20代のキャリア戦略感想戦

最近、会社のインターン生がキャリアに悩んでいます。頼まれてもいないのに勝手にキャリア相談に乗りながら、自分のこれまでについて思いを馳せていました。

色々失敗しながらも、まだまだ道半ばですが、なんとか生き残ってこれたなあと、しみじみと感じています。この辺で次のステップに向かう前の備忘録として、文章にまとめておこうと思いnoteを書くことにしました。

書き始めたら、結構長くなってしまいましたが、もしお暇でしたらどうぞお付き合いください。

はじめに


簡単に私についてお話ししておきます。私は現在28歳で、京都にて宿泊事業者向けのSaaSを提供する会社の代表をしています。東京大学の情報系の学部を卒業したエンジニアで、在学中に今の会社を創業しました。

創業の経緯としては、大学の同期に在学中にホテルを5件も経営する龍崎翔子というバケモノがいて、ITサービスの会社を立ち上げようと思っているという話を聞き、在学中に複数のプロダクト開発経験があった自分は、CTOとして参画させてもらいました。現在は、自分がCEO兼CTOという形で経営を行っています。

キャリアの最初に立てた方針


私が人生を通して実現したいことは「人生を楽しみつくすこと」です。何か、社会に対して大きな当事者意識があるわけでもなく、かなりフワッとしています。

「やりたいことがない」という話をよく聞きますが、もっと素直に考えたら、そんなことはないと思います!あいつよりも幸せになりたいとか、同窓会でイキリたいとか、人間の欲求なんて、その程度のもので十分です。重要なのは後悔しないことなので、最初の動機は多少不純でも、自分に素直なことのほうが重要です。

私は、自分の身の回りの好きな人たちと、できるだけ長く、刺激的な人生を、一緒に生きていきたかったので「できることのインパクトをどんどん大きくしていく」という方針を立てました。

目標達成のための最大のハードル

方針は立ったのですが、目標を実現していく上での1番のハードルは、隣の芝生が青くみえて「今にフォーカスできなくなること」でした。

起業というキャリアを選んだのはいいものの、選ばなかった選択肢に何度も心を持っていかれていました。自分よりもはるかに収入のいい同期や、同じ起業家だけど、目的がはっきりしていて、足早に進んでいく友人。みんなから置いていかれているような気がして、日々ジェラシーを燃やしていました。

何かを達成するためには、人生は十分に長いです。それでも何かを達成するのが難しいのは、必要な努力量を投下する前に諦めてしまうか、本気で目標を達成するために具体的なマイルストーンを考えきれていないからです。

達成したい目標に対して、頭を捻ってマイルストーンを設定し、適宜修正を加えつつ「長期間にわたって筋のいい努力を積み重ねる」ことができれば、大概のことは絶対に実現できます。

日々を過ごす中で、フォーカスし続けるためには、「自分が何を選び、何を選ばなかったのか」を意識しておくことが重要だと気づきました。自分が選んだ選択肢の解像度が高まるほど、達成したい目標に対して、現在の環境ですべきことが明確になり、周囲のノイズが気にならなくなっていきます。

他人のキャリアを羨ましく感じて、過去の意思決定を後悔することがある人は、あらゆるキャリアにはトレードオフがあることを理解しておくといいと思います。SNSは心が動いた時に更新されるので、精神状態が極端に良好な人か、精神状態が最悪の人のポジショントークで溢れています。人生は長いので、いい時もあれば悪い時もあります。キャリアが成功だったかどうかは長期的なものであり、極端な話、死ぬまで正解はわかりません。重要なのは、目標を見据え、常に今の環境を最大限有効に活用する方法を模索し続けることなのです。

それでもたまにはネガティブになることがあります。そういう時は大人しくNetflixを見続ける週末をすごします。

選んだ起業家というキャリアについて

大学卒業後に私が選んだキャリアは起業家です。
「効率の良い成長、安定した収入、プライベートの充実」を犠牲にする代わりに「若いうちからのハードな経験、深い学び、責任とトレードオフの自由」を得ることができる可能性があるキャリアです。もちろん失敗する可能性も大いにあります。

