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社会の壁を溶かし膜に変える中心の無いネットワーク 市民型公共事業・霞ヶ浦アサザプロジェクト(3)

私たちは、どんなことを考えながらやってきたのか。第3回は社会を覆う諦めからどう脱出するのか。問題を資源化するなどについて。

諦めがつくる部分最適化の世界

 霞ヶ浦流域には24の市町村が含まれ、茨城県、千葉県、栃木県の3県にまたがっている。流域は、省庁や県、市町村などの縦割り行政に覆われている。だから、流域全体を視野に入れた総合的な取組みの展開は、行政に依存したり、既存の発想や制度的枠組みに囚われている限り実現できない。
 流域管理という言葉は以前からあるが、実際に流域管理が実現しているところは何処にも無い。そもそも、管理という発想で流域を一体化した取り組みは不可能だ。管理という発想自体に、縦割りや画一化、ゾーニングといった概念が含まれるからだ。

 縦割り自己完結型の取組みの限界を越えることができない行政主導の取組みは、部分最適化へと進み、効果も限定的にならざるをえない。同時に、部分最適化が進むと、事業に伴う負荷(問題)を外部化する傾向が生じる。
 霞ヶ浦の水質汚濁の原因は、流域全体の社会システムにあることが分かっていても、縦割りの枠組みの中では、部分的な取り組みしか実現できない。だから、その中でも、できることをやろうという発想に落ち着いてしまう。このような諦めを前提にした社会、つまり、部分最適化した世界が何処でも作られていく。


 諦めは、民間の技術革新によって乗り越えられるという発想もある。しかし、部分最適化の限界や矛盾は、環境対策を目指す技術革新(イノベーション)にも、見ることができる。技術革新によって環境問題を克服すると言っても、部分最適化の発想から脱却できない限り、開発や運用に伴う環境負荷の外部化(転嫁)は避けられないからだ。例えば、太陽光発電の普及には、パネルの材料となるレアメタルなどの地下資源が必要だが、それらの採掘が行われている途上国では森林破壊や環境汚染や人権侵害が起きている。
 したがって、環境技術の開発による経済成長の確保と環境保全の両立といった発想は、楽観主義に過ぎると思う。今日の環境問題を引き起こしている成長至上主義という発想(思考停止)の中でしか、解決策を発想できないという諦めが、前提となっているからだ。
 全体最適化は上からの制度や法律による規制や統制によって実現するしかないと考えることも、また、諦めを前提としている。まず、これらの諦めを克服することから始めなければならない。

問題の資源化〜全体最適化によって付加価値の連鎖を起こす。

 アサザプロジェクトは、社会を覆う諦めからの脱却を目指し、諦めが作る社会の壁(思考の壁)を越えて展開しようとしている。プロジェクトでは、環境や福祉、産業、教育などの従来の分野の壁を越えた事業展開を霞ヶ浦流域で行なってきた。(このプロジェクトは単なる思考実験ではない。)
 小規模の実験的な事業からはじめ、付加価値の連鎖を起こし、その連鎖を縦割りの壁を越え、社会の多様な分野へ、流域全体を覆うネットワークへ、広げて行こうとしている。

市民型公共事業のメリット

 市民型公共事業のメリットは、少ないコストで多面的な効果を生み出すことができることだ。ひとつの事業(問題解決)に投じられた金が、他分野へと付加価値の連鎖を引き起こし、新しい人や物や金の流れを地域に作り定着させていくこと(問題の資源化)ができるからだ。
 社会で行われる様々な事業や営みを自然のネットワークの中に置いて、それぞれの属性と切り離し機能を読み直し、分野を超えた繋がり(良き出会い)を作る機能に読み替え、新たにできた繋がり(ブリコラージュ)によって生まれた新たな価値や意味を、既存の事業や物に付加させ連鎖させていく。
 アサザプロジェクトは、そのような付加価値の連鎖(良き出会いの連鎖)を促すことで、社会に新しい人、物、金の動きを作り、個々の事業(問題解決)から一石何十鳥もの効果を引き出していく。

問題を資源化することで外部化の流れを変える。

 問題の資源化は、これまで事業の外部に押し付けてきた問題を内部化することを意味している。環境問題の大半は、この外部化(転嫁)によって起きている。
 各事業の中で部分最適を図る問題解決型(内部化)では効果に限界がある。そこで、アサザプロジェクトでは、上記のような新しい人、物、金の動きを作り、その繋がりの中で問題の内部化(資源化)を図ろうとしている。
 霞ヶ浦で起きている問題は、流域で行われている様々な事業や活動が外部化してきた問題が、湖に集まり顕在化したものと捉える必要がある。
 ここで問題の資源化という流れを作るベースにあるのは、霞ヶ浦をめぐる自然のネットワークであり、とくに水の繋がりや循環、生物の生息を通した繋がりのネットワークである。それらの繋がりを通して、私たちの社会を作る既存の様々なものの空間配置や機能を読み替え、問題の資源化に向けて読み直していく。

自然をベースにした文脈化・ネットワーク化で低コスト社会を実現する。
問題解決型から価値創造型への転換。

 アサザプロジェクトが目指しているのは、これまで述べてきたように自然のネットワークに重なる人的社会的ネットワークの構築だ。社会に自然のネットワークを導入することで、縦割りの壁を超えた人や物や金の動きを作ることが可能になる。それにより、硬直化した社会を活性化さることもできる。
 問題を通して多様な分野を取り込み、部分最適化した動き(問題解決の取り組みを単にコストとして見る)を、全体最適化した動き(付加価値の連鎖、一石何十鳥の効果=問題の資源化)へと転換していくことができれば、社会を根本から変えられる。
 それは、問題を個々に抽出し解決策(シングルイシュー)を講じる従来の問題解決型から、価値創造型への転換(問題の内部化=資源化)である。

持続可能な社会へ。

 問題を生かして、多様な分野を取り込む。一石何十鳥の手法(付加価値の連鎖)を事業のプロセスに組み込むことで、インフラ整備による受益者の拡大(波及効果の拡大、人モノ金のネットワーク状の広がり)や社会資本ストック維持の低コスト化(公的機能を地域の産業活動や生活文脈と連結させ持続させる)などができる。

 また、様々な事業に福祉や防災などの要素を付加価値として組み込むことで、社会保障負担の低減や財政赤字の解消に繋げられる。それは、合理化効率化の発想(量的転換、再構築)とは異なる、文脈化(社会の質的転換、相転移、問題の資源化)による発想(創発)だ。       (次回に続く)


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