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量子コンピュータ教育プログラム「QC4U」に参加してみた

量子コンピュータの教育プログラム「Quantum Computing For You」略して「QC4U」が今年の9月から11月にかけて実施され、私は、その全日程に参加し、無事に終了することができました。

量子関係の仕事をするようになって約一年ほどが過ぎ、そろそろ表面的な知識だけではなく、実践的なことを習得したいと思っていたところ、QC4Uの前に行われたプログラム「Quantum Annealing For You(QA4U)」の評判がとても良かったこともあり、参加に至りました。

今回の記事ではプログラムの概要紹介とプログラムに参加して得た感想を書いていきたいと思います。

本プログラムで講師を務めた東北大学の大関先生は、このプログラムを10年続けるとおっしゃっていました。この記事が量子コンピュータを学びたいという誰かの今後の参考になれば幸いです。

後ほど詳しくご紹介しますが、ポイントは👇になります。

  • 全く何も知らないところから量子コンピュータの世界に一歩踏み出すための最適な教育プログラムである

  • 全くの初心者でも、グループ活動を通じて量子コンピュータに関するプロダクト作成が体験できる

  • プログラム終了後も継続的に学ぶモチベーションが生まれる

総じて、先生やTAさんのプログラム運営なども含め、素晴らしい教育プログラムでした。

来年1月には量子アニーリング版の講座の2ndシーズンが開催されるので、この記事を読んで興味を持った方はぜひエントリーしてみてください。

QC4U概要

大関先生が講師となり、オンライン講義が3日(+追加で2日)、グループ活動による演習が2日、最後にグループで作成したアプリ(又はアプリ案)を発表する卒業試験の3部構成でした。

講義は1週間に1回ずつ公開で、リアルタイムで講義動画が配信されます。平日夕方からの開催となっているので、社会人でも参加しやすいよう設計されています。
参加者の比率は社会人が約半数、大学生・高校生がそれぞれ10〜20%程度です。

講義の後に、グループ活動への参加を登録した人で4〜5人1組のグループを作ります。グループ分けは、量子アニーリングで参加者の属性・興味・スキルに応じて、"程よい"バランスのグループを自動で生成しているようです。

グループ分け後は、slackに専用チャンネルが作成されるので、slackメインで活動していくことになります。グループ内でのやり取りもほぼslackです。
必要に応じてZoom会議なんかを自分たちで設定していきます。

グループでは、講義で習ったことに基づき、グループでなにか1つの”アプリケーション”を作っていきます。

プログラミング講座でよくある「課題が与えられ、その指示に基づきプログラムを書く」といったものではなく、サービス・プロダクトをグループで自由に検討し、それを実現するためのアプリを作成するという内容になっています。

このアプリ検討期間が1ヶ月程度与えられ、演習(アイデア発表会)を2回経て、最後に、Webで動く簡単なデモ等のお披露目会(卒業試験)を経て終了となります。

全体のスケジュールは👇でした。ちょうど2ヶ月間で全日程終了です。

講義:9月22日開始、毎週1回、計5回
演習(アプリアイデア発表会):10月15日、22日
卒業試験(アプリデモお披露目会):11月21日、22日

QC4Uの感想①:全く何も知らないところから量子コンピュータの世界に一歩踏み出すための最適な教育プログラムである

量子コンピュータという言葉が世間を賑わせて久しく、今はかなり充実した教材が無料でWeb上に公開されています。

例えば、IBMの提供するQiskitチュートリアル、QunaSys(阪大発量子ベンチャー)が運営するQuantum native Dojo、東大が提供する量子コンピューティング・ワークブック等は有名かと思います。

Quantum native Dojoや量子コンピューティング・ワークブックには以下の記載があります。

前提となる知識
Quantum Native Dojoの内容を理解するには、以下のような知識が必要です。
・複素数とは何か
・簡単な関数(sin, cos, exp, ...)の微積分
・行列とベクトルの掛け算、対角化とは何か
こちらの前提知識及びPython・NumPyの使用に不安がある方は、 Chainer Tutorial の1.〜12.を先に学習することをオススメします。
Quantum Native DojoのWebサイトより
このウェブサイトは、量子コンピューティングを手を動かして学びたい方のための入門教材です。量子力学や計算科学の前提知識を極力必要とせず、大学一年程度の数学とPythonプログラミングの知識があれば、ゼロから量子コンピューティングを自習できるような教材を目指しています。
量子コンピューティング・ワークブックのWebサイトより

どちらも基礎からものすごく丁寧に解説している教材ですが、(私のように)プログラミングのド素人や、複素数とか行列とかわからない、という人にとってはなかなかハードルが高い!笑
逆に言うと、これを入門から一人でできる人は相当なコア人材になれる素質があります。