私にとっては、東大受験時の経験がキャリア選択に影響を与えています。

私は、長野県の公立高校出身です。高校2年時まで学内成績は底辺だったのですが、高校3年生になるタイミングで一念発起して独学での受験勉強を始めました。

独学は聞こえはいいですが、初期の学習効率は悪いです。受験という観点だけでいえば、正直あまり勧めません。私は受験勉強を始めたのがかなり遅かったのと、そんなに多く東大生を輩出する高校でもなかったので、身の回りにロールモデルがおらず、独学を選択するしかありませんでした。独学を通じて、いろいろと試行錯誤した上で、プロセスに確信を持てなければ全力で集中することができないという癖がつきました。学習時間は変わらずとも、やり方を変えることで大きく効果が違っていたので、とにかくプロセスにこだわるようになりました。(結局、1年間の浪人をしましたが、実際学習に意味があったのは、最初の1ヶ月と最後の半年だけだと思います。)

こういった背景から、誰かに教わるよりも、自分の経験に基づくプロセスへの確信を重視するようになりました。もしも自分が新卒で大企業に行っていたら、先輩から言われたベストプラクティスをいちいち全て疑って、自分で確信が持てるまで全力でフォーカスすることができず、多分嫌われて干されていただろうし、同期に比べて短期間で成長することができていないだろうなと思います。

あとは、大企業に入って、安定した収入を得てしまったら、それを捨てる判断は並大抵の覚悟ではできません。さらに、エリートであるというプライドから、失敗を過度に恐れるようになり、チャレンジしない理由がどんどん強化されていくだろうと思いました。

そうなってしまったら、一歩を踏み出すハードルは上がり続けてしまいます。いつかは自分も独立したいと思っていたので、逆に、なにもないポンコツな今が最適だろうと、この道を選びました。

あとは単純に、早起きが苦手だったのも大きいです。

事業創出能力を得るという戦略


上記のような判断で、ファーストキャリアで起業という道を選び、起業家という肩書きを得ました。肩書きだけは急に立派になりましたが、実際にはただの新卒のプログラミングオタクです。プロダクトを作り切るスキルには自信がありましたが、ビジネスに関してはど素人でした。

創業してから最初の1年は、共同創業者の龍崎から言われたサービスを作ったり、簡単な社内管理ツールを受託開発したりしながら、先輩起業家に話を聞いたりして、起業家というキャリアの解像度を高めていきました。

そんな中で、以下のような発見がありました。

一つのビジネスモデルの寿命はどんどん短くなっていっています。ChatGPTをはじめとする、LLM周辺のビジネス環境は最近特に顕著ですが、ビジネス環境の変化のスピードは日々加速し続けています。自分はエンジニアだったので、AWSやGCP、Azureといったクラウドにトレンドの技術が実装されて、技術がコモディティ化していくスピードに驚愕していました。

仮に一つのビジネスモデルで成功したとしても、数年で成長限界を迎え、業績が悪化していくというケースが散見されます。今のビジネス環境では、一度成功して逃げ切るという選択をすることはもはや不可能になっているのです。

このような環境でリスクを最小化しつつ、インパクトを高めていくには、継続的な「事業創出能力」を持っておけたらいいのでは?と考えました。

私の考える「事業創出能力」とは以下の3つの力を持つことです。

  • 機会に対して迷いなく投資できる安定した資金力

  • 自分でアイデアを事業化し、グロースした経験

  • グロースに必要な信用できる仲間

世界は、ここまでダイナミックに変わり続けているので、ビジネスのチャンスは常に転がっています。しかし、チャンスの大小は完全に運です。チャンスが来た時に迅速に動ける状態を作ることさえできていれば、迷わずチャレンジを繰り返せるはずで、後悔しないだろうと考えました。

どのようにやったのか?


上記の「事業創出能力」を得るために、私が行った意思決定は「短期的な大成功を諦める」というものです。

スタートアップには、Jカーブの成長曲線を描くというセオリーがあります。大きな成長可能性のあるマーケットを発見し、先進的なプロダクトを投入し、赤字を掘りながらマーケットを開拓して、後で一気に収益化するというセオリーです。

この方法は、ごく短期間での爆発的な成長を実現できる可能性がありますが、バーンレートが売上を上回るので、成長資金を得るためには、常に成長をし続けて、次の調達のタイミングで評価額をあげている必要があります。

しかし、マーケット状況は常にカオスです。正直、この先どうなるのか、全くの暗中模索だった自分には、歴戦の猛者がひしめくマーケットを潜り抜け、計画通りにグロースし続けることができる自信はありませんでした。

