Dr.ハインリッヒ「砂漠」によせる感想の列挙

※ネタバレ注意

世界!という合いの手が、Dr.ハインリッヒそのものだと思った。世界観ではなく、世界。

美しいものは面白い、彼女らのポリシーでもあるこの言葉を見事に表現していたなと思う。「地図にないアジア」とはネタ中の表現だが、まさにアジア的色彩と奇想天外な展開が合わさった面白い美しさがあった。

「道を歩く」「マー!!!」「おわん」「海に投げる」など懐かしいワードも多く登場する。まるでシルクロードの宝物のように、一つ一つのワードが色を放つ。

そんなハインリッヒらしさの豊穣の一方で、m-1用だ、というネタの作りにもキチンとなっていたのがすごい。狭間を突いてきたな、と思う。

何をもってそう言えるか。それは「お客さんを信じて、徹底的に裏切っていく」構成にある。「地面から何か出ている」→お客さんは蟻地獄で落ちていった幸さんを予想(伏線回収を予期)→「"やっぱり"バイオリン」

やっぱり!?気配出てた!?と彩さんがツッコむ。珍しくお客さん側に立った彩さんのツッコミ。やっぱりって言うくらいだから伏線回収しろよ!というお客さんの裏切られた思い自体が笑いでもあるし、このネタの主題でもある。同じことはラーメンのくだりにも言える。

また、先程彩さんのツッコミの話をしたが、このネタの中で2つだけちゃんとツッコむ場面がある。先程の「やっぱり!?」ともう一つ、「楽器を投げるな!」である。

Dr.ハインリッヒのスタイルとして、「世界を終らせない」というものがある。作り上げた幻想の世界をツッコミ(現実の常識の体現)によって現実に引き戻す、ということはDr.ハインリッヒはしない。だから、基本彩さんは幸さんの奇天烈な展開に「なんでやねん!」という異議を申し立てない。

だから、キチンとツッコんでいるうちの前者は、「やっぱり」という言語使用のレベルでしかツッコんでいない。

しかし例外は後者で、ここだけ「バイオリンを海に投げる」という奇天烈な展開を「なんでやねん!」で制している。もっとも、最初の響きは「なぜバイオリンを海に投げるのか、不条理じゃないか」という意味に聞こえるが、実は次のセリフで「楽器を投げるな!(モラル的に)」という異議だったことが判明する。これは、音大卒の彩さんらしさ、なのだと私は解釈した。Dr.ハインリッヒが定期開催するトークライブ、ディアロークハインリッヒにて、「ホルンはお金に困っても溶かさないな」というくだりを思い出す。

最後のオチだが、奇天烈な話を一般論へと鮮烈に昇華させる展開は、過去の傑作「顔」「トンネルを抜けると」を思い出させる。

ただ今回のものは、「奇天烈な話をする」というDr.ハインリッヒのスタイルそのものを笑いに昇華させたもので、その意味で、ラストイヤーにふさわしい、Dr.ハインリッヒの集大成的ネタに仕上がっているなと思った。


本当に箇条書きでまとまっていないが、取り急ぎ。いやいや、本当に凄味を感じた。これで2回戦か…すごいな…この先どれだけ進化していくんだろうか…楽しみです。

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