scp紹介第26回scp-606-jp

今回も張り切ってscpの勉強していきましょう!

scp-606-jp【拷問教会】
オブジェクトクラス:Euclid

特別収容プロトコル:これはいたってシンプルだ。
・部外者が侵入したら「補修工事」というカバーストーリーで退去させる。
・実験許可は研究主任に一任、scp-606-jp-1(後ほど解説)とはDクラスのみ接触許可。他クラスは単独で潜入禁止。
・不測の事態で被験者以外が内部に潜入したらscp-606-jp-1の提案を絶対に了承するな、警備員はすぐに屋内に入って会話を中断しろ。

というのが特別収容プロトコルの内容だ。
しかし、最後に注意書きがある。

※201█/█/██追記、現在SCP-606-JP-1は出現できない状態ですが、収容及び経過観察は続行して下さい。


scpの一部が出現できない?一体どういう状態なのか?

説明: SCP-606-JPは██県██市郊外にある、キリスト教の教会堂と思われる建造物である。
正面玄関に「聖カタリナ告解教会」と記されているが、市役所や日本キリスト教協会などあらゆる組織に記録はなかった。
つまり、謎の教会である。


この、scpの内部に入った人が以下の条件を満たした場合に、キリスト教の修道女の格好をしたscp606-jp-1(以下シスター)が出現する。

条件は以下の通り
1. 入場者が殺人罪、過失致死罪、強姦罪を犯したことがある(検証中、条件を満たす罪状が他にも存在する可能性あり)。
2. 入場者が単独である(出現中に第三者が屋内へ侵入した場合、SCP-606-JP-1は一時消失)。
3. SCP-606-JP-2(後述)内に入場者がいない。


さて、出現したシスターは好意的な態度で接し、告解室へと歩いていく。(告解というのはいわゆる懺悔と同じ意味である。神の使いである司祭の前で自分の罪を告白し、悔い改めること。告解室はそれを行う部屋のこと。)

この部屋の中でシスターは入場した人の罪を正確に言い当てて、償いをすればその罪でやってしまったことを元に戻そうと言うのだ。

報告書には現実改変的な手段で回復とある。

つまり死者すら蘇らせられるということである。

ここで提案を拒否するのであれば気が変わったらまた来てねと言い残してシスターは消失するのだが、提案を受け入れた場合は石の壁で囲まれたscp-606-jp-2(以下拷問室)に転移する。

この部屋の中には中世ヨーロッパ頃の様々な拷問器具があり、転移させられた人は服を脱がされていずれかの拷問器具に拘束されている。

そして、シスターが出現し肉体が変化する。どのように変化するかというと”全身の筋肉が盛り上がり、ごわごわした黒い体毛に覆われ、身長は2.5mにまで伸び、額からは山羊のような角が生え、口は耳まで裂け、目は血のような赤”になり”修道女の服装だけは元のまま”
まぁ、大雑把にバフォメットを想像して欲しい。

そしてシスターは拷問を始める。
安心したまえ、この部屋の中では死ぬことは無い。死んでも即座に回復し、別の拷問器具に繋がれた状態でまた別の拷問が始まる。

拷問中に入場者が中断をお願いした場合、心臓が無くなった死体となってscp-606の祭壇に転移する。



ちなみに、どれくらい耐えたら償いになるのかというのは、未だ償いを完了した例が無いので不明である。

現在SCP-606-JP-1はインシデント-606-JP(追加欄参照)の結果、出現できない状態です。
だから、出現できない状態ってなんなんだよ。

さて、ここからはログを見ていこう
まずは発見ログから(ここから先長いって人は「」:引用部分はすっ飛ばしても大丈夫だよ)



「咲沼博士(当SCP事案研究主任): どうやってあの教会を見つけたの?
 
エージェント・蒼井(SCP-606-JP発見者): 何、ただの偶然だよ。休暇中に、趣味の写真撮影のために緑地帯に入り込んだら、木々の間から突然現れたんだ。尖り屋根の十字架に西日が差す様が、実に荘厳でね。何枚か撮っている内に、中がどうなっているのか気になってきて。見ると、玄関扉は開いているし、ちょっとだけのつもりで覗いてみたんだ。

中はがらんとして、人影はなかった。派手ではないが重厚な装飾に、ステンドグラスから差し込む光。祈りの家の神聖な雰囲気に、思わず気圧された。興味本位で入る場所じゃないなと思って、引き返そうとしたら、声を掛けられたんだ。
 
