龍神物語⑥:巫女と白龍

白龍はそのまま都へと飛んでいった。
突然現われた白龍に都に住む人々は驚愕した。

「な、なんだ!龍が現われたぞ!」
「おそろしや・・・おそろしや!」

白龍は人々が慌てふためく中
体内から伊左衛門と惣兵衛の亡骸を吐き出した。

ひゃああああー!
吐き出された二人の亡骸をみて
人々は恐怖におののき、三々五々と逃げ出した。

白龍はそのまま飛び去って行った。



タカの村では村人たちが
亡くなった人たちを弔うために
それぞれの家からゴザなどを持ち出し
亡骸をそこに集めた。
黒焦げになった侍たちをどうするか?
という声もあったが
仏さまになればみんな同じだ。ということで
一緒に弔うことにした。

タカは村人たちに深々と頭を下げた。

「すまねぇ・・・俺たちがこの村にいるから
都から良くない者たちを連れて来てしまった。
本当になんと詫びたらいいか・・・」

村人たちはタカの言葉に

「いんや、タカどん。
おめぇさまが巫女さまと白龍さまを連れて来てくれなければ
オラたちはとっくの昔に死んでただよ。
悪いのは欲に憑かれたあいつらだべ。
あんたのせいではねぇ・・・」

んだ。そうだそうだ。
人々は口々にタカを慰めた。

「ありがとう。ありがとう・・・・」

タカはこぼれる涙を拭いもせず
おいおいと泣き崩れた。

そこへ、白龍が戻って来た。

「おお!白龍さまが戻ってこられたぞ。」
「本当だ!良かった!」

白龍の元へタカも走っていく。

「白龍さま!巫女は、巫女はどうなった。」

「安心するがよい。巫女は前の村へ連れて行った。
今頃は手当を受けている頃だろう。」

タカはホッとして、へたへたとその場に座り込んだ。

「白龍さま・・・これから俺たちはどうなってしまうんだろう。
あんな事があって、本当に生き残れたのが奇跡だ・・・
けど、また同じ事が起きるんではねぇかと
俺は心配で仕方ねぇんです。」

