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"本当の"国産量子コンピュータ初号機の開発費は?公開情報だけから試算してみる

3月27日の国産量子コンピュータのクラウド公開から約2週間が経ちました。
報道各社に大いに報じてもらい、SNSなどでは多くの応援コメントがあって良かったと思います。

また、愛称募集も始まりました。こうした活動を通じて、今後ますます「量子コンピュータ」への応援や研究開発への参画、人材の裾野が広がることを期待します。

さて、今回のお題は「国産量子コンピュータ初号機の開発費」です。
報道の中で、こんな記載を目にした方もいるのではないかと思います。

初号機は、政府が2018年度から約25億円を投じ、理研や大阪大、富士通、NTTなどが開発した。

上記は読売新聞記事より
他にも日経新聞などで同様の報道あり

この「約25億円」について少し真面目に考えてみたいと思います。
そして"本当の"初号機開発費を試算してみようと思います(結論だけ知りたい、という方は「まとめ」の章をご覧ください。)

なお、本記事はあくまで個人的な試算であって、政府の公式な見解でもなければ、正確な予算額でもないことを予めご容赦ください。

約25億円の根拠は?

まず、「約25億円」の出処からです。
結論から言うと、これは、文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」で理化学研究所に配分している予算額を、H30年度〜R4年度まで足し上げた数字となります。

Q-LEAP 理化学研究所の研究課題(H30年度開始)

Q-LEAPは、人件費や管理費といったいわゆる「運営費」は含んでおらず、純粋な研究開発費(プロジェクト予算で雇用される研究員等の人件費は含む)です。

Q-LEAP以外にもある?

他方、理化学研究所のプレスリリースを見ると、

本研究は、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)「超伝導量子コンピュータの研究開発(研究代表者:中村泰信)…「知的量子設計による量子ソフトウェア研究開発と応用(研究代表者:藤井啓祐)ERATO「中村巨視的量子機械プロジェクト(研究総括:中村泰信)」共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点(プロジェクトリーダー:北川勝浩)」による助成を受けて行われました。

理化学研究所のプレスリリースより

このように、Q-LEAPの「知的〜応用」や「共創の場形成支援プログラム」「ERATO」による支援も含まれていることがわかります。

これらのプロジェクトは、初号機開発のみを目的としたプロジェクトではなく、初号機関連費用だけを正確に切り出すのは困難です。

このため、元の記事に戻ると、初号機開発の費用は、「(正確に切り出せる額としては、)2018年から(Q-LEAPの理化学研究所が代表機関の研究課題の積算額が)約25億円」というのが最も正しい表現となります。

公開情報だけから試算してみる

とはいえ、理化学研究所のプレスリリースには明確に「約25億円」以外の支援があったと書かれています。

そこで、公開情報を駆使して何とか"本当に"初号機開発に要した経費を試算してみることにします。

Q-LEAP「知的量子設計による量子ソフトウェア研究開発と応用」

大阪大学の藤井教授が代表者を務める研究課題です。R2年度からスタートしており、量子コンピュータの優位性の探究や応用研究を推進するものです。

この課題の予算額は残念ながら非公表ですが、公募要領からある程度推測することは可能です。

公募要領P.8を見ると、2.5億円〜3.5億円/年となっているのがわかります。
そこで、本課題全体の年間の予算額を約3億円と試算することにします。

次に、この課題の中で初号機開発に関連する研究費ですが、以下のプロジェクト全体像のうち、「中村PJと連携」とされている「藤井グループ」の「ソフトウェア・アーキテクチャ」が初号機開発に関わったと考えることにします。
(実問題への応用や基盤アルゴリズムは量子コンピュータの利用を主眼とした研究であり、ハードウェア・クラウド環境開発には関連しないと考える)

Q-LEAP「知的量子設計による量子ソフトウェア研究開発と応用」Webページより
https://qleap-qai.jp/organization/

ここで各グループへの配分額と、グループ内での研究テーマごとの配分額を等分配と仮定すると、結局、本課題では、

約3億円/年 × 1/3(グループ) × 1/3(研究テーマ) = 約0.33億円/年
0.33億円/年 × 3年(R2, R3, R4) = 約1億円

と試算できます。

ERATO「中村巨視的量子機械プロジェクト」

初号機を開発した理化学研究所の中村センター長が代表を務め、量子コンピュータの実現を目指して2016年(H28)10月〜2021年(R3)3月まで実施されたプロジェクトです。