シリコンバレーでは、起業してうまくいかなかった時には、早々に会社をたたんでリスタートできる環境が整っているようですが、日本ではそういった例はあまりみません。

あとは、ALL STAR SAAS FUNDのブログでだったと思いますが

失敗した経験は、次の起業の成功確率を上げない。
成功した経験のみが、次の起業の成功確率をあげる。

という統計データも発見しました。これは現在の私の直感にも合います。乗り越えた経験がなければ、課題を知っているだけでは意味はありません。

ちなみにALL STAR SAAS FUNDさんのブログはとても良質なコンテンツで、無料で読んでいることが申し訳なくなるほど面白いです。日頃の感謝を込めてリンクを貼っておきます。

失敗が許容されづらい市場環境かつ、失敗そのものから学べることが実は少ないのであれば、失敗しないことが重要なのだと思いました。

つい先日、Coral Capitalさんから以下のような記事がでていましたが、失敗して諦めてしまった経験は、よっぽど自己肯定感が高くないといつまでも足を引っ張ってしまうので、ないに越したことはないよなあと思っています。

中くらいの成熟したマーケットから始める

当時の自分には、極端な成長をもたらす可能性のあるアイデアも、それを実現するための具体的なマイルストーンも、どうしても思い浮かばなかったしあっているかどうかも判断できなかったので、自分でもイメージができる現実的なステップとして、黒字化を目指す事業を作ることにしました。

この事業をしっかりと育てることで、今後、機会に投資できる資金力と、事業経験、信頼できる仲間、つまり最初の「事業創出能力」を得ようと考えました。

そうして狙いを定めたのが、スタートアップが参入するには成長性が低く、個人で戦うには大きすぎる「5億〜20億規模の成熟したマーケット」です。

中規模の成熟したマーケットは、大きな成功を狙えない代わりに、競争が少なく安定しています。すでにビジネスとして成立しているので、マーケットの存在も証明されています。この状況下なら、後発でも、モダンな技術スタックで開発コストを抑えて、既存の代替品を改良したプロダクトを提供すれば、十分な競争優位を作ることができるのでは?と考えました。(実際には、当時ここまで解像度は高くなかったですが。。。)

もしも、単に黒字化を目指すのであれば、コストをかけてプロダクトを作るよりも、受託開発などで、労働集約的な事業を展開する方がコストやキャッシュフローの見積もりが立てやすいし、手っ取り早くて楽です。しかし、私は営業が苦手だったのと、せっかく起業したんだから、オーナーシップを持って、自分が好きなものを作りたいと思い、黒字化を目指すという目標に対しては非効率な、SaaSでのプロダクト展開をすることにしました。

後付けですが、この選択は正解でした。正解だったと思う主な理由は以下の5つです。

  1. 人材獲得能力が事業成長のボトルネックになるような事業は、生産人口が減少していく中で、長期的には強い競争力を保てない可能性があるから。

  2. 無料で使えるリソースである自分のプログラミングスキルにレバレッジをかけられるようなドメイン選定をするべきだから。

  3. 特定ドメインに特化した専門性の高い人材ではなく、ジェネラリスト的な動きができる人材を多く確保することで、人材の流動生を高め、次のチャレンジの成功確率を高くすることができるから。

  4. 徹底的に業務の自動化を行うことで業務負荷を下げ、事業継続に必要な人件費を抑えることで、バーンレートを低く保てるから。

  5. プロダクトを作るのが楽しくて、モチベーションを高く保てたから。(これが一番でかい)

また、中途でのスキルフルな人材獲得を積極的には行わず、未経験の人材の育成に力を入れました。主な理由は以下の2つです。

  1. 人材獲得競争が苛烈になることが見えているので、人材育成能力こそが長期的な競争力の源泉になると思ったから。

  2. この先陥るであろう苦難の解像度が低く、高単価でハイスキルな人材を採用しても、うまく使いこなすスキルが自分にはまだないと思ったから。

人材採用に対して、暗黙的にこのような制約を課していたのですが、そんな中でも輝かしいキャリアを持った方や、ユニークなキャリアを持つ熱意あふれるメンバーがジョインしてくれて、自分にはない知見で事業開発をリードしてくれました。

