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末梢神経障害、我々は何を考えるべきか

こんにちは
Furyo(@Furyo74178058)です。


今回は、末梢神経の機能障害についてお話します。

神経が機能障害を呈する時、神経の中でどの様なことが生理学的に起こっているか考えていますか?

「神経の構造などは正直難しい」

「覚えるのが苦手」

「実際の臨床にはあまり関係ないでしょ?」

と思っている方が多いのではないでしょうか。

この記事を読む事で、

神経障害において、まずは何から考える事が必要か

その状態に対してセラピストはどの様に対処し、運動療法に展開すれば良いかのヒントになると思います。

末梢神経障害(Peripheral neuropathy)と言えど、そのカテゴリーは様々で、全てを網羅しようとすると膨大な知識が必要となります。そのため今回は、絞扼性神経障害にフォーカスして進めていこうと思います。

とは言っても、やはり神経障害は難しいと読む前から思っているあなたに

今回の内容を分かりやすいように

"5W1H"で説明していきます。

私なりの説明の仕方なので、ビジネスに使用されるフレームワークと多少異なる部分はありますが、ご了承ください。


Who:

まずは、神経内部の構造から確認していきましょう。

まず神経組織は

伝導組織結合組織に分けられます。

伝導組織:シュワン細胞、軸索、髄鞘(下図でいう神経線維)

→インパルス伝導に関与する組織であり、末梢神経性疼痛に関与する

結合組織:神経内膜、神経周膜、神経上膜

→伝導組織を保護する組織であり、侵害受容性疼痛に関与する

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神経の最小単位は神経線維です。また1本の神経線維は中心にある軸索とその周囲の髄鞘(シュワン細胞)から構成されています。

神経線維が集まって1つの神経束

神経束が集まって神経幹を形成しています

実際に触診することができるのは、この神経幹になります。

なお、神経幹はこの後でてくる、メカニカルインターフェースと

神経束は神経束同士

神経線維は神経線維同士

滑走する事はすでに報告がされています。

Millesi, H. et al: The glidingapparatus of peripheral nerve and its clinical significance. Ann. Hand Surg., 9 : 87-97,1990.
阿部幸雄 他,末梢神経の可動性に関する実験的検討〜正常神経における観察〜,整 形 外 科 と災 害 外 科 43:(3)1020~1022,1994


続いて、

神経周囲の構造について確認していきます。


末梢神経は身体を動かす事で様々な組織や物質に接する事になります。

これら神経と接する組織や物質は

「メカニカルインターフェース」と呼ばれています。

骨、腱、筋、血管、靭帯などを指します。

また、骨棘、浮腫、瘢痕組織など正常には存在しないが、神経と接する組織を

病的なメカニカルインターフェース(下図)と呼びます。

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神経は常にメカニカルインターフェースとの機械的刺激に晒されています。


神経系の支配神経とは何か

筋肉を支配する神経が存在する様に、神経にも神経自体を支配する(調節する)神経が存在しています。

それは神経の外(外在性)神経の内(内在性)に分けられています。

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外在性

・神経外動脈・静脈の血管周囲神経

内在性

・神経内の血管周囲神経(vasa nervorum)

・神経内の非血管周囲組織(nervi nervorum)


これらは神経の外と内から神経自体を調節しています。


神経上膜や神経周膜の血管は主に交感神経によって支配されています。

When:

急性期

神経細胞などが損傷された後に炎症へと進行します。この炎症の時期は修復過程においても重要であり、不用意に関節や損傷部位を動かすことは返って修復過程を阻害する危険もあります。

神経の炎症は神経上膜に限局した場合と、神経周膜を破り、神経束内の炎症へ波及する場合とに分けられます。

神経浮腫

また、この時期においてよく所見として認められるのがTinel徴候です。

Tinel徴候のそもそもの原理は、末梢神経の知覚線維が再生するときに、軸索再生が髄鞘再生に先行する事から、再生部では無髄の部分が形成されて再生神経が伸びます。この部分は機械的刺激に特に敏感で、軽い打診により知覚神経支配領域に放散痛を再現できる様になります。


ここで最近注目されている、内在性の非血管周囲組織である"nervi nervorum"(神経幹神経)について少し説明をします。

これは神経への圧刺激に対して痛みを感じる、つまり圧痛を感じとる神経であると言われています。

本来は機械的刺激に対して無痛であるこのnervi nervorumですが、ある条件で痛みを感じやすくなると言われています。

その条件が、「炎症」です。

外傷、ヘルニアによる神経根の圧迫など神経自体に何らかの機械的ストレスが加わり、神経自体が炎症、またはその周囲組織の炎症が波及する事でnervi nervorumは活性化・感作されると言われています。

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Bove と Lightは、神経根症の場合の機械的神経組織刺激に対する誇張された痛みを伴う感受性が、nervi nervorumの活性化と感作によって引き起こされることを認めています。

Quintner J. Peripheral neuropathic pain: a rediscovered clinical entity.In: Annual general meeting of the Australian Pain Society.Australian Pain Society, Hobart;1998.
Bove GM, Light AR. The nervi nervorum: missing link for neuropathic pain? Pain Forum. 1997;6(3):181-90.