本プロジェクトの事後評価(下記)にも記載のとおり、今回の初号機開発の礎を築いたプロジェクトとも言えるでしょう。

ERATO事後評価(P.2)より
https://www.jst.go.jp/erato/evaluation/h28_after/20211224_jigo/nakamura_jigo.pdf

「Q-LEAPと相互に連携・協力し…統合的に推進」とあるので、H30年度のQ-LEAP開始以降のERATOの予算額を初号機開発関連費用に組み入れることにします。

ERATOの予算額は、JSTのWebページによると間接経費込で上限15.6億円/5.5年のようです。
ERATO開始がH28年10月、Q-LEAP開始がH30年10月である点を考慮すると、

約15.6億円 × 3.5/5.5年 = 約9.9億円

と試算できます。

共創の場形成支援プログラム「量子ソフトウェア研究拠点」

大阪大学が令和2年度から実施しており、名前のとおり「量子ソフトウェア研究」に関する拠点を大学に整備するものです。

こちらは文部科学省の予算資料(2枚目)で、年間の予算上限は4億円程度とされています(大阪大学拠点は「本格型」のうち、政策重点分野に該当)。

大阪大学の拠点Webページによると、7つの研究課題のうち、国産量子コンピュータ初号機に関連するのは、研究課題5、6、7の3つになると考えられます。

大阪大学「量子ソフトウェア研究拠点」Webページより
https://qsrh.jp/projects/#project_4

従って、共創の場支援形成プログラムでは、

4億円/年 × 3/7 =1.7億円/年
1.7億円/年 × 2年(R3, R4) = 3.4億円

と試算できます。なお、ここでR3とR4の2年間としたのは、阪大拠点の採択がR2年12月で、契約などを考えると、正味ではR3年度からのスタートと考えるのが妥当だからです。

令和元年度先端研究設備整備補助事業(量子技術分野)

理化学研究所のプレスリリースには出てきませんが、設備整備の観点で重要な支援があるので、おさえておくことにします。

これは、令和元年度の補正予算を活用し量子コンピュータ関連の共用設備の整備を行う事業です。
3つのテーマがあり、そのうちの1つ「量子コンピュータに関するハードウェア開発のための機器の整備」について、理化学研究所が採択されています。

例によって、公募要領を参照すると、P.6に予算規模が書いており、7.5億円とされています。
この事業を使って、初号機を開発する上での冷凍機やチップ装置を理化学研究所で整備したと考えられるので、本事業では約7.5億円の支援があったと試算できます。

[参考]運営費(人件費、管理費等の基盤的経費)

さて、最後にプロジェクト経費だけでなく、(正職員の)人件費や管理費等も参考までに試算してみます。

初号機開発の中心となったチームが理化学研究所の「量子コンピュータ研究センター」なので、そこの運営費を試算します。

理化学研究所の「人員・予算」のデータによると、R4年度の運営費交付金は541.64億円となっています。

また、量子コンピュータ研究センターの人員が50名でそのうち、超伝導量子コンピュータ開発チームが約半数くらいは在籍しているとする(ここは根拠ありません)と、25名程度。

理化学研究所全体で3,417名なので、単純に割合で計算すると、

541.64億円/年 × 約25/3,417名 = 約3.96億円/年

になります。これが理化学研究所の運営費の試算です。

あとは共同研究機関ですが、(本当に根拠ありませんが)大体ざっくり共同研究機関全体で理化学研究所の量子コンピュータ研究センターと同じくらいの規模と見積もると、運営費は全体で約8億円/年くらいといったところでしょうか。
まあ、オーダーくらいはあっていると思います…

まとめ

ここまでの結果をまとめると、以下のようになりました。

Q-LEAP「超伝導…(略)…研究開発」:約25億円
Q-LEAP「知的…(略)…応用」:約1億円
ERATO:約9.9億円
共創の場形成支援プログラム:約3.4億円
先端研究設備整備補助事業:約7.5億円
合計:約46.8億円

<参考>
運営費:約8億円/年

ロケット開発や富岳に比べると桁が2つくらい小さいですが、まだまだ商用化には程遠いプロトタイプ機と考えれば、妥当な値段の気がします。

ちなみに、川崎市に置かれたIBMの27量子ビットのマシンの利用料が5000万円/年なので、20社利用&5年間でペイするくらいの値段です。

以上、公開情報を駆使して"本当の"国産量子コンピュータ初号機の開発費を試算してみました。

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