未経験で採用したインターン生も想像を超えて優秀で、売上をリードしてくれたり、日常の保守的な業務から自分を手離れさせてくれたりしました。

こうして、深い学びを得ながら、最少人数、最小コストでのグロースを実現していくことができました。(すんなり書いていますが、ここまで紆余曲折あり、3年かかっています。本当に石の上にも3年です。)

そしてなにより、素敵なお客様に自分の作ったものを使っていただけることが本当に嬉しくて、最大のモチベーションになりました。本当にありがとうございます。今は更なる拡大に向けて、ビジネスサイドを拡充しつつ、バグが多かったソースコードを刷新しています。刷新が終わり次第、今後さらに加速させていきますので、今後もどうぞご期待ください!要望お待ちしています。

新規事業に舵を切るシグナル

ある程度事業を進めると、ビジネスに対する解像度があがって、雲を掴むような話だと感じていた大きなチャレンジにも現実味を感じられるようになっていきました。

しかし、既存の事業が十分に軌道に乗らないうちに次のステップを踏み出そうとすれば、投資余力の土台が揺らぎ、全てが崩壊してしまうことさえあります。自分も何度も新しいものを作りたい誘惑に駆られましたが、それが既存事業からの逃げの選択肢なのであれば、基本的にはNGです。

ここでは、自分が発見した、新規事業に手をつけても良いと思えるシグナルをいくつか紹介します。

  • 数ヶ月間安定して単月黒字化しており、今後も売上が増え続ける見込みが立っている

  • データドリブンでの効率的な意思決定が可能になっており、経営者の直感的な意思決定がほとんど不要になっている

  • 中長期での個々人が取り組むべき目標がはっきりしており、それらを達成することによって事業拡大をしていける自信がある

  • プロダクトへの追加投資をしなくとも、セールスのエクセレンスを向上させることによっても売上が伸ばせる

  • 事業を伸ばす上で、技術的負債を解消に投資する優先度が高くなっていることにビジネスサイドも合意している

上記のシグナルは、ビジネスモデルに対する根本的なピボットをしなくても、自発的にグロースできる流れに乗っていることを示しています。
逆に言えば、これらを達成できていないならば、まだ新規事業に踏み込むタイミングではありません。もう少しやり切ってから次のステップを検討しましょう。

自分の場合は、単月黒字の達成よりも、自発的にグロースしていく体制の構築に本当に苦労しました。

グロース体制の構築について

ありがたいことに常にメンバーのモチベーションは高く、業務体制も磨かれてきていたのですが、サービスを利用してくれるお客様が増える中で、どうしても目の前の緊急度の高い業務ばかりに目を奪われ、長期的な視点を持つことが徐々に難しくなっていったタイミングがありました。

それ以前は、とにかく黒字化を目指すのに必死で、それどころじゃなかったのですが、単月黒字を達成して、ある程度余裕ができ、複数の選択肢が現れた途端、なかなか一貫した方針を打ち出せなくなりました。どうしても進むべき方向が見えてこず、毎日不甲斐ないなあと思い続けていました。

何ヶ月かこんな状態が続いていたのですが、家でゴロゴロしているときに、ふとお守りとして持ってきていた、受験期に自分がつけていたノートが目に入りました。あの頃の自分は、何をすべきか明確にわかっていたし、何かヒントがあるかもと思い、開いてみると、結構衝撃を受けました。

当時の自分、とにかくめちゃくちゃ模試の結果を反省していたのです。間違えた問題を全て洗い出し、分野ごとにまとめ、徹底的に自分の苦手に向き合っていました。

比べて自分はどうでしょうか?

チームがバラバラになってしまうのを恐れて、その場しのぎのそれっぽい石決定を繰り返しているだけでした。

思い返せば、何度もメンバーからアラートは飛んでいました。「意思決定に納得がいきません」「何がしたいのかよくわかりません」「この業務、モチベが湧かないです、、、」などなど。

当時の私がやっていたのは経営ではなく、現状維持でした。ビジネス環境は急速に変化しているので、現状維持とは、相対的な後退なのです。

メンバーに弱みを見せたら、愛想を尽かしてどこかにいってしまうのではないかと不安で、ずっと自信満々なフリをしていました。何も決まっていないのに、さも自信があるようなフリをしている。出社しても何週間も全く進捗がうめない。とにかくオフィスに行くのが憂鬱でした。

誰もいないオフィスが落ち着くので、毎朝6時30分に出社していました。誰とも顔を合わせなくていいので、土日に出社するのも好きでした。

ただ冷静に考えてみれば、誰が私に対して完璧性を期待しているのでしょうか?みんな、それぞれにそれぞれの人生があって、達成したい目標があります。その手段として、限りある時間を使って、今この場に集まってくれているのです。自分のつまらないプライドでメンバーの成長機会を奪っているのではないか?それっぽい言い訳をしてカッコつけているだけじゃないか?俺は一体誰に、なんのために、媚を売っているんだ?

