子どもの本のもつ力 世界と出会える60冊

 瑞々しい一冊だった。長年にわたって培われてきた児童文学者としての目が透徹で聡明なところも、ル・グィンの『ゲド戦記』全6冊(岩波書店)の翻訳者として鳴らした言葉の力が滲み出ているところも、それぞれさることながら、人の生き方に掛け値なく向き合ってきた清水さんのクリーンな姿勢が子ども向けの数々の本と重なって、心を洗う「子どもの本」案内になっている。
 それとともに、大人が大人の目で判定する子どもについての見方をいかに払拭するべきかという示唆にも富む。ときに香ばしい文明論をも感じさせた。
 あとがきに「つい最近、78歳になりました」とあって、こんなに長生きするとは思っていなかったけれど、北朝鮮から引き揚げてきた両親が住み着いたところ(掛川)にずっと暮らしてきたことにあらためて思うことがたくさんありますといったことを述べている。
 なにげない一行だったけれど、著者の深い振り返りを感じさせた。4歳十カ月のとき、著者は両親に連れられ妹を含む4人きょうだいとともに、北朝鮮元山(ウォンサン)に近い日本人抑留者住宅から脱出してきたのだった。総勢で十家族あまりの脱出行だったという。

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