PTSD発症を未然に防ぐ

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものです。震災などの自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因になるといわれています。
突然、怖い体験を思い出す、不安や緊張が続く、めまいや頭痛がある、眠れないといった症状が出てきます。とてもつらい体験によって、誰でも眠れなくなったり食欲がなくなったりするものですが、それが何カ月も続くときは、PTSDの可能性があります。ストレスとなる出来事を経験してから数週間、ときには何年もたってから症状が出ることもあります。
被災地では医療の需給バランスも崩れており、必ずしも専門家が対応に当たることができない場面が多々出てくることと思われます。そんな場面で抑えておくべきPTSD予防の要点をまとめてみました。

はじめに
どんな災害でも巻き込まれた子どもに対して様々なレベルでの心理社会的なサポートが求められます。災害で家族を失ったり、大きな心的外傷を受けることで、個別カウンセリングや専門的治療が必要な場合も出てきます。災害急性期に必要とされることは、災害後に予想される正常範囲の反応を含めた子どもの心の動揺や行動の変化についての基礎知識とケアの原則です。こころのケアを行う場合、被災状況などの情報も含めてしっかりと情報収集してから行うことが求められます。被災地内では自覚しないうちに興奮状態が続くことが多いため、記憶が定着しにくくなります。見当識や時系列が混乱しやすいため、活動を時系列に沿ってメモしておくことが非常に役立ちます。

被災した子どもにとって最も優先されるべきことは『安心感』と『安全感』の確保です。子どもにとっての『安心』とは、自分が一人ではなく周囲の人たちに守られ、大切にされていると実感できること、『安全』とは現実社会の中で身体の危険を感じないような場を手に入れることです。

子どもの反応の特徴
子どもは言語能力が十分獲得できておらず、感情も十分発達していないため、その問題を把握しにくいことがしばしばあります。特に乳幼児、知的能力障害、発達障害といった問題を抱える子どもは災害の影響を受けやすいと言われています。周囲の大人たちもその問題を見落としやすいので要注意です。
子どもに現れやすい反応は以下の通りです。

行動の反応
・赤ちゃん返り(お漏らし・指しゃぶり・これまで話せたことが話せなくなる)
・甘えが強くなる
・わがままを言う、ぐずる
・親が見えないと泣きわめく
・そわそわして落ち着きがなくなる
・反抗的だったり、乱暴になる
・話をしなくなる、話しかけられることを嫌がる
からだの反応
・食欲がなくなる、あるいは食べすぎる
・寝つきが悪くなる、何度も目を覚ます
・嫌な夢を見る、夜泣きをする
・暗くして寝ることを嫌がる
・何度もトイレに行く、おねしょをする
・吐き気や腹痛、下痢、めまい、頭痛、息苦しさなどの症状を訴える
・喘息やアトピーなどのアレルギー症状が強まる
こころの反応
・イライラする
・機嫌が悪い
・急に素直になる
・一人になること、見知らぬ場所、暗い場所や狭いところを嫌がる
・少しの刺激にもびっくりする
・突然興奮したり、パニック状態になる
・現実にないことを言い出す
・落ち込む、表情が乏しくなる

幼い子どもほど不安や恐怖が強まった時に愛着メカニズムが作動しやすく、退行(赤ちゃん返り)しやすいです。親や養育者への接近やしがみつきが強まりますが、これは危機的状況に対する幼い子どもの重要な対処方法なのです。
適切な対応が見過ごされ、長期的に子どもが放置された場合、子どものトラウマが複雑化しやすいので注意が必要です。

災害後の子どもの心理的反応の重症度に関与する因子として、①女児の方が男児よりも災害に伴う精神状態が悪化しやすい、②発達障害や精神障害を持つ子どもは、同じ発達水準の子どもと比べて適応能力に差があるため、本人だけでなく家族に対してもより多くの支援が必要である、③学校や交友関係の回復が早ければ心理的反応からの回復も早い。④親が精神的に不安定な場合は子どもにも影響が及ぶため、親に対する支援が必要となる、などがあります。

実際の子どもへの対応
被災から1ヶ月以内に適切な対応をすれば、PTSD発症をある程度抑えることができると言われます。その対応としては『安心感』と『安全感』の再確立です。
親などの養育者たる大人たちの話をまずひたすら受け身で、ひたすら支持的に聴くこと。それによって親たち大人が安全・安心を感じられるようになります。そのことで子どもたちも安心が得られ、安定することがあります。
家族と一緒に居られる時間をなるべく作ってあげましょう。
生活リズムをできるだけ保つようにしましょう。
普段であれば叱るべき問題行動もすぐ叱るのではなく、まずは受け止めてあげましょう。その行動の意味するところを理解するよう努めてあげてください。
スキンシップを多くしましょう。

こうした支援を行う方の中にも被災しておられる可能性もあります。その場合はかなりの負担を強いられている可能性も高いため、支援者自体が消耗してしまわないように効率的で継続可能な支援計画を立てることが重要です。





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