「どれだけダサくてもいいから、失敗は失敗と認めて、本当に今必要なことをやろう。その結果人が離れてしまってもそれはしょうがない。」と決意しました。

そこから徹底的な自己開示を始めました。完璧性とは程遠い、フルオープンのクソダサ若年経営者のスタートです。

恥も外聞もなく、メンバーに課題を打ち明けて、真正面から取り組み始めました。最初はそれこそ、どうやって取り組むべきか試行錯誤をしていましたが、色々な書籍を読んで、自分たちなりのマネジメントスタイルを構築したら、スルスルと事業が進み始めました。

もう、心から反省しました。私は完全にメンバーをみくびっていたのです。何様だ自分。ずっと最初から支えられっぱなしです。

新規事業に取り組む際の注意点

上記のような経験を経て、私は人に頼ることを覚えました。人に頼ることを覚えすぎて、ぶっちゃけ自分がほとんど不要になりました。

メンバーが気を使って事業進捗を教えてくれますが、正直何を言っているのかわからないこともあります。置いていかれないように、お願いしてMTGにも同席させてもらったりしています。

これが、今の私が自信を持って新規事業に取り組める最大の理由です。メンバーのおかげで、全力で事業推進を行う中でも、自分のリソースが余ったのです。正直、全く予想していなかったことでした。

ちなみに、新規事業に手を出す上で、既存事業のグロースをおろそかにすることは絶対に許されません。プロダクトを信じてくれているお客様の期待を裏切るようなことがあっては、経営者として完全に終わりです。ビジネスの世界でお客様からの信用は、何にも変え難い資産なのです。

そのため上記であげたシグナルは、経営者の直感的な意思決定より、お客様の生の声を適切にプロダクトに反映できるようになってきているシグナルでもあるのです。

新規事業のファーストステップ

いくら一度事業化した経験があると言っても、新規事業の成功確率は低いです。どれだけ万全の準備をしても、思ってもいなかったハードシングスが降りかかり、十中八九想定通りにはいきません。

私は新規事業を成功させる上で最も重要なのは何があっても「折れない心」だと考えています。そのため、最初の新規事業は、最も主体的に意思決定をすることができる経営者が責任を持って1人で始めるべきです。

他のメンバーが売上を確保してくれている中で、自分だけがコストセンターになるので、このタイミングでは、経営者の立場・価値が最も低いと認識しておくと良いでしょう。

新規事業を始める際に筋のいいアイデアも持っていたらいいですが、滅多にそんなことはないと思います。事業アイデアを見つけるためには、日常的にアンテナをビンビンに立てて、徹底的に行動量を重ねる必要があります。

自分は基本的にはインドア派の引きこもりでしたが、今は、予定が合えばとりあえず足を運んでみる、気になったらとりあえず連絡してみる。すっかり陽キャになっています。

アイデアの練り上げ

新規事業のアイデアを練る際には、とにかくアウトプットの量を担保することが重要です。意識的に自分に対しての時間的制約を課し、スケジュールを社内に公開することで、徹底的に量をこなします。

私は、インサイトの深掘りは得意なのですが、最後のアウトプットの一捻りが苦手です。放っておくと無制限にインサイトを掘り進めてしまうので、強制的にアウトプットの機会を作ることにしました。

週に3回程度、ビジネスアイデアをスライドにまとめ、従業員の前で発表する機会を作りました。終業前に15分間、メンバーに時間をもらって新しいビジネスアイデアをプレゼンし、ボコボコに批判してもらうのです。