慢性期

神経障害が進行すると、神経のみでなく支配筋の質量低下、変性、脂肪萎縮などが生じます。神経自体も長時間の圧迫や絞扼により血流の低下や栄養を失い、その後の修復、再生が困難となります。

神経は炎症が持続すると線維芽細胞が神経内・神経外にて瘢痕組織を形成します。この神経の炎症過程などは次回に「神経の癒着・瘢痕編」にて説明しますが、ここで少し触れる事にします。

神経は、神経の線維芽細胞によって線維化へと進行します。神経が線維化へ進行すると、不可逆変化となる可能性があります。この線維化が神経外に存在する事で神経の滑走能力は低下し、神経内に存在すれば神経の伸長性が低下します。このような状況では、前述した"nervi nervorum"が瘢痕組織によって拘束されたり、未熟軸索や神経腫が神経内膜や神経周膜の変性に影響されて、異常な反応を発生する可能性があります。

実際に、当院でも線維化した神経に遭遇したことがありますが、ハイドロリリース施行時に針が近づいても痛みに対しての反応が鈍く、圧痛も認めないケースが存在します。

Where:

末梢神経障害は、神経外障害、神経内障害とに分かれています。

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神経外障害

主に神経と、隣接するメカニカルインターフェースとの間で起こる障害です。正中神経と手根管、神経根と椎間関節との間などで起こる障害です。

整形外科領域ではこの神経外傷害が多いのではないでしょうか?

神経内障害

脱髄、神経腫形成、低酸素状態の様な神経伝導組織の障害、神経周膜・神経上膜間などの癒着や瘢痕化の様な神経結合組織の障害、未熟な再生軸索が瘢痕化した神経内膜の間で動きが悪くなる神経結合組織と神経伝導組織との障害に分けられます。

しかし、これからは混在する可能性も十分あり得る事だと思います。

What:

上記の図にも示してありますが、

神経外障害であれば、神経幹に隣接した骨の異常、貯留した浮腫、瘢痕化した組織によって、隣接している神経の運動性(滑走性)が低下します。

神経内障害であれば、神経内に存在する結合組織や神経伝導組織の障害であるため、神経自体の弾性(伸長性)が低下します。また、神経とメカニカルインターフェースとの運動性(滑走性)は保たれています。


Why:

神経が障害される原因は血管性要因機械的要因の2つに大別します。

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血管性要因は神経を栄養する血流が障害される事です。

神経は伸長に対して脆弱です。ウサギの脛骨神経を用いた研究ですが、神経の伸長が8%を超えると次第に神経への血流は低下し、約15%で完全に遮断されると報告されています。

G Lundborg, B Rydevik:J Bone Joint Surg Br. 1973 May;55(2):390-401.

機械的要因は神経外における圧迫、絞扼、摩擦などメカニカルインターフェースとの物理的な外力によって障害される事です。

しかし、両者は混在しやすく、圧迫などの機械的要因の初段階は血管性要因が優位となります。血管性が優位の場合、強い外力は必要とせず、通常の姿勢、運動、反復的収縮でも神経の栄養は障害されます。

Butler DS: Mobilisation of the nervous system. Churchill
Livingstone, Edinburgh, 1978, pp55-70.

補足ですが、整形外科の領域において神経の「絞扼」や「圧迫」とは、実際に神経の扁平化や砂時計の様な狭小化などが観察される事で認められています。その絞扼や圧迫を解除しても元の形状に戻らない状態を指しています。

我々セラピストが本来は安易に使用することができない言葉であることは注意した方が良さそうです。しかしながら、口頭にて説明するには使いやすいため、私自身も使用することはあります。そこには上記の様な知識を踏まえた上で説明すると良いと思います。


How:

さて、ここまでくれば後は治療方法になります。

ただ、ここでは詳しく述べると少々長くなりそうなのでとても端的にお話しします。

前述してきた通り、神経障害には神経外と神経内とでその病態は異なってきます。それ故にアプローチ方法も異なってきます。

神経外障害に対しては、神経の運動性、滑走性が必要となってきます。神経の動きに影響を与えているメカニカルインターフェースを特定し、その間での運動性(滑走性)を改善させていきます。

神経内障害に対しては、神経自体の伸長性が必要となってきます。これは神経の両端の距離を増加させ、直接張力を加えることで伸長性を改善させていきます。しかし、血管性因子でも説明しましたが、過度な伸長は神経の血流を減少させるので注意が必要です。

まとめ

今回の内容をまとめるとこの様な感じになります。

Who:神経の構造と周囲の構造

When:炎症期か慢性期か

Where:神経外の障害か神経内の障害か

What:神経の伸長障害か滑走障害か

Why:血管性因子か機械的因子か

How:滑走性の改善か伸長性の改善か

また次回は

「神経の炎症と癒着」を考えています。今回の内容と踏まえて、また読んで頂ければ幸いです。

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