「聖カタリナ告解教会へようこそ」ってな。
 
絶対に、一瞬前まで、そこには誰もいなかったのに。まるで、最初からいたかのようにシスター・カタリナ、ああSCP-606-JP-1だっけ。彼女が祭壇の前に立っていた。覗きを謝る俺に、彼女は「教会は万人に開かれております」と言って微笑んだ。綺麗で、優しそうな人だったな。どことなく、あいつに似て。いや、何でもない。
 
趣味のことを話すと、快く案内してくれて。どういう流れでそうなったかは、よく覚えていないんだが、気が付くと小さな部屋で彼女と差し向かいになっていた。そこが告解室、いわゆる懺悔を行う場所だとは、後で宗教関係に詳しい後輩から教えられたが。
 
そこで彼女は、俺の昔のあやまちを言い当てたんだ。
 
咲沼博士: あなたのあやまちとは?
 
エージェント・蒼井: すまない、それは言えない。監査部の機密に抵触する。まあ、当時の上司や、理事連中でもなきゃ知るはずがないことだとは言っておくよ。
 
彼女はこう続けた。「神は七度悔い改める者を、七度お許しになります。ここで償いをなさい。さすれば神は」俺のあやまちを帳消しにしてくれる、と。
 
咲沼博士: あやまちを帳消し? 何かの例え?
 
エージェント・蒼井: いいや、文字通りの意味だ。その、例えばの話だが、人を殺したことがあるとしたら、被害者を生き返らせてくれるらしい。
 
咲沼博士: それを信じたの?
  
エージェント・蒼井: ああ、信じた。神様はともかく、現実改変が絵空事でないことは知っている。いや、知らなくたって、信じたと思う。彼女は真実を告げている。少なくとも、そう確信させるだけの何かが、その言葉にはあった。
 
咲沼博士: ”償い”というのは、具体的にどんなことを?
  
エージェント・蒼井: すまない、それは聞きそびれた。そこで、急に恐ろしくなって、教会を飛び出してしまって。ぐずぐずしてると、彼女の提案を受け入れてしまいそうでな。」

財団のエージェント・蒼井が休暇中にこの教会を見つけたそうな。
彼のおかげで内部の様子と中に入ってからシスターに償いを勧められるまでが判明した。

彼は提案を受け入れなかったのでそのまま教会を飛び出したのだ。

ここからは実験ログである。
第1次調査:ではDクラスを3名侵入させたが、シスターは現れなかった。

これで、内部に1人しかいないとシスターが出現しない事が判明。

第2次調査では連れてかれるのが告解室なので、犯罪歴が関係するかどうかの実験。
犯罪歴の異なるDクラスを3入用意して1人ずつ内部に侵入させた。
結果は予測の通りで犯罪歴によってシスターが出現するかどうかが決まるみたいだ。

第3次調査ではより詳細な犯罪条件を絞り込もうとした実験である。
殺人、過失致死、強姦に反応することが分かった。研究主任は強いて言うなら人の努力では償いようがないというのが共通点なのではと考えている。


次からは拷問室への潜入となるのでログはそのまま引用する。

「第4次調査: 日付201█/█/██
目的: SCP-606-JP-1の提案を了承した場合に見せる反応の確認。
手段: D‐2986(第2次調査に参加済み)を潜入させる。SCP-606-JP-1の提案を了承するよう、あらかじめ指示。
結果: 潜入直後、SCP-606-JP-1が出現。
 
〈中略〉
 
D‐2986が提案を了承すると、直後に両者共に消失。GPS、位置エラー。通信機、一瞬のノイズを経て、石組みの壁を撮影し始める。床が間近に写っており、画面の端にはDクラス職員支給制服が落ちている。識別票からD‐2986の物と確認。共に床に放置されていると推測。
 
《音声ログを元に編集》
 
咲沼博士: D‐2986、D‐2986、応答して。
 
D‐2986: な、何が起こった!? 何処なんだ、ここはよ!?
 
咲沼博士: 通信機を落としたの? 早く付け直して。
 
D‐2986: [じゃらじゃらという金属音]ば、馬鹿野郎、そんなことしてる場合じゃねえよ! 早く助け。
 
咲沼博士: 落ち着いて。GPSは位置エラーよ。他に何らかの情報がないと、救助に向かえないわ。
 
D‐2986: わ、分かったよ、くそっ。窓のない部屋だ。いや、窓どころかドアもねえ。一体、どうやって入ったんだ? 気味の悪ィモンが一杯ある。顔が付いた棺桶だの、刺がびっしり生えた椅子だの、真っ赤に焼けた石が入った壺だの。魔女狩りかっつーの。いや、そんなことより、俺のことだよ! 素っ裸にされて、まな板の化物みてえな物に磔にされてんだよ! は、早く助けに。 
 
※映像の壁に、SCP-606-JP-1のものらしき影が映る。
 
SCP-606-JP-1: 贖罪の間へようこそ。
 
D‐2986: あっ、このアマ、これはてめえの仕業か!? 一体何のつもり。
 
SCP-606-JP-1: 信じております。あなたはきっと、神の試練に耐えて下さると。それでは。
 
D‐2986: 聞いてんのか、早くこの鎖を、え? あ、え?
 