メンバーの経験や、年齢などは関係ありません。たとえ入社初日のインターン生だったとしても、自分なりの視点で、率直にビジネスアイデアを批判してもらいます。

メンバーにはあらかじめ「俺たちが稼いだ金を使って何をやっているんだ?」というスタンスをとってほしいと共有しておき、労働力を投資する投資家としてリアルに批判してもらいます。質疑応答の後にこのアイデアに何年分の労働力を投資できるかを判断してもらうことで、現実味のあるフィードバックをしてもらいます。忖度なくフィードバックしてもらえるよう、日頃からメンバーとの関係値を構築し、発言に対する心理的安全性を確保しておくことが重要です。

批判をしてくれるメンバーは、将来リーダーシップを担ってもらう幹部たちです。 フィードバックをしてもらう中で、新規事業に主体性を持ってもらいつつ、アイデアに対してクリティカルな指摘ができるよう、日頃から自発的に学習してもらい、人材価値の底上げをはかります。

ちなみに、自分が普段、本ばかり読んでいて、相談されるたびに知ったふうな口を聞いているせいか、共同創業者の龍崎が一番ボコボコにしてきます。表情も違っていて、明らかに楽しんでいます。他のメンバーは哀れに思って慰めてくれたりしますが、強い心を持って、慰めよりも、もう一発殴ってくれと言えるかどうかが重要です。

既存事業をメンバーに任せる以上、経営者は、自分が価値を生み出していないという自覚を持ち、必死に行動量を積み重ねる必要があります。

新規事業のグロース

試行錯誤を繰り返して覚悟が決まったら、次のステップに進みます。私はこの時点で初めて、エクイティでの資金調達を考えはじめました。

既存プロダクトでの学びを活かし、コストを最小化しつつビジネスモデル上の最大のリスクを順番に潰していきます。

一度事業のグロースを経験していれば、この先に起こることの解像度が上がっているので、比較的容易に潰すべきリスクを判断することができるようになっているはずです!

リスクが明らかになるたびに、そのリスクを乗り越える検証が必要になります。潜在ターゲット顧客へのインタビューが有効です。これまでの人脈をフル活用して、随時フィードバックをもらいにいきましょう。(インタビューに協力してくださった方、本当にありがとうございます。今後もどうかよろしくお願いします!)そして本当に人手が必要になるまでは、コストを抑えて、コツコツと一人で事業を作っていきます。もちろん必要なコードは自分で書きます。適宜、徹夜もします。

メンバーには、常にビジネスの進捗を共有し、リスクを潰して成功確率が上がるごとに、徐々に人員と予算を増やしていきます。

新規事業の撤退基準

最初の新規事業に取り組む中で忘れがちなのは、撤退基準を明確にしておくことでしょう。私はこれまで、どれだけハードな状況でも、他に選択肢がないので、ゴリ押しで乗り越えるという経験をしてきました。そのため「失敗だと判断する基準」がかなりバカになっています。しかし、全てのメンバーがそうではありません。

失敗や、終わりの見えない停滞が続けば、当然不安が蓄積し、徐々にモメンタムは失われ、離脱を検討するメンバーも出てくるはずです。どうあっても未来は不確実です。ハイゼンベルグが言っています。納得のいく撤退基準をあらかじめ用意しておくことで、何よりも貴重なリソースであるメンバーの不安を軽減することを重視すべきです。

事業創出能力のさらなる拡大

これは、最初の新規事業を成功させて、さらなる「事業創出能力」を得た、現時点での自分たちの到達点の、さらに次のステップの話なので、まだ解像度が低く、細かく決まりきっていないですが、チームとしてのさらなるインパクトの向上には、経営者以外のメンバーが新規事業の責任者になれる状況を作る必要があります。

自分の経験上、新規事業の成功には「事業成長への圧倒的な当事者意識」が必要だと確信しています。そのため、事業成長のためには、適切なリスクと、それに見合うだけのリターンが必要です。ここでいうところの適切なリスクとは、明日の飯に困るかもしれない状況です。

上記が真であるならば、事業の責任者を、従業員という形で会社の内部に留めておくことは必ずしも合理的ではないと考えています。

私はまだまだ道半ばですが、これまで私がとってきたキャリア戦略は、リスクを承知で私の成長を信じ、気長に待ってくれた方々によって支えられています。それは決して万人に再現性のある幸運ではなく、極端に恵まれた環境にいたから実現できたことなのだと感じています。私が施してもらったことを還元するため、必ず自分も、誰かを全力で支援できる立場までたどりつき、同じようなキャリアを、より短期間で実現できる体制をつくります。

