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コモディティ化する UX スキルとデザイナーへの幻想

私は root のパートナーとして DPM という肩書きで活動をしています。
他に、事業会社の取締役として会社を経営しながらプロダクト開発を進めています。
root やこれまでの活動を通して感じていることを書き綴らせてください。
また、プレイヤーとして、マネージャーとしてプロダクトデザインに向き合い続けてきたときには見えなかったことや、デザインで捉える本質は何かと考えてきたことがいかに枝葉なものであったかを経営者としてプロダクト開発、そしてデザインをする中で気づかされたことがあります。
その気づきにも少し触れられたらと思います。

コモディティ化する UX

もう4年以上前のことです。
会社員として働いていた頃に全社員の前でデザイナーとして発表したスライドです。

UX はデザイナーに聞くもの、と想起する社内の状況を受けて投影したスライドです。
当時「UX デザイナー」という職種が過剰に持て囃されていたように思います。
UX 向上はデザイナーのユニークスキルかのように様相を呈していました。
今はどうでしょうか。
身近な、あるいは直近出会ったエンジニアや、営業の方々などを思い出してみます。
彼らは UX について考え意見することや、顧客へのインタビューも率先して行ないます。
定性でヒントを得、定量で検証するスタンスなど、ありふれた UX にまつわる記事や伝聞などでもって理解に努め、実践で成果を見出そうとする姿に感心すら覚えます。
一方、デザイナーをあえて対照的に取り上げてみます。
「私がユーザーだったら・・・」とユーザーの状況や心理を想い浮かべることなく浅慮な口癖でもって発せられる主観的意見が通る場面は皆さん中にも思い当たる節はあるのではないでしょうか。(無論「私がユーザーだったら」という発言は自身がユーザーでもあるようなプロダクトの場合など、全てがネガティブではないと思っています)
「私はデザイナーなので・・・」「私は UX 分野に自信がある」と息巻くデザイナーのアウトプットがマニュアルなしでは扱えない代物である皮肉にも直面することは一度や二度ではありませんでした。
昨今の開発の現場にいて感じるのは「UX はデザイナーだけのものではない」と開発関係者が気づき始めていることです。
それはその職種の視点からでしか語れない、思わず膝を打つような UX 向上の糸口が見つかる時によく思います。
エンジニア「その UI より今はこんなこともできますよ」「その UI 置かなくても (ユーザーがクリックやキーボード入力しなくても) 実現できますよ」
CS「担当顧客は忙しくなる時期にいつも〇〇という言葉をよく口にします」
例を挙げれば枚挙にいとまはありませんが、私の死角に存在するユーザーの情報をテーブルに上げては重要な見落としに気づかせてくれます。
その度に感謝やチームであることの良さを感じます。
今後も UX の理解や手法の実践においてはデザイナーでなくても良いことは増えていくように思います。そうでなければ開発の現場における UX のスタンダードは低いままかもしれません。

デザイナーの価値は下がるのか

一部のデザイナーにとっては悩ましいことです。
なぜならそれまで「UX の専門家」のように振る舞っていたデザイナーは、ラーナビリティの高いノンデザイナーによる UX のキャッチアップにより、実際は理解や実践スキルにそこまでギャップがないと認識をされてしまっては高騰するプロダクトデザイナーの価値が落ち始めることを想像するかもしれないからです。
私は「そんなことはない」と確固たる主張がありませんでした。
私は私に期待してくれる仕事仲間が「具体的にはよくわからないがデザイナーは何か私たちには持っていない、盲点で必要不可欠なアイデアや示唆を享受してくれる」とでも言いたげな接し方に後めたさを感じることもありました。
今はそうではなかったのだと思える経験をきっかけに、誰でも言及できる UX の側面ではなく、デザイナーだからこそ UX に純粋に力強くコミットできるのだと確信し言語化することができるようになりました。

