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量子未来社会ビジョンの策定を振り返る② 〜IBM量子コンピュータの日本上陸〜

はじめに

前回では、量子未来社会ビジョン策定に向けた議論の契機となった令和3年4月の量子技術イノベーション会議(量子会議)とその後の政府の動きを振り返りました。

令和3年4月の量子会議以降、大きな出来事として欠かすことができないのが、IBMの量子コンピュータの日本上陸です。
今回は、その背景も含めながら見ていきたいと思います。

IBMの量子コンピュータが日本で始動

令和3年4月の量子会議以降、政府の方で特に目立った動きはありませんでしたが、日本の量子業界には非常に大きな動きがありました

令和3年7月、IBMの27量子ビットの量子コンピュータ実機が川崎市に設置され稼働を開始した、というプレスリリースが東大とIBMの連名で出されました。

IBM量子コンピュータのお披露目式の様子
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/spv/2107/28/news062.htmlより

また、この実機の利活用にあたっては、東京大学・慶應大学と国内企業の連合による産学コンソーシアム「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)」を中心に活用するスキームが構築されました。

なお、IBMは米国に開発した量子コンピュータを設置し、クラウドを通じて世界中のユーザーに利用環境を提供してきましたが、令和3年にドイツ、日本に実機を持ち込むなど、海外での稼働も展開し始めています。
この流れは令和4年も続いており、韓国への最新機の導入が報道されたほか、カナダへの導入も発表されています。

IBMとの連携①:慶應大学

少し本筋とは離れますが、IBMと日本の大学の連携については、今後の量子戦略見直しの流れを理解する上で、その背景を把握しておく必要があると思っています。

まず、初めにIBMと量子コンピュータ実機利活用の連携を開始したのは慶應大学でした。

慶應大学は平成30年5月に「IBM Qネットワークハブ」を開設し、米国の実機をクラウド経由で利用する環境を構築
JSR、三菱UFJ、みずほ、三菱ケミカルという材料開発、金融分野のユーザー4社も参画し産学連携の研究開発をスタートしました。

これを主導したと思われるのが慶應の伊藤塾長(当時 理工学部長)。
伊藤塾長は量子会議の構成員でもあり、ネタバレになりますが、量子戦略見直しワーキングの主査に着任することになります。

ちなみに、量子未来社会ビジョンでは、量子・古典ハイブリッド(量子技術と従来型(古典)技術の連携・融合)がキーワードとになっていますが、こちらの記事で伊藤塾長はこんなことを言っていました。

伊藤氏は、「量子コンピュータは単独ですべての問題を解くものではない。既存のスーパーコンピュータとも組み合わせ、パッケージとして、より多くの問題が解けるようになる」と強調した。
慶應大学 IBM Qネットワークハブ開設時の会見記事より

まさに量子・古典ハイブリッドの考え方を平成30年からおっしゃっていたわけですね。

IBMとの連携②:東京大学

さて、慶應とIBMの連携を見てきましたが、令和3年7月に日本で実機を稼働させたのは東大とIBMです。この両者の連携を見ていきます。

連携が始まったのは、令和元年12月のMOU締結からと推測されます。これは慶應-IBMの連携開始から1年半後です。

この時締結されたMOUは、2点ポイントがあると思います。

1つ目は、IBMの量子コンピュータ実機の日本国内導入計画が記載されているということです。この時から既に実機導入の構想はあったわけですね。

本構想において、IBMは所有・運用するIBM Q System Oneを日本国内のIBM拠点に設置することを予定しています。アジア太平洋地域では初めて、全世界でも米国、ドイツに続いて3番目の導入となります。
東大IBM共同プレスリリース(令和元年12月19日)より

2つ目は、東大-IBMで「Japan-IBM Quantum Partnership」を設立するということです。これ、東大-IBMではなくJapan-IBMなんですね。

東京大学とIBMは、他大い学や公的研究機関、産業界が幅広く参加できる幅広いパートナーシップの枠組みである「Japan–IBM Quantum Partnership」を設立します。
東大IBM共同プレスリリース(令和元年12月19日)より

つまり、東大を日本の代表機関として、国内大学、企業等が参画し、IBMと連携するスキームになっています。

この後、令和2年6月にIBM東大ラボ開設、令和2年7月に「量子イノベーションイニシアチブ協議会(QII)」設立と着々と実機導入に向けた準備が進められています。

QIIですが、発足時のメンバーは以下の通りです。

東大HPより。QII設立時のメンバー一覧
  • アカデミア:東大、慶應大

  • 産業界:JSR、三菱UFJ、みずほ、三菱ケミカル、東芝、トヨタ、日立、DIC、日本IBM

慶應の「IBM Qネットワークハブ」の構成員を取り込み、参加企業も拡充し、東大がヘッドとなって全体を取りまとめる協議会となっています。

そして迎えた令和3年7月、量子コンピュータ実機が川崎市に設置され、QIIを通じて利活用を推進するスキームが完成しました。

この一連の流れを主導したのが量子会議の座長でもあり東大総長(当時)でもあった五神教授だったわけですね。

なお、QIIですがHPで公開されているメンバーはこんな感じです。理研(令和4年4月より五神教授が理事長に就任)が加入していますね。

QIIのHPより(令和4年8月26日現在の掲載情報)

入会費はグレード別にこんな感じです。
年間5,000万円で27量子ビットのIBMの量子コンピュータへのアクセス権が得られます

QIIのHPより(令和4年8月26日現在の掲載情報)

おわりに

今回は量子未来社会ビジョン策定経緯の本筋とは少し外れましたが、我が国の量子業界にとっては重大な出来事となったIBM量子コンピュータの日本上陸について、その背景から振り返りました。

実機導入自体への賛否はさておき、(他人の受け売りですが、)量子のようなエマージングで先行き不透明な分野において、リスクをとって未来のために投資という形で行動を起こす姿勢は尊敬です。

本当はワーキンググループ設置まで行きたかったのですが、IBMだけで結構な量の原稿になってしまいました。

次回は戦略見直しワーキンググループの設置まで進めたいと思います。

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