タカの言葉に白龍は告げる。

「ならばみんなで巫女の村へ移動すれば良い。
幸い、巫女の村は山奥深くだ。
そうそう人が来られるところでもない。」

白龍の言葉を聞いて
村人たちは一瞬、おお!と喜んだが
ふたたび不安そうな顔を覗かせる。

「巫女の村は、オラたちを受け入れてくれるだべか・・・」

タカはそう呟いた村人の肩を掴み

「それは大丈夫だ!俺があの村で手厚く介抱された話は
おめたちにも話しただろう。
きっと俺たちを受け入れてくれる。」

その言葉にホッとする村人たち。

だが巫女の村へは相当の距離がある。
若者たちならいざ知らず
ここには身体が不自由なものも
まだ小さいわらしもいる。
長旅に耐えられるかどうか・・・。

「わらしらと身体の不自由な者たちは
私が連れて行こう。
それ以外の者たちはタカの案内に従って山を越えてくればよい。」

白龍の提案にタカも村人もワッ喜んだ。

わらしは母親に抱かれ龍の背に乗ることにし
身体の不自由なものは籠を作りその中に入って
白龍が掴んで運ぶ。
という算段がたった。

ふと視線を感じてタカは振り向いた。
侍に追われて一緒に山へ逃げ延びた五助だった。

「お、俺も一緒に行かせてもらっていいか・・・」

死ぬか生きるかの瀬戸際を経験した五助は
自分たちが何をしたのか
どんなに自分勝手だったのか
ようやく分かったようだった。

「五助。おめえも一緒に行こう。
謝るのは巫女の村へ戻ったその後で充分間に合う。」

五助はぶんぶんと頷くと
なんでもやるから!
力仕事なら任せてくれ!
と率先して仕事をすることになった。

さっそく旅立ちの準備が始まった。



「みんな準備はいいべか?」
タカの声に村人たちは頷いた。

わらし達は龍の背中に乗れることに興奮して
キャッキャッと騒いでいる。

「こらこら、おめたち。
白龍さまの背中で暴れたらいかんぞ。
空から落っこちて死んじまうからな。」

はぁーい!
元氣な声で母親にくっついた。
母親たちは大きな風呂敷で自分とわらしをくくりつけ
恐る恐る白龍の背中に乗る。

「大丈夫だべか・・・」
「お、おら・・こんな高けぇところ初めてだ。
ほんとに落っこちねぇべな・・・」

白龍は母親たちに目を向けて

「安心しろ。私の背中には風の守りを入れてある。
お前たちが落ちないよう、保護してあるから大丈夫だ。」

母親たちはホッとした表情になり
よいしょ、よいしょ、と背中に乗った。

「では行く。」

そういうと白龍はフワリと浮かび
身体の不自由な者たちを載せた籠を掴んだ。

「俺たちもすぐに立つ。
白龍さま。巫女の村で待っててくだせぇ。」

白龍はコクリと頷くと
グンと高く舞い上がり
そのまま速度を上げてあっという間に山の上に消えていった。

「さあ、俺たちも出発だ。」

残されたタカと村人たちは
畑に残されていた稲や作物を
出来る限り収穫した荷物を背負い
山を登って行った。



一方、巫女の村では。

巫女の話に驚いた村人たちだったが
これは今まで以上に村を守る力を注がないといけない。
そういう氣持ちが高まっていた。

やがて白龍が村の上空に現われ
籠を降ろし、わらしと母親たちを降ろした。

「タカの村の生き残りたちだ。
他の者もこちらに向って山を越えてくる。」

白龍の言葉に巫女と村人たちはこころよく受け入れた。

「白龍さま。ありがとうございました。
ささ、みなさん。お疲れになったでしょう。
どうぞ私の屋敷でお休みになってください。」

ありがとうごぜぇます。
ありがとうごぜぇます。

タカの村の人々は口々にそう言いながら
村人たちと共に屋敷へと向っていった。

残りの村人たちが到着するまでの間
巫女の屋敷で一時的に住まうことになった。
が、ゆくゆくはそれぞれの家を建てていくことになる。

幾日もの後、タカたちが巫女の村へ到着した。

その中で五助は村人たちの中に
郷二郎の姿を見つけると
駆け寄り地べたに這いつくばった。

「すまねぇ・・・本当にすまねぇ。
俺らが村を出て、都で楽をしようとしたせいで
こんな、こんなことになってしまっただ。
これからは性根を入れ替えて真面目に働く。
俺が出来ることなら何でもやる。
だからもう一度この村に住むことを許してくれ。」

郷二郎は五助の襟首をグイと掴み
思い切り殴り倒した。

「真面目に働け。
それがお前と共に村を出て殺された者たちへの供養だ。」

そしてタカの村の人々の前に出ると

「うちの村のもんが迷惑を掛けた。
すまねぇ。
だがあれでも巫女の村の若いもんだ。
許してくだせぇ。」

と頭を下げた。

その姿を見て五助は涙を流し
さらに頭を下げ続けた。

やがてタカの村の人々の身体が充分に回復した頃
巫女は村人全員を集めて話をした。

「白龍さまからのお言葉です。
タカの村での凄惨な出来事は
いずれこの村にも起きる可能性があります。
そこで私と白龍さまが相談して
この村に結界を張ることにしました。」

「結界・・・ですか?」

巫女はコクリと頷くと説明をした。

「山に住む私たちと違って
外の世界では欲に駆られた人々が大勢います。
その人たちが、またいつか
この村を見つけてしまい、タカの村のような惨劇が起こるやも知れません。」

巫女の言葉にざわめく人々。

「ですから私と白龍さまとで
この村が今後も見つけることが出来なくなるよう
強い結界を張ることにしたのです。」

「それはありがたいことですが・・・
私らは何をすればいいんです?」

巫女はふるふると首を振り

「あなた方はこの村をしっかりと治めることだけを
考えていてくだされば良いのです。
外のことは、私と白龍さまに任せてください。
ただ、遠くの山まで出張っての結界になりますから
どれくらいの時間が掛かるかはわかりません。」

そして巫女はタカに向い意を決したように告げた。

「おまえさま。お別れのときが来たようです。
私はこの村を守るため
白龍さまと共に結界の旅に出ることにします。
おまえさまはこの村のまとめ役として
みんなと協力し合い、今まで通り安全に暮らせるよう尽力してくださいませ。」

タカは驚いて

「ま、待ってくれ!
結界を張りにいくだけだろう?
時が掛かるのはわかる。
だが、もう二度と逢えないようなことは
言わねぇでくれ。」

白龍はタカに告げた。

「この結界は巫女の村とその周辺を大きく守るものになる。
私も巫女も、命を掛けた仕事になるのだ。
戻って来れるとは言えない。」

「おまえさま。
私は巫女として、龍遣いとして生れて来たのです。
この世の人々を守り救うのが私の役目。
どうかわかってください。」

タカはどうにか巫女と離れずに済むことを考えたが
白龍と巫女の意思は固く
それを覆すことは無理だと悟った。

タカは拳をギュウ・・・と握りしめ

「わかった・・・。
だが今夜一晩、巫女との時を過ごさせてくれ。」

「承知した。」

白龍はそういうと二人の前から姿を消した。

「おまえさま。ありがとうございます。
私もおまえさまと離れたくはありません。
けれど、それが私の使命ならば
私はやり遂げていかなければならないのです。」

「わかってる・・・。
おめさがこの村を救ったときもそうだった。
これは俺のわがままだ・・・。
もう泣き言は言わねぇ。
達者で頑張ってくるんだぞ。」

二人は一晩中抱き合い
お互いの魂の繋がりを刻むように
愛しい時間を重ねた。

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