3分でわかる宇宙天気と宇宙法②
実際に事故が発生した場合は?
前回は、宇宙天気の概要と関連するルールの概要を取り上げました。
それでは、太陽風により衛星が故障し、衛星の衝突や地上での事故(GPSの故障により発生する可能性がある)が発生した場合、どのようなことになるでしょうか?
まず前提として、衛星を使ったサービス関わっている多数の当事者を整理しておきましょう。
①衛星を打ち上げた国
②衛星を作ったメーカー
③受信機を作ったメーカー
④衛星システムの運用者
⑤サービスの提供者
⑥サービスのユーザー
以下、それぞれの当事者ごとに、どのような責任を負う可能性があるのかみていきます。
衛星打上げ国の責任(他国に被害が生じた場合)
宇宙条約と宇宙損害責任条約は、宇宙物体によって引き起こされる損害についての国際責任を定めています。
しかし、ここでいう「損害」は宇宙物体が物理的に引き起こす損害に対する責任と解釈され(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 p.261)、宇宙物体を利用したサービスによって生じる責任まで想定していません。
そのため、打上げ国に宇宙条約と宇宙損害責任条約上の責任は生じないと考えられます。
衛星・受信機メーカーの責任(「モノ」に関する責任)
誤った情報の発信が衛星の不具合にある場合や、情報を受け取る受信機に不具合があって事故が発生した場合、製造物責任(モノの欠陥に基づく責任)が問題となります。
その不具合が製造物責任でいう欠陥、つまり「通常有すべき安全性を欠いている」といえるのであれば、製造物責任が生じることになります。
この「通常有すべき安全性」に、宇宙天気による影響に耐えられることまで含めることができるのかについては、少々問題となりそうです。
衛星システム運用者の責任(運用に関する責任)
仮に日本の衛星システムに欠陥があり事故が発生した場合、衛星を「公の営造物」とする国家賠償法による責任(公的施設などの欠陥に基づく責任)が生じる可能性がありますが、準天頂衛星の運用は民間会社が行なっているため、不法行為(故意または過失によって損害を発生させた場合の責任)による責任が問題となる可能性があります。
そうすると、宇宙天気によって影響(事故)が発生することが予測できたか、できたとして対策を講じることができたか、実際にどこまで行っていたかといった点がポイントとなるでしょう。
なお、アメリカ国防総省が運用するGPSについて、アメリカでは政府の裁量的な判断に関しては責任追及できないというルールがあり、これが適用されると責任追及ができません。
また、GPSは「衛星から信号を勝手に受信しているだけ」なので、サービス内容や品質について何も約束していないという考え方が強いようです(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 p.262)。
そのため、GPSの不具合による被害については、非常に限られた場合にしか責任追及は認められないと考えられます。
サービス提供者の責任
サービス提供者はユーザーと契約関係にあるので、サービス提供者は被害者に対し、サービスの契約内容に基づいて契約上の責任が発生することが考えられます。
その場合でも、実害の発生が予測困難な出来事や衛星の不具合によって発生した被害については責任を負わないとするなど、利用規約などでリスクヘッジされているのが通常でしょう。
近時の海外の取組み
最後に、近時の海外の動きを取り上げます。
アメリカでは、宇宙天気に関する法案が可決されました。これは、全米科学技術評議会に宇宙気象に関する省庁間ワーキンググループを設立するよう求めるもので、国立海洋大気庁(NOAA)、NASA、国防総省等が対象となります。
これによって、アカデミアサイドと実務サイドの協力のためのフレームワークが構築されることが期待されます。
参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