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3分でわかるスウェーデンの宇宙活動法

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スウェーデンの宇宙開発

EUの宇宙開発といえばフランスのイメージがありますが、フランス以外にも宇宙開発を行っている国はもちろんあります。
そのうち、宇宙活動法の古い歴史を持っているのがスウェーデンです。

スウェーデンは、1986年に人工衛星を初めて打ち上げることに成功し、その後も通信衛星の打上げ、観測ロケットやバルーンの打上げも実施されています。
2019年5月には、国外(ニュージーランド)からではありますが、3基の衛星がエレクトロンロケットにより打ち上げられています。
スウェーデンはヨーロッパ宇宙機関(ESA)の参加国でもあり、JAXA、NASA等とも共同でプロジェクトを進めていますが、こうしたスウェーデンの宇宙開発を支えているのがスウェーデン宇宙委員会(Swedish National Space Board:SNSB)と、1961年に設立された国有企業スウェーデン宇宙公社(Swedish Space Corporation:SSC)です。

世界で2番目の宇宙活動法

スウェーデンでは、ノルウェーに次いで世界で2番目に宇宙活動法が作られた国です。
1982年制定されたスウェーデンの宇宙活動法は、国内の射場(北部にエスランジ射場があります)や受信局を想定し、外国によるスウェーデンでの活動によりスウェーデンが負う責任、管理権限を予測できるようにすることを目指し制定されました。
また、スウェーデンは1976年までの間に宇宙条約をはじめとする宇宙関係条約(月協定を除く)に批准していることもあり、国内法としての宇宙活動法が必要だったという背景もあります。

本法は「宇宙活動」に適用されますが、「宇宙活動」には、宇宙空間での活動のほか、宇宙空間への物体の打上げや宇宙空間に打ち上げられた物体を操作するなどの措置も含まれ、カバーする範囲は広いです。
他方、宇宙空間にある物体から信号・情報を受信することは本法の宇宙活動にあたらず、観測ロケットは適用対象外とされています。

免許制

以下の宇宙活動を行うには免許が必要です。

①スウェーデン国以外の当事者(スウェーデンの個人、法人、外国、外国の個人、法人)がスウェーデンの領域から宇宙活動を行うこと
②スウェーデンの人(法人含む)がその他の場所で宇宙活動を行うこと

免許は政府から付与され、状況によって制限されることもあります。免許の申請はSNSBに行い、SNSBが省庁と協議し、政府に提出します。SNSBは免許所持者の監督もします。
もし、免許なく宇宙活動を行った場合には罰金・最高1年の禁固刑という罰則が設けられています。

登録

宇宙条約、宇宙物体登録条約によれば、宇宙物体は登録が必要です。

SNSBは、宇宙物体の登録簿を保管し、外務省の機関を通じて国連事務総長に登録情報を提供することとされています。 

賠償関係

宇宙損害責任条約によれば、打上げ国は、自国の宇宙物体が地表で引き起こした損害、または飛行中の航空機に与えた損害について無過失責任を負います。無過失責任というのは、注意を尽くしていたとしても免責されない責任のことです。

スウェーデンの法律では、スウェーデン国以外の者(スウェーデンの個人、法人、外国、外国の個人、法人)が行った宇宙活動の結果生じた損害について責任がある場合、その宇宙活動を行った者がスウェーデンに対して償還するとされています。
つまり、スウェーデンが被害国に払った賠償金を、メーカーなどの私人がスウェーデンに払わなければならないということです。日本やフランス、アメリカのような、保険で賄えない部分の賠償については政府が補償するという制度(政府補償)はありません。

そうである以上、宇宙活動の免許を出す側の国としては、事故が起きた場合に賠償金を賄えるだけの財務的基盤か、保険がかけられていることについて強い関心を持ちます。
これらの要件は法律に書かれていませんが、打上げ(宇宙活動)の免許を出す際の考慮要素とされているようです。

スウェーデンの宇宙開発のこれから

スウェーデンは、宇宙旅行サービス事業者ヴァージン・ギャラクティック社と、宇宙港を建設することを計画していますが、同社のロケット「スペースシップ2」のようなサブオービタルロケットが本法によって規制されるかは不明確です。
EUの航空管制規則を統括する欧州航空安全機関は、「通常の航空機が航行する飛行空域を飛行するフェイズでは、飛行安全の観点から航空機と同等の規則を適用するべき」という声明を出していますが(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版p198)、人命がかかっている機体である以上、航空機と同等の安全性を確保すべきという要請がある一方、ロケットに同等の安全性基準を課してしまうと審査のハードルが高くなりすぎてしまうのではという懸念もあります。
いずれにせよ、今後のEUの動きに注目です。

参照:
・Handbook of Space Law Frans von der Dunk, Fabio Tronchetti
・National Space Legislation A Comparative and Evaluative Analysis Annette Froehlich, Vincent Seffinga
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・解説宇宙法資料集 栗林忠男
・日本の宇宙戦略 青木節子
・JAXA宇宙情報センター「スウェーデン宇宙公社」
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/ssc.html
・Rocket Lab Website「Rocket Lab successfully launches three R&D satellites to orbit for the U.S. Air Force」
https://www.rocketlabusa.com/news/updates/rocket-lab-successfully-launches-three-r-and-d-satellites-to-orbit-for-the-u-s-air-force/



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