Story. #1

23時。ぽうっと佇む自動販売機は街を包む闇の中で、強く、光を放っていた。

150円を小銭投入口に入れ、ボタンを押した。ガタンッと大きな音。しゃがみ込んで、缶コーヒーとお釣りの30円を取り出し再び歩き出した。

先程まで痛いほど悴んでいた指先は、缶から発せられる熱で、あっという間に解けていた。

おもむろにコートのポケットからスマートフォンを取り出しロックを解除した。画面一杯に映った忙しなく流れ続けるタイムラインに嫌気がさしてすぐに画面を閉じ、またポケットにしまった。そしてこの一連の動作が身体に染み付いてしまっていることに気付き、改めて嫌気がさした。

白く暖かい溜息は、すぐに冬の刺さるような冷たい風の中に消えた。遠くで猫が鳴いた。

今朝の雨で残った水溜りを跨いだ。少し水がジーンズの裾に撥ねて、舌打ちをした。

1DKの部屋に帰り電気を付けた。散らかりきった生活に酷く苛立った。
缶のプルを勢いよく開けて少しぬるくなったコーヒーを渇いた喉に流し込んだ。
最近はブラックでも苦く感じなくなった。

学生の頃から着続けている草臥れたジャージに袖を通す。丈もすっかり短くなってしまった。

一年中敷かれたままになっている布団の上は様々な服で酷く散乱している。片付けないといけないのは分かっているが、いざ片付けようと思うと腰が重く動き出すことが出来ない。

一通りの作業を終え電気を消し、いつもの調子で布団に覆い被さる怪物達を雑に払いのけて寝転がり、掛け布団に潜る。至福の時だ。

そして、いつも、考える。

ー人生とは、何なのだろうか。ー

気付くと、朝になっていた。太陽はまたいつものように全てを照らす。日々は続く。

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