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2020年以後の都市

2020年には、何かが起こると思っていた。でもまさか、こんなことが起こるとは思ってもみなかった。

社会の見方のひとつに、25年周期説がある。1945年、1970年、1995年で時代をざっくりと切る見方だ。見田宗介・大澤真幸・東浩紀らによるこれらの切断線を意識すると、2020年は1995年からちょうど25年。なにかが起こってもおかしくない。そこへ東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった。これは東京にとって大きな時代の区分になるに違いない、そう考えていた。

ところが現実に起きたことは、東京や日本どころではなく、世界中の人々にとって大きな区分になるCOVID-19によるパンデミックという事態だった。

2020年以後、ポスト・パンデミックの都市はどうなるのか。今、誰もが変化を間近に感じるからこそ、皆が将来の予想に夢中になっている。正解がないからこそ皆が都市について自由に語ることができるとも言えるし、自由すぎて話が拡散していく一方だとも言える。

そこで前述の25年周期説を補助線として都市の文脈に適用し、2020年以後の都市を想像するうえでひとつの手がかりとしてみよう。

1945年以後の日本の戦後史を25年ごとに分け、国土・都市政策で、人の配置のデザインに着目すると以下のように記述できるかも知れない。

1945年:広島・長崎への原爆投下により終戦。戦災復興がひと段落したあとの1959年、東京オリンピックの開催が決定し東京に集中的な投資がなされる。池田勇人の所得倍増計画(1960)では工業化を進めるため4大工業地帯をつないで「太平洋ベルト」をつくるため、4つの工業地帯の中間(東駿河・東三河・播磨・備後・周南など)に集中投資する「拠点開発方式」という考え方が打ち出された。1961年の正月のテレビ番組で丹下健三の「東京計画1960」が発表される。経済成長のために労働力の集約が模索された集中論の時代。

1970年:大阪で日本万国博覧会が開催。東京に集中しようとする人口を全国に分散させようという趣旨で田中角栄「列島改造論」(1972)がベストセラーとなり、工業化のターゲットを太平洋側だけでなく日本海側など全国に分散させる方針が支持される。大平正芳の「田園都市国家構想」から第三次全国総合開発計画(1977)による「定住圏構想」や、その後の第四次全国総合開発計画(1987)で示された「多極分散型国土」という考え方をもとに地方への公共投資が進む。経済格差の解消が意識された分散論の時代。

1995年:インターネット元年。地方分権推進法(1995)により中央から地方への分権が始まるとともに、経済のグローバル化の流れのなかで規制緩和が進む。大店法廃止(2000)で巨大ショッピングモールの進出が可能になり、商店街や百貨店が空洞化する。東京では都市再生特別措置法(2002)により大規模建築物の容積率が大幅に緩和され鉄道インフラと直結した超高層コンプレックスが再開発の定番となる。権力は分散したが、人の集まり方に関しては東京も地方も、都市インフラに直結した「都市のような巨大建築(BIGNESS)」による動員が指向されたという意味で集中論の時代と言えるだろう

2020年:COVID-19の感染拡大により移動の自粛が要請され、密集・密接・密閉を避ける「新しい生活様式」が推奨される。1995年から徐々に整備された大規模容量の通信インフラとデータセンターによるクラウドシステムをベースにしたリモートワーク元年。

さて2020年以後の都市はどうなるか。三密を避ける「新しい生活様式」を促すだけならリモート=分散=地方の時代と結論すればよいのかも知れないが、今の医療・年金制度を社会的に維持するためには一定の経済成長も必要だとすると、2020年以後の都市はどのようなかたちが望ましいのか。

ここでは都市の変化を連続的なものとして捉え、近未来を近過去の延長で考えことで少し踏みとどまって考えたい。例えば、以下のような論点を挙げてみる。

(1)分散論の時代であった1970-1995年を具体的に見ると、政策や公共投資は分散論であったが、実際には人口移動が止まったわけではなく、むしろ民間投資や人口の東京一極集中は止まらなかった。都市としての東京の魅力は再配置不可能であるとしたら、どのような新しい都市の魅力がありうるか。

(2)ポスト工業化のあり方が模索された頃(1970-1995)になされた知識産業の再配置の取り組み(研究学園都市・テクノポリス構想など)は本当に失敗したのか。再評価できるとしたら、どの部分なのか。

(3)仮に三密を避け、かつ利便性を維持するような「新しい都市様式」を実現するために知識産業の再配置が民間ベースで動き始めるとして、それらを促すには現在の都市のどの部分の、どのような物理的条件の更新が有効か。

これから、少しずつ考えていきたいと思う。

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