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世界文化遺産の地球科学的魅力(その1:首里城跡)

世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」を構成する首里城跡。ブラタモリ(沖縄・首里)でも案内した私のフィールドのひとつです。

首里城跡は、新第三系島尻層群の泥岩と、第四系琉球層群の不整合がつくる崖に囲まれ、その不整合からは、湧水として地下水が流出しています。また、泥岩が露出する斜面では、乾湿風化によって細片化された粘土鉱物が地すべりを発生させ、首里の高台をつくっています。これらはブラタモリでも解説したとおりですが、その概略はこちらの記事の地形断面図にまとめてあります。

さて、今回はブラタモリでも扱わなかったいくつかのポイントを紹介したいと思います。まずは世界遺産を構成するサイトのひとつとしてに登録されている園比屋武御嶽石門から。

世界遺産「園比屋武御嶽石門」

この石門は琉球層群の石灰岩(琉球石灰岩)で組まれていて、私たち地形学の研究チームがここで風化のモニタリングをしています。人工物である石門は、風化のスタートした時期を決めやすく、風化の速度を見積るうえで都合が良いためです。

続いて、ブラタモリでは完全にスルーした龍潭。遠方には焼けてしまった首里城の残骸も見えます。

龍潭

この池は、琉球王国時代に浚渫された人工池で、水源は龍樋などをはじめとする崖の湧水です。しかし、どの湧水からどれだけの水がここに集まっているかという詳しいプロセスは、きちんと調査をしないとわかりません。トレーサー水文学の調査をすることによって解明されるでしょう。

龍潭への水路

複数の湧水から集めた流れを龍潭池に向かわせる水路。この先が龍潭池の静水域です。池のほとりを周遊する遊歩道がありますが、蚊の襲撃と闘う必要があります。

地下水の動きがみえる

人工的につくられた景観ですが、水の動きを完全に制御しているわけではありません。もともとの水循環のシステムは(部分的にではありますが)残されています。そして、その残された自然的なプロセス、特に降雨が浸透して地下水になり、その地下水が崖で流出するというルートは生きていて、それが歴史遺産に彩りを添えています。

曲面を描く城壁

ブラタモリでも紹介されたように、首里の城壁は特徴的な形をしていますが、諸説あるようです(専門外ゆえ言及は避けます)。しかし、こんなに閑散とした首里城跡は初めてでした。普段は修学旅行生やインバウンドの団体でごった返すエリアを1時間ほど歩きましたが、その間、たった数人としかすれ違いませんでした。

コロナ禍が落ち着いたら、またたくさんのビジターがやってくるでしょう。その際には、ぜひ、首里城跡の新しい魅力を再発見していただきたいものです。

首里城跡には適度な斜面や段差があり、かつ、歩きやすく整備されています。タモリさんや桑子さんと歩いた記憶を思い出しながら、野外調査を見据えた実践的なリハビリテーションをスタートさせたのでした。

調査日:2020年6月6日(土)

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