だっただろうことも推察されます。

地形模型(南側から)

反対側もみてみましょう。やはり、丘陵から低地にかけて急斜面になっていることがわかります。斜面に露出する地層は、丘陵の部分をつくる下位の砂岩・泥岩が古く、段丘面をつくる上位の石灰岩が新しいものです。海岸の低地は、段丘よりもさらに新しい堆積物に覆われます。そのあたりを見抜くことが、グスクを立地条件から深掘りするポイントです。

地層的な下位の砂岩と上位の石灰岩と・・??

そういう知識があると、琉球史とは一味違ったグスクの面白さも見えてくるはずです。ここにはもともと存在しない岩石の破片も転がっていますね・・・。本部半島の採石場からの石は、最近の整備で運ばれたものでしょう。

調査日:2020年6月20日

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