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JGLトピックス:シームレスなアウトリーチ

JGLトピックスの余談その2。その1はこちら。

JGLトピックス:幕張メッセでブラタモリセッション|Takayuki Ogata @s15taka #note  

記事のテーマのひとつ「シームレスなアウトリーチ」について。図1では「ブラタモリ(#32 沖縄・首里)で解説した地球科学的話題」として、アップロード画像の地形断面図を紹介した。

図1aキャプション:『王都・首里はサンゴでできている?』という「お題」を解くため,地形学を中心にしながらも,単独で地理学・地質学の多くの分野をシームレスに横断する解説が要求された.

地形断面図の解説は、字数制限もあり、十分にはできなかった。もっとも、JGLの読者であれば、図と簡潔なキャプションさえあれば、わたしの言いたいことはほぼ伝わるだろうとは思っていた。ここで少し補足説明を加えておきたい。

首里城跡の断面図には、地質条件としての泥岩と石灰岩、地形をつくる内的営力としての隆起、地形をつくる外的営力としての風化・侵食、さらにいくつかの物理的・化学的プロセスが凝縮されている。それらは、それぞれが研究テーマとして成り立つものばかりだ。つまり、隆起だけ、風化だけ、侵食だけ、さらに言えば、溶解だけ、乾湿風化だけ、地すべりだけ・・・で、十分に研究テーマとして成り立つ。

研究者は、当然ながら、そのような個別のプロセスについて調査・解析し、論文にまとめる。しかし、アウトリーチは、論文を書く作業とは全く違う。世間一般にとって、個別の研究成果は、よほどのインパクトのあるものを除き、あまり関心の対象にならないだろう。世間が求めているものは、日常で接するものに対する科学的解釈や裏づけなど、何らかの形で「使える」ものではないかと思う。

地球科学で扱う事象は、それぞれが繋がっている。例えば、風化すれば侵食が進む。隆起しても侵食は進む。侵食が進めば、続いて運搬・堆積作用が生じる。運搬・堆積を起こすのは、風や河川などの流体である。地盤を隆起させるには、テクトニクスやアイソスタシーが関わる。それらの事象は、地表面で展開される人間活動にも関係してくる。

アウトリーチでは、深掘りした対応が求められないぶん、知識の広さが要求される。風化の研究者が風化プロセスの詳細を暑苦しく語っても、おそらくドン引きされるだろう。風化の前に何があったか、風化の後に何が起こるか、さらにその後は・・・といった形で話題を展開させることができるかがポイント。記事ではこのようにまとめた。

アウトリーチの現場では,ディシプリンを柔軟に横断できる懐の広さと,それを支える広範な知識が必要になる.広く深くというのは難題であるが,一般市民に伝えるレベルであれば,さほどの深さは求められない.自らの研究の専門分野を越えた質問がなされても,すぐに拒絶するのではなく,正確性を損ねない範囲で何とか解説しようと努力することが重要である.

アウトリーチ活動で求められる専門性は、そんなに高いものではない。風化の研究者であっても、侵食・運搬・堆積について素人のはずはないし、テクトニクスやアイソスタシーも全くわからないということはないだろう。不確かな知識で嘘を言うのはもちろんダメである。しかし、大学の教科書レベルの知識に基づき、解説してあげることはできるはずだ。それを放棄したら、アウトリーチ活動はできないと思う。

なお、JpGUブラタモリセッションで重要なキーワードになったシームレス性については、この特集でも詳しく議論されている。特に、松田法子さんの記事と岡山悠子さんの記事で掘り下げられている。

月刊「地理」2019年8月号 - 古今書院

http://www.kokon.co.jp/book/b471302.html

*その3はこちら

JGLトピックス:一般性を失わないアウトリーチ|Takayuki Ogata @s15taka #note

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