※振動と共に、SCP-606-JP-1の影が変形し始める。
 
未知の音声、後に変化後のSCP-606-JP-1と判明: 汝、罪に相応しき、罰を受けよ。
 
D‐2986: う、うわああ、ば、化物!?
 
咲沼博士: D‐2986、状況を。
 
D‐2986: な、何だそいつは!? まさか、そんな、や、やめろ、やめてく[悲鳴と共に何かが焼ける音]
 
※数分に渡って、D‐2986の悲鳴と何かが焼ける音が続く。
 
D‐2986: [嗚咽混じりに]も、もう、やめてくれぇ。
 
SCP-606-JP-1: 償いは、まだ済んでおらぬ。
 
D‐2986: ギ、ギブだギブアップ! 命令されて仕方なく言っただけだ!
 
SCP-606-JP-1: ████(D‐2986の被害者)を、生き返らせたくはないのか。
 
D‐2986: あんな女、殺されて当然だ! [不適切な表現]の癖に逆らいやがって! 俺は悪くな[呻き声と共に沈黙]。
 
SCP-606-JP-1: 汝、許しを得る、資格なし。
 
《通信中断》
 
※ほぼ同時に、D‐2986の死体が祭壇上に出現。不明な手段により心臓が抉り出されていた。加えて、十数カ所に重度の火傷、熱した金属の拷問具が用いられたと推測。」

…まぁログの通りだね。
拷問に耐えきれずにギブアップを申し込めば死体となって還ってくる。

このDクラスは一回目の拷問でギブアップしてしまった。

「第5次調査: 日付201█/█/██
目的: ”償い”を完了した場合に起きる現象の調査。
手段: D-8834(第3次調査に参加済み)を潜入させる。内蔵型のヘルスメーターを埋め込み手術済み。選抜理由・自身の犯罪を悔いており、なおかつ健康状態も良好。
結果: 〈前略〉
 
通信機、一瞬のノイズを経て、滑車や鎖が吊るされた天井を撮影し始める。
 
〈中略〉
 
D-8834、約4時間に渡って拷問されるも、継続を希望。ヘルスメーターは深刻な数値を表示。
  
《音声ログを元に編集》
 
D‐8834: ああ、私は、死ぬのか。でも、これで、償える。私に汚された少女達が、救われるなら。
 
※ヘルスメーター、D‐8834の心拍停止を確認。数秒後、ヘルスメーターの全数値が正常値に戻る。
 
D‐8834: え? な、何が起き[悲鳴]。
 
咲沼博士: あら、ヘルスメーターの故障だったのかしら? D‐8834、何があったの?
 
D‐8834: け、怪我が治ってる! それに、いつの間にか刺付きの椅子に座らされて[呻き声]。
 
SCP-606-JP-1: 汝の罪は、あまりに重い。一度の死では、償えぬ。
 
D‐8834: なっ!?
 
SCP-606-JP-1: 耐えよ。罪が許される、その時まで。
 
D‐8834: [悲鳴]も、もう無理、無理だよおおおおっ! やめてく[呻き声と共に沈黙]。
 
SCP-606-JP-1: 汝、許しを得る、資格なし。
 
《通信中断》
 
※ ほぼ同時に〈中略〉加えて、背中から足裏にかけて無数の刺し傷。1回目の心拍停止時点までD‐8834は鞭による拷問を受けていたが、その痕は存在しなかった。
 
研究主任のコメント: 悔い改めているDクラスなんて滅多にいないし、今後の実験大丈夫かしら。」


この実験では償いが完了したらどうなるかという実験だったが、一回目の拷問で死んだ後に見事復活。
2回目の拷問に耐えきれずにギブアップしてしまった。
今後罪を心から悔い改めるDクラスが確保できるかという点で研究主任は心配している。


