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つくつく法師の思い出

庭でツクツクボウシが鳴いている。

ふっと、ある情景が浮かんできた。

それは小学生の頃、夏休みの終わりにひいおばあちゃん家に泊まりに行ったときのこと。

みかん農家だったひいおばあちゃんの家は、山からモノレールを使って、収穫したみかんをトロッコで運んでいた。家の敷地の中までモノレールの線路が敷いてあって、直接予冷庫に入れられるようになっていた。夏にはもちろん使われず、モノレールの赤茶けたレールだけが、太陽に光っていた。

真っ青な空に浮かぶ入道雲の白さ。外にいたら焦げそうなくらいジリジリと照りつける太陽。緑が濃い木々で盛大に鳴くアブラゼミやミンミンゼミたち。

そんな風景を、暗くてヒンヤリとした家の、開け放した玄関の中から見ていた。

ある時鳴き声がツクツクボウシになった。急に吹く風の温度が変わった気がした。

ツクツクボウシの鳴く声を聴いていたら、その時の空気感まで一気に思い出されてきた。


懐かしく思い出す、50年近く昔の夏の終わりの思い出。



2021.9.13    あづさ



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