デザイナーだから追求できる UX

コモディティ化した UX スキルとデザイナーだから追求できる UX があります。
前者を理解し頼り頼られるチーム連携を行い、後者を自覚し惑わずプロダクトづくりにコミットすることがチームの、プロダクトの成果を上げると信じています。
コモディティ化した UX スキルについては言うに及ばずですが、デザイナーだから追求できる UX とは何でしょうか。
それは、ビジネス都合やエンジニアリングのフィジビリティー、ステークホルダーの利害やしがらみなど、それら全てを無視することです。
逆を言えば全てを無視することはデザイナーにしかできないのです。
エンジニアはどうしたって実装のコストが頭をよぎります。
ビジネスメンバーは売上を上げることを無視できません。
デザイナーには何か UX を考える上で枷になるものはありますか。
冒頭でも少し触れましたが、私は事業会社の経営をしながらプロダクト開発責任者でありデザインも自ら行なっています。このデザイナーではない立ち位置にいてもどかしさを感じるのが、多くのことを気にしなければいけないということです。

  • 開発を進める上で気にしなければいけないキャッシュ

  • 開発チームのパフォーマンスを高く保つための考慮

  • ステークホルダーから上がってくるビジネス面での懸念点

  • 開発リソースは最小限に対しビジネスロードマップとプロダクトロードマップのギャップを埋めること など

見えているものを見るなという以上に、常に頭の中には事業のランウェイやら開発の生産性管理、ビジネスに影響する市場の動静などが存在しています。
その中で気づいたのは、実現性やコストなど一切のしがらみを取っ払い、ユーザーの立場にだけ視点を絞ることができなくなっているということです。
言うまでもなく純粋に UX だけを考えることができていない状態になっています。
これは意識したところでもう無理なことです。
自分の名前を忘れようとして本当に忘れることができないように、頭の中で存在をどんなに小さくしようと心がけたところで影響を受けてしまっているのです。
私自身、検討しているデザインを見返し、よくよく考えるとビジネスの懸念から影響を受けたり、開発を急ぐ中でエンジニアのフィジビリティーを先に確認してからアイデアを絞り込む判断をしていたりすることに気づくことがあります。
デザイナーであれば気を払うことなくひたすら強いポジショントークで「ユーザーのことだけを考えたらこうしたい」に集中できました。
開発できるかどうか? どれだけ時間がかかるのか? 来月には売りたい? それを今考えることはより良いデザインの選択を制限し、会心のアイデアの呼び水になるきっかけすら手放すことになる、とことあるごとに自分に言い聞かせてきました。

責任あるポジショントークを行いチームへの敬意を忘れない

意識だけは高く、ビジネスのアウトカムやエンジニアの開発リソース、コスト、フィジビリティー・・・色々なことを気にしている中途半端なデザイナーがいました。
20代の私です。
ビジネスのアウトカムを意識することや一緒に働くメンバーへの気遣いをすること自体を批判する意図はありません。
ただ、それがビジネスに強みがそこまでないデザイナーが考慮するよりもビジネスに強みを有する人がいるのであればその人に任せた方がよく、エンジニアリングのことを気にするのはエンジニアで良く餅は餅屋でリソースを専門性に集中した方が良いのです。
ビジネスの指標を追いすぎた最悪のケースはダーク UX を生み出し、エンジニアリングコストを意識しすぎて実装都合に寄り添いすぎてユーザーにワンアクションを取らせなければいけない UI を初手で出してしまうことは避けたいところです。(エンジニアも楽な提案をしてくれるので悪くは言わないでしょう。それを指摘してくれるエンジニアがいるのであればそのエンジニアの方が UX の責任や権限を持った方が良いです。)