まとめ

紆余曲折を経て、現時点で言語化している、私の戦略についてまとめると以下のようになっています。

  1. 中規模のマーケットで、学びながら「事業創出能力」を身につける

  2. 「事業創出能力」を維持・拡大しつつ、チャレンジすべき機会を探す

  3. 機会を発見し、高速でチャレンジを繰り返し、さらなる「事業創出能力」を身につける

  4. 「事業創出能力」の属人性を廃し、さらなるスケールを目指す。

自分の能力の不足に真正面から向き合って、時間をかけることで確実にステップアップしていくという戦略です。ユニークかもしれないなあと思うのは「チームの成長と学習のために時間をかける」という意思決定をしている点です。周囲の起業家はもっと早足で前進しています。普通は焦ります。

私の回りの方々やメンバーには、こんなにも変化の激しいマーケット状況で、気を長くして支援していただけており、感謝の念が尽きません。私の諦めは極端に悪いです。着実なステップを踏み、必ず一緒に成長しましょう。引き続き末長くご支援いただけると幸いです。

次の目標

ところで、私の次の目標は、33歳までに、つまり今から5年後までに、利益率40%でARR100億を達成するサービスを実現することです。

創業当初は雲を掴むような話でしたが、今は、「どんな条件が必要なのか?」「どのようにはじめて、どこまでターゲットを拡大する必要があるのか?」「どのようなビジネスモデルを選択しなくてはならないか?」などなど、少しだけ要諦をつかめるようになってきています。

多くの失敗を乗り越える中で、不必要なプライドも無くなって、等身大の自分を受け入れられるようになりました。あらゆる方々からの率直なフィードバックも、すぐに学びに還元できるようになってきたと感じています。

現在、この目標の実現のための試行錯誤の真っ最中で、投資家の方向けのピッチなどにも積極的に参加しています。本当に楽しみながら、苦しみながら、チャレンジさせていただいております。毎日、明日が楽しみです。

実際にやってみて想定と違ったこと


いまでこそ、振り返って、ある程度言語化ができていますが、当初立てていた計画は全く想定通りにいっていません。周りの優秀な起業家を見て、自分の意思決定に関して、何度も不安になりました。

ここでは、今に至るまでに起きた想定外をいくつか挙げておきます。

コロナの流行は予想できなかった

最初の事業ドメインに選んだのは、龍崎の影響もあり宿泊業でした。サービスの初期開発を経てベータ版をリリースした直後にコロナが直撃しました。宿泊業は大打撃をうけ、当初組んでいた計画はボロボロになりました。結果的にはなんとか乗り越えることができましたが、ものすごくハードでとても貴重な経験でした。

事業成長のために見積もっていた時間が短すぎた

半年〜1.5年でできると思っていたことが、実際には3年以上かかりました。今からやれば確かに1年程度でできると思いますが、当時の実力では到底不可能でした。事業成長の見積りの甘さは、経験の不足に起因しており、最初に外部調達をしなかった意思決定は正しかったと認識しています。

有名なセオリーを信用しすぎてはいけない

どんなセオリーにも成立要件があります。巷でもてはやされるあらゆるセオリーは、特定の条件下でのみ有効なのであり、自分のパターンに当てはまるかどうかは自分で判断しなくてはなりません。私たちはビジネスモデルを途中でフリーミアムモデルからサブスクリプションモデルに転換しました。もし、いまだにフリーミアムモデルに固執し続けていた場合、黒字化は実現できていなかったと思います。

合理的な意思決定をすることが難しかった

今でこそある程度客観性を持って事業と関わることができていると思いますが、事業がうまくいっていないタイミングでは、ありのままに現実を受け入れることがとても難しいです。「事業を否定されること」=「自分を否定されること」だと感じてしまい、まともにフィードバックを聞くことができなくなっていました。しかし、客観的に事業を捉えることができなければ、適切な改善策をとることはできません。四六時中考え続けているので、プロダクトは自分の一部になってしまいがちですが、一定の距離をおき、プライドを持つべきところははっきりと意識しておくべきです。

ミクロで短期間の変化は予想することが難しいですが、マクロな流れは予想でき、コントロールすることができます。常に現在地の認識を改め、大きな最終目標に対して、着実な一歩を重ねていくことで、達成に近づいていくことができます。