実は、QC4Uの講義で取り扱う内容も、上記テキストから数トピックをピックアップした内容となっており、基本的には同じレベルの内容になっていますが、やはり講義があるのと、テキストが置かれているのでは、参加の意欲や理解のレベルに圧倒的な差があります

また、QC4Uの特徴は、大関先生が「伴走型」を謳っており、オンライン講義でプログラミング環境構築も含めてハンズオンで解説し、視聴者からの質問を全てリアルタイムで回答していくスタイルとなっています(そのため、毎回の講義がかなりの長時間になる)。

QC4U受講を経てQuantum Native Dojoを見ると、一人でも進めて行けそうな感じがしてきたので、扱う内容が同じでも、こうした場があるだけで、かなり入門のハードルが下がることを実感しました。

このため、量子コンピュータに興味はあるけど何から手をつけたらいいか分からない人は、まずQC4Uの講義動画を視聴することをおすすめします(ただし、かなり長時間ですが…)。

QC4Uの感想②:全くの初心者でも、グループ活動を通じて量子コンピュータに関するプロダクト作成が体験できる

上述のとおり、QC4Uではグループ活動でアプリ開発をしていきます。
このアプリ開発という目標設定がQC4Uではポイントとなっています。

アプリ開発をゴールに設定すると、「コードを書いて結果を表示して終了」ではなく、アプリのコンセプトやデザイン、ユーザーインターフェース、アプリ名など、プログラミング以外でも検討しなければならないことがたくさん出てきます

このため、仮に量子コンピュータの深い知識がなくても、グループの中で自分の役割を見つけ、チームの一員として貢献することができます。

QC4Uは「仮想スタートアップ起業の疑似創業体験を通じてチームを育てる」をコンセプトにしており、まさに自分のようなプログラミング初心者はアイデア出しやプレゼン資料作成等でグループ活動に貢献できました。

実際のアプリケーション開発においても、経営・マーケティング等のビジネス人材と量子コンピュータのコアがわかる人材の組み合わせで、新たな価値が創造されるはずです。

最終的に、QC4Uでは、20程度のグループからそれぞれとても個性的なアプリケーションが生まれていました(詳細は👇のYoutube再生リストの卒業試験で公開されています)。

QC4Uの感想③:プログラム終了後も継続的に学ぶモチベーションが生まれる

このプログラムをきっかけに「次はこれに挑戦してみよう」というやりたいことリストがたくさんできました

まず、量子コンピュータについては、感想①でも触れたようにQC4Uを経たことで、Qnantum Native Dojoや量子コンピューティング・ワークブックにも挑戦できそう!と思えるようになりました。

また、アプリを作って披露し、QC4U参加者からフィードバックをもらったことで、この機能があったらいいな、こうしてみたら面白いのでは、などの新しいアイデアが生まれ、次は自分でも何か開発したいと思うようになりました。

実際に、QC4U終了後はpython、streamlit、swiftUIの勉強を始めました。来年は量子コンピュータにもしっかり取り組みたいです。

見えてきた課題?

本プログラムはゲート型量子コンピュータの教育プログラムとして開講されました。QC4Uの卒業試験ではユニークなアプリが多数生まれていましたが、実用化を志向したアプリは少なく、半分以上が量子コンピュータの教育を目的とした用途であったり、量子コンピュータの要素を盛り込んだゲームでした(私の参加したグループもゲームを作成しました)。

昨年度開講されたアニーリング講座では、量子アニーリングソリューションコンテストの開催や、「量子未来社会ビジョン」(政府の量子に関する最新の戦略。令和4年4月策定)での事例紹介など、ユニークかつ実用化を志向したアプリが多数登場していました。

量子未来社会ビジョン(令和4年4月)より

実際に研究開発やビジネスの最先端でも「ゲート型量子コンピュータ(NISQ)は何に使えるのか?」は見えておらず、ユースケースの探索が必要とされています(FTQCまで何も出てこないのでは、という意見もあります)。

今回、意図的に先生が誘導されたのかは定かではありませんが、ゲーム系のアプリの方が参加者からの反応もよく、また、アニーリングでの成果に比べてみると、結果として、やはりゲート型は敷居が高かった、という課題も見えてきた気がしました

一方で、量子コンピュータが古典コンピュータに優位性を示すタスクの探索はもちろん重要ですが、そもそも古典と異なる全く新しい原理で動くコンピュータであるため、現在の延長線にはない、新しい(それこそゲームに使うような)視点があってもいいのかも、と思うようにもなりました。

量子という言葉が世間を賑わせており、半ばハイプのような報道等もありますが、多くの人が量子に(一時的にでも)関心を持って色んな立場/視点で量子業界に参画することは非常に素晴らしいことだと思います。
いつかQA4U/QC4U発のアプリが経済・社会を変革する日が来ることを期待しています。

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