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世界文化遺産の地球科学的魅力(その7:斎場御嶽)

世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」を構成する斎場御嶽。コロナ禍で閉鎖が続き、6月27日に再び公開されましたが、三庫理入口からは閉鎖のままでした。最高位の拝所のみは、これを機に一般公開をやめても良いような気がしないでもありません。

世界遺産「斎場御嶽」

今年の元日に放送された「ブラタモリ×鶴瓶の家族に乾杯 新春沖縄スペシャル」でも訪問した斎場御嶽。私は地球科学担当として地形学的なプロセスに絞って解説しましたが、そこでのキーワードはマスムーブメント、すなわち「崩れる・落ちる・滑る・動く」でした。

「一年の計は元旦にあり」などと言われることがあります。私の2020年の計は「崩れる・落ちる・滑る・動く」なのかもしれません。3月にミャンマーのカルストで身をもってそれを実践してしまったわけですが、そのリハビリテーションとして世界遺産9サイトを巡る機会をつくり、沖縄の新たな魅力に気づくことができたのは、怪我の賜物でした。

連載「世界遺産で歩行訓練」で紹介してきた9サイトは、適度な悪路があり、かつ石灰岩&梅雨の組み合わせで滑りやすいため、斜面歩行や石段昇降の訓練に好適でした。おまけに、琉球史についても、ほんの少しだけではありますが、勉強することができました(他人に語れるレベルのものはないので連載では一切触れていません)。

連載のまとめとして、沖縄の世界遺産9サイトが持つ地球科学的な魅力を整理しておきます。

1.琉球王国のグスクは、琉球石灰岩がつくる段丘の縁や、ごくわずかに琉球石灰岩の段丘が(溶けずに)残っているところに立地している。これは戦略上の理由であるが、同時に水資源の確保も関係している。段丘面のど真ん中には、米軍の飛行場はつくれるが、グスクはつくれない。
2.琉球王国のグスクと関連遺産群は、表層地質の境界付近に位置することが多い。そのため、地層の境界がわかる露頭がしばしぱあり、また地質構造と地形、さらには地形と水循環の関係を考える野外教材も豊富にある。
3.世界遺産に指定された9サイトを巡ると、沖縄島の地質や地理のほとんどを一気に知ることができる。それだけ立地条件が多様だからである。高台に位置し、周囲を広く見渡せることもポイントである。
4.琉球史についてあわせて学べるという、当たり前のメリットもある。琉球史から入って地球科学に踏み込むのも良し、逆に地球科学を切り口に琉球史に触れるのも良し。そういう新しい視点を引き出せるガイドを育成することが、現地に課された今後の課題である。

調査日:2020年6月28日

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