201█/█/██、インシデント-606-JP追加情報(抜粋): 全文は中央資料室██‐████区画に保管

本家記事には最後に追加の情報があり、クリックで開くことができる。
そこに書かれているのは人の手でわざと収容違反が起きたという記録。

その収容違反を起こしたのが、このscpを発見したエージェント・蒼井であるという記録であった。

いったい蒼井は何をしたのか?
長くなってしまうがログが残っているので引用しようと思う。
彼の壮絶な記録を…

「エージェント・蒼井: こちら、エージェント・蒼井。調査本部、聞こえるか? 時間がないので、一方的に話させてもらう。これから、SCP-606-JP-1と接触する。すまない、志願しても却下されるだろうし、これしか手段がなかった。
 
初めて会った時、SC……シスターに、こう言われたんだ。 「片岡様を殺めてしまったこと、後悔なさっておいでなのでしょう?」って。
 
かつての相棒、エージェント・片岡は[削除済]のスパイだった。俺の説得に応じず、重大な収容違反を犯そうとした。あのままでは、K‐クラスシナリオが起きていただろう。仕方なかった、後悔なんかしていない。つもりだったのに。はは、シスターに一言指摘されたら、あっさり気付いちまった。ずっと、自分を誤魔化していたことに!
 
SCP-606-JP-1: 聖カタリナ告解教会へようこそ。お待ちしておりました、蒼井様。
 
エージェント・蒼井: ああ、待たせたな。みんな、迷惑かけてすまない。せめてもの償いだ。しっかり記録して、研究してくれよ。
 
〈中略〉
 
※通信機、一瞬のノイズを経て、壁に設置されたキリスト像らしき物を撮影し始める。
 
エージェント・蒼井: 通信機は、ああ良かった。ちゃんと服と一緒に置いてあるな。SCP-606-JP-2に潜入成功。俺の状態は、水車みたいな物に縛り付けられてるな。[火の粉が爆ぜる音]あちち、下で火が燃えてる。ああ、こいつが回る度に、あそこを通過する仕組みか。えぐいなぁ。
 
SCP-606-JP-1: 汝、罪に相応しき、罰を受けよ。
 
〈SCP-606-JP-2潜入より8時間37分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 1回目の死亡を確認。妙な感じだな。強いて似たものを挙げるなら、リアルな夢から覚めた時か。ああ、今は鋼鉄の処女に入れられて[金属がぶつかる音と共に呻き声]。
 
SCP-606-JP: 汝の罪は、あまりに重い。一度の死では、償えぬ。
 
エージェント・蒼井: その通り、だな[咳と共に吐血している様子]。
 
〈15時間12分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 2回目の死亡を確認。なあ、シスター。あんたは何者なんだ? 何が目的なんだ? [数秒沈黙]返答なし、と。見かけによらずシャイだねえ。[鎖を引く音]いつつ、後ろ手に鎖に繋がれて、引っ張り挙げられて、ああ、地味に痛いんだよな、これ。
 
〈21時間51分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 3回目の死亡を確認。今度は、梯子みたいな拷問具に縛り付けられてる。なあ、あと何回死ねば、理……片岡を生き返らせてくれるんだ?
 
SCP-606-JP-1: それは、神が裁定なさること。
 
エージェント・蒼井: だ、そうだ。[がたんという音]お、おいおい、身長なら足りてるよ、無理に引き伸ばさなくてもいいって。
 
〈29時間2分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 4回目の死亡を確、あっ[水音と共に通信中断]。
 
〈36時間27分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: ご、5回目の、死亡を確認。ああ、中断してすまない。水責めされてて、喋る暇がなかった。今は、ネジの付いた帽子みたいな物を被せられてる。おや、こんな物さっきまでなかったぞ。新しく生成されたのかも[キリキリという金属音]な、なるほど、こいつは頭を締め付け[呻き声]。
 
〈41時間6分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 6、回目の死亡、確認。さすがに、少し疲れたな。変だな、体は治ってるはずなのに。ああ、今度は刺の生えた鳥かごみたいな奴に[ギシギシと金属が軋む音]。
 
〈47時間29分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 7回、目。やっぱり、疲れてるな。体じゃなくて、心が。はっ、俺の心なんて、とっくに。ああ、すまない、状況は、足に、焼けた炭を[焦げる音]。
 
〈55時間51分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 何回目、だったか。ああ、8か。ええと[金属音]。
 
〈71時間3分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 9、回、目[打撲音]。
 
〈77時間25分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 10、回。
 
〈81時間42分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 11。
 
〈86時間15分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 多分、12。まだ、かな。
 
〈91時間21分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 何回目、だっけ。まだ、終わらない、のかな。償えない、のかな。理奈。
 
