第0回: 〈スタンプ蒐集伝〉 のはじまり
世の中には「記念スタンプ」というものがある。
観光地、博物館、動物園、水族館、駅、高速道路のサービスエリア(一般にはハイウェイスタンプと呼ばれている)など、津々浦々までスタンプが設置されている。
絵柄や趣もさまざまでそれを目当てにスタンプを押す場合もあるけれど、わたしの第一の目的はただ「スタンプを押す」という行為そのものにあるのだ。
大抵はインクがかすれて全体のデザインが崩れ、即座に脳内で反省会が行われる。しかし、それもスタンプを押す醍醐味。綺麗に絵柄が表れたときは、星座占いで1位を獲るよりもはるか上の幸運を味わうことができる。
何よりも好きなのはスタンプを紙から離す瞬間である。版の全体にインクがまわるよう、丁寧に時間をかけてインク台にスタンプを押し付ける。それから意を決して目の前の紙にスタンプを押し、均等に力を入れ強めに再び押し付ける。そして、ゆっくりと離す。
ペリ、ペリペリ、ペリペリペリペリペリペリ。
お分かりいただけるだろうか。
スタンプを紙から離すときは、スタンプの版にくっついた紙がなかなか離れず、ねっとりとした音が自分自身に向かって響く。
この瞬間である。
短い出来事だが、スタンプを押す間には多くのドラマが詰まっているのだ。一つとして同じ瞬間はない。わたしはこの瞬間のために記念スタンプを求め、それを押している。
さらにわたしは困ったことにコレクター気質だ。何か集められるのならば集めたい。幸いにも記念スタンプは集めることができる。これまではパンフレットなどのちょうどよく空いたスペースに押すのみだったが、最近では出合ったスタンプをきちんと記録するために ”マイスタンプノート" を作り改めて「スタンプ収集」を始めることにした。
側から見れば退屈に感じられるかもしれない。だが、そんなものは関係ない。わたしはスタンプを押したいのだ。スタンプを集めたいのだ。スタンプを押したと自慢したいのだ。
〈スタンプ蒐集伝〉はスタンプを押したい欲望に素直に従い、全国のいたるところで収集したスタンプ自慢とそれにまつわるドラマの記録である。
誰が求めるわけでもない話ではあるが、自己満足のために収集し書き連ねるつもりだ。とはいえ、誰かに何かしら届けば良いのになと、忍びやかに心の隅のほうで思う。
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