私がそれを強く意識したのは5年ほど前。
元 Google シニアマーケティングマネージャーを務めた多田さん (@countand1) とお仕事をした時のことです。
多田さんにデザインの相談をした時に私は、
「こういう体験にするためにデザインはこうしたいと思うのですが、これをやるための機構はなくゼロから作ることになる上、エンジニアのリソース的に厳しいので現実的ではないと思っています・・・」
続けて妥協案を見せようとすると多田さんが制しました。
「山野さんの配慮はありがたいですが、山野さんは UX の責任者なのでそれではいけないと思います。山野さんが UX に遠慮をしてしまったら誰が最善の UX を提示できるのですか。ビジネスやエンジニアリングのことは気にせず UX の責任者としてユーザーのために軸をぶらさず主張してください。最後にさまざまな事情や情報を判断して責任を負うのは私です。山野さんには自分が思うユーザーにとって最善のデザインにだけこだわりをもって作ってください。」
当時の私には全てのステークホルダーの考慮事項をおさえているかのような意識があり、本職のデザインで中途半端なアウトプットを出そうとしていました。恥ずかしい思い出ではありますが、今の私の中で活きているありがたいフィードバックとなりました。
デザイナーとしてその役割で最大のパフォーマンスを出すことがまず大事です。
そのアウトプットがビジネスやエンジニアリングの要素とうまく噛み合うか、調整が必要か、別の良いアイデアへのきっかけとなるかどうかは出してみなければ誰にもわかりません。少なくともノンデザイナーに新しい気づきを与えたり掛け合わせとなり得たりするようなアイデアは、デザインの叡智から生み出すことで彼らの死角から新しい視点となり、プロダクトを成長させる要素になると考えています。
彼らの知っていることや常識の範囲でデザインをしようとするのであればそれは別にデザイナーが考えなくても良いコモディティ化した UX 開発に留まります。
ポジショントークは時に人をうまくコントロールしたい状況で用いることができてしまう側面から良い印象に映らないこともありますが、目的に誠実に向き合う状況でこそ正しく効果が発揮されます。それはコミュニケーションにおける馴れ合いを避け、事に向き合うことで仲間を大切にします。
あたり前ですが開発チームは専門性が異なるメンバーが集まっています。
専門性が異なるメリットを最大限に活用するために異なりを認識し、自分の役割のベストを提示することが仲間への敬意でもあります。その結果での意見の食い違いが出たとなれば競るのではなく「ではどうするか」と話し合うのであり、意見の食い違いを見通したコミュニケーションがネガティブにはたらくと馴れ合いとなり、議論とアウトプットの着地は安心安堵を伴うが得点は低い体操競技のような結果になってしまうでしょう。

「越境」と混同しない

少し前「越境」というワードをよく目にした時期があります。
プロダクト開発に必要なことは役割に囚われずに積極的にやるということです。
本記事で私の記載したことを読むとこれと逆行した内容として印象を抱くかもしれません。
強く気をつけたいのは、役割に囚われずに行動する状況かどうかを判断しなければいけないということです。
自身の、デザイナーとしてベストパフォーマンスを発揮するときに足りない情報や要素が必要なときは役割に囚われている場合ではありませんから、積極的な行動を取るべきです。ただそれは誰かに依頼するだけの行動の時もあれば、自らデータサイエンティストのように数字を得て考察をするような具体的なアクションまでやらなければいけない時など濃淡はあります。
重要なのは社内に信頼できる専門家がいるのであれば専門領域については任せる判断を取り、そうでないのであれば現在のチームのリソースで最善の行動を取るだけです。
要するに「越境」とは最善の選択を取るときのスタンスであり、それが自分が首を突っ込んで考え手を動かさなければいけないのか、信頼できる仲間へ相談や依頼をするだけなのかは別の話であるということを私は言いたいです。

私が root で働く理由

私はデザイナーが口にする「だからデザインは大事だ」「デザインが組織に必要不可欠だ」「デザイナーは何かすごい」というポジショントークに辟易しています。
自分たちの価値を必死にアピールしているだけにしか見えず、それでいて周りに具体的になぜ大事なのかは全く説明できていませんし理解されていません。
良いプロダクトを作ることが目的であってデザインが目的ではないのは耳にタコができるほど皆さんも理解しているはずです。それでもプロダクトデザイン界隈ではこういった不毛で何も変化が起きないポジショントークが定常で発信されています。
私が root で今働いているのは、プロダクト開発におけるデザイナーのあり方を考えたいからです。そしてそれは良いものづくりを作る集団でありたいと思っているからです。
手段であるデザインを目的に据えたデザインファームは数を知りませんが、そうではなく「良いものづくりを実現するプレイヤーで、得意領域はデザインです」と、事業の成功とその先の社会の前向きな変化の根本を捉え、ものづくりに邁進する集団であることがデザイナーとしての矜持をより高くしていくことにもつながると信じています。
だから、今それができるのは root だと思ってパートナーとしてではありますが日々 root の方々と仕事を共にしています。

まとめ

  • ビジネスやエンジニアリング、ステークホルダーの利害やしがらみなど、ユーザー体験とは別の要素全てを無視する

  • デザイナーは開発チームやステークホルダーの職種に十分な専門家がいるのであれば専門領域は任せて自身の職域でベストパフォーマンスに専念する

  • 「役割に専念する」と「越境」は対照的に扱わない

  • 良いデザインは良いものづくりをすることの手段


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