※以降エージェント・蒼井のカウントが途絶えたため正確な死亡回数は不明
 
〈257時間19分経過時点まで中略〉
 
エージェント・蒼井: 通信機のバッテリーが切れかかってる、これが最後の通信になりそうだ。それに、さすがに限界みたいだ。この化物の顔が、理奈に見えてきてる。何だか、この償いが永遠に終わらないとしても、それはそれでいいような。理奈と一緒にいられるなら。そうだ、伝言頼めるかな。かわいい後輩の、エージェント・戸神に。不甲斐ない先輩からの、最後の助言だ。いいか、お前は。
 
俺みたいになるなよ。
 
《通信中断》」

彼は片岡を蘇らせるというたったひとつの願いのために今も拷問を耐えているのだろう。


シスターの出現条件を思い出して欲しい。
拷問室に誰かがいる場合、scp606-jpにシスターは出現しないのだ。

彼は今も耐えている。日数にして100日以上は間違いない。(黒塗り部分が3文字分なため)


しかし、果たして償いを達成することはできるのだろうか。





ここからは私自身の考えである。
人を1人殺したのであれば償いは1回の死が対等である。
もちろんそう簡単に行かないのが倫理というものなのも理解しているし、実際の償いはそれ以上なのかもしれない。

しかし、100日以上も拷問で殺しておいて未だに償われない罪とはなんだ?
果たして神の許し基シスターにそもそも償いを認める気なんてあるのか?


真意は神のみぞ知るといったところか。








「2016/5/26 16:24


件名 : エージェント・蒼井に関する調査報告
送信者 : 片切 沙苗

ファイル : 3つの添付ファイル

お疲れ様です。片切です。エージェント・蒼井に関する調査が完了したので、ご報告いたします。

結論から申し上げますと、エージェント・蒼井は自らの意志で収容違反を起こしたのだと推測されます。
本人の自宅からは、財団医師から処方された薬が保管されていました。服用した様子はなく、意図的にわかりづらい場所に保管されていました。また、指導を行っていたエージェント・戸神以外との接触が極端に減っていたことから、上層部に対して強い警戒心を持っていたようです。
ミーム・精神影響を及ぼすオブジェクトとの接触は確認されませんでした。診療記録と合わせて、片岡里奈殺害に対する後悔などはあれど、通常の精神状態の範疇であったと推測されます。

追加の調査等、必要でしたら再びご連絡ください。よろしくお願いいたします。」




「2016/6/1 16:57


件名 : Re;エージェント・蒼井に関する調査報告
送信者 : 吹上 真 

ファイル : なし

お疲れ様です。吹上です。

資料送信ありがとうございます。追加調査の必要はありません。
返信遅くなり申し訳ありません。また必要になりましたらご連絡します。」

メールを送信し、吹上は溜息をついた。冷たいココアが火照った脳を良く冷やす。

惜しい人物を亡くした、と吹上は思った。能力的には優秀であったし、それが失われつつあるとしても、今回のようなことでその立場すら失われるのは損失であると吹上は考えている。

資料を見る限り、蒼井は優秀な人間であったことには間違いはない。スパイだった人間に惚れたのは財団内ではよくある悲劇だ、それ自体は責められることではないだろう。
問題なのは、全てを抱え込もうとしたことだ。上層部からの記憶処理を警戒したのか、処方箋には一切手が付けられておらず、人との接触もそういうことが出来ない戸神以外とはあまりしないようになった。内部保安部門にいただけに、そういった”闇”を見てきたのがいけなかったのだろうか。

──そして、そんな行動をした彼の気持ちもわかる気がする。
少なくとも、自分は財団以外で生きていくことは出来ないだろう。そういった確信がある。人の死には慣れてしまった。嫌われることに躊躇がなくなった。そういった確信がある。財団にいるのが長いなら、同じようなことがあるだろう。そして彼にとって、片岡里奈の殺害はその均衡を崩すきっかけだったのだ。ならば、その結末を選ぶことにも納得がいく。

財団職員としてルールを破った蒼井は、責め立てられるべき人間なのだろうか。贖罪の気持ちをないがしろにする財団は悪でないと言えるのだろうか。しかし、自分はそういったことを言えるような人間なのだろうか。
そこまで考えて、吹上は思考を打ち切った。これ以上は倫理委員会に任せるべきだ。少なくとも、自分にはまだ仕事がある。

──俺みたいになるなよ……。

少なくとも、その行動力だけはうらやましいと。吹上は心の中で思い、そして忘れた。





CC BY-SA 3.0に基づく表示
scp-606-jp 拷問教会
by ykamikura
http://scp-jp.wikidot.com/scp-606-jp

エージェント・蒼井に対する人事評価
http://scp-jp.wikidot.com/personnel-assessment-agent-aoi