再現性のない幸運


まだまだ成功には程遠いですが、私がこれまで上記のようなキャリアを辿ってこれたのには再現性のない幸運が含まれています。

経験者とともに創業できたこと

私の最も大きな幸運は、なによりも大きなハードルであるはずの、「起業する」というハードルを、気づいたら突破していたことです。当時は社会的責任がほぼない学生の身分ながら、経験のある共同創業者とともに起業できたことが幸運でした。龍崎が経営していた会社は、すでにある程度安定していたので、創業当初は社内で使うシステム開発を発注してもらったりなど、資金繰りの支援をしてもらいました。そのため、腰を据えて戦略を練る時間をもらえました。人材に関しても龍崎の会社から支援してもらっていました。龍崎は知名度も高く、持ち前のカリスマ性で、募集をかければ優秀な人材が集まってきます。加えて、自分より数年長く事業をやっているので、採用のイロハもわかっています。事前にこれまで踏み抜いてきた地雷を教えてくれるので、自分はこれまで、スタートアップにつきものの採用面での失敗を経験していません。

一番きつかった時に、もっときつい人が隣にいたこと

サービスをリリースした直後、コロナが直撃しました。自分が事業ドメインとして選んでいた宿泊業に直撃だったので、普通なら結構な確率で心が折れていたと思います。しかし、龍崎の会社は、もっと規模が大きく、バーンレートも大きい状態で、直撃を受けていたので、どう考えても抱えている心労が自分の比ではありませんでした。このとてつもない危機に対して、本気で苦しんでいる姿を隣で見ていたので、自分の苦労なんて大したことないなと楽観視することができました。楽観視しすぎて、業務終了後にフットサルとか、バドミントンをしていたので、相当ムカつくやつだったと思います。

創業時にプログラミングスキルを持っていたこと

学生時代に、いろいろなエンジニアインターンに参加させていただいていたおかげで、起業前にプロダクト構築のスキルが身についていました。これがなければ、私にはこれほどの選択肢はありませんでした。

当時の自分はクソだったので、未経験から育成してくれたのにバリューを発揮する前に仁義を通さずに辞めてしまったりしていました。反省しかありません。本当にすいません。正直恥ずかしすぎて連絡ができません。

創業者がコードを書けることは、特に初期のバーンレートを下げる上でとても役に立ちます。プロダクトを早く作りたいなら、創業者が寝なければいいだけなのです。プログラミングのスキルはテクノロジー領域で起業するなら必須だと思っています。少なくともファウンダーの中に信頼できるエンジニアを入れましょう。信頼できるエンジニアとは、何があっても逃げないエンジニアのことです。スキルは、責任が伴えば必ず向上します。ちなみに、プログラミングスクールは完全に無意味です。実際にサービスを作っている現場に行きましょう。

一つの成功体験を持っていたこと

自分の人生の中で、無理めに見えた挑戦である、東大受験を突破できていたのもとても大きかったです。高校の1〜2年生の時は、全くと言っていいほど勉強をしておらず、学内で最低点を争うような状況から、一念発起してなんとか合格することができました。年に1〜2人程度しか東大合格者を出していない高校だったので、自分的にはかなり無理めなチャレンジだったのですが、運良く突破することができました。人によっては「そんな簡単なことを偉そうに」と思うかもしれませんが、本当に貴重な財産になっているのでどうでもいいのです。この経験から、やってやれないことはないのだというマインドを手に入れることができました。ワンチャンいけるかもと思わせてくれたドラゴン桜に感謝です。

最後に


本当に私は甘やかされた起業家です。通常は踏み抜くであろう地雷を、一つ一つ丁寧に教えてもらいながら、ヌルヌルと潜り抜けてきました。

いただいたご恩を忘れず、自分もいつか誰かをもっと甘やかせるようにこれからも邁進してまいります。まだまだ道半ばですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。また数年後にキャリアの感想戦ができるよう、頑張っていきます。

採用情報


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。気づいたら15000字以上も書いていました。きっとほとんどの人がここまで辿り着いてはいないでしょう。

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このnoteでは、肝心の事業内容について全然話せていないので、ほんの少しでも興味を持っていただけたら、ぜひカジュアル面談をさせてください。連絡待っています。

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