セレクトショップの新たな形

「モノ」ではなく「コト」を売る。

このコンセプトを掲げ、商売を始めてから約3年半が経つ。

その間に社会にどのような変化が起こったのか。

まず当店HOWDAYはファッション業界で初めてYouTubeを使った売り方を確立した。新商品の入荷に合わせ、商品の紹介をする動画を投稿し、それを観た視聴者の方はそのまま概要欄のリンクから販売サイトに飛び、実際に商品を購入できる。通称「デリバリー動画」と言われるものだ。動画にすることで着た時の着用感、生地の動き、色味などがよりリアルに伝わる。

また、商品の特徴がわかりやすいというだけでなく、日々の動画投稿を通して動画投稿者と視聴者の間に継続的なコミュニケーションが生まれ、特別な関係値が生まれる。

「同じモノを買うならあの店から買おう」「あの人から買いたい」

このようなある種の信頼関係が、ネットで洋服を買うことの心理的障害を下げ、さらには買い物が単なるモノとお金の交換ではなく、それ以上の価値を持つようになる。簡単にいうと「モノ」ではなく「コト」を売るということはこういうことである。

当店はこの売り方で2019年8月時点で既に月商1000万円を達成させるところまできていた。長野県の片田舎のセレクトショップが、である。つまり今から約一年前には消費者の買い物の仕方や価値観には変化が訪れていた。動画を見て、その商品を買うということを当たり前のことだとする層が生まれていたのだ。

そこでやってきたのが新型コロナウィルスによる社会的な影響だ。

人々は価値観や行動様式を改めなくてはならくなった。

外出を自粛し、移動を制限し、人と会うことを控えなければならなくなってしまった。当然、買い物の仕方も変化せざるを得なかった。それはファッション業界も同じだ。

あらゆるお店がオンラインストアに力を入れ、動画で商品を紹介し、リモート接客やライブコマースをし始めた。実店舗での販売が難しいのだから当然の流れだ。そうなると地理的な優位性が一気に低くなる。東京に店を構えていようが、長野に店を構えていようが、ネット上ではお隣さんというケースが当たり前のように起きてくる。

そうなった時にお客様に選ばれるのはどのようなお店だろうか。

そう、「モノ」ではなく「コト」である。

その点、当店は3年以上前からこの方向にシフトしていた分、しっかりとした土台があった。まさか当時コロナが蔓延するなんてことは全くもって予想していなかったが、いずれはこのような時代になるのではないかという見立てはあった。それがコロナによって大幅に前倒ししてやってきた形だ。当店は2020年の4月、緊急事態宣言が発せられ、まさに世間が混迷を極めている時にその時点での最高月商1200万を達成、そして2ヶ月後の6月にはそれをさらに上回る月商1300万を達成させることができた。おそらく個店では日本でも屈指の売上であっただろう。

さて、これが今までの話であり、前提の話である。この前提とする強みがないお店は、いくらオンラインに注力しようが淘汰されることになる。

今回僕がしたいのは、これから先の未来の話である。今後セレクトショップ、そしてファッション業界がどうなっていくのかという点だ。そしてそれはオンラインかオフラインか、動画で発信するかどうかのような表層的な議論ではない。もっと根本的な「在り方」に関することだ。

「取り扱い」から「取り組み」の時代へ

結論から言うと、セレクトショップは「売り場機能を持った広告代理店」のような存在になっていくのではないかと考えている。おそらく業界初のコンセプトである。

従来セレクトショップと言うものは「小売」、すなわち「売る」という機能のみの役割を果たしてきた。極端に言えば、販促やプロモーションは基本的に全てブランドに任せ、お客様が買える場所を提供するというのが従来のお店の在り方であった。黙っていても売れていた洋服バブルの時代だ。

それから時代は変わり、お店側やお店の人間がSNSなどで自らのメディアを持ち、積極的に発信するようになったのが昨今。その上で「コト」の重要性が増してきた。こうなった時にフォロワーを抱え、影響力を持ったお店・個人がブランドの成長に大きく関与してくるようになった。

つまり、影響力を持ったお店に並べられることで昨日までは全く無名だったブランドが、一夜にして人気ブランドになってしまうということが起こり得るようになってきたのである。名が知れ渡るだけでなく、実際に売れるのだ。このケースは当店でもいくつもの事例がある。デビューシーズンで即完売といったケースも稀ではない。さらには、既に知名度があるブランドでもお店の力で今まではそのブランドを買わなかった層が買うようになり、事実上のリブランディングのような現象も起こりうる。アイテム単位でも、そのお店がセレクトしたアイテムだけが異常に売れ、他店でも売れ筋となるケースもある。つまりお店自体が「広告塔」の役割を果たすのである。(念のため言っておくが、ブランドのクリエイションの質が高いことは大前提だ。何でもかんでも売れるわけではない。)

一昔前のように、店頭がメディアの役割を持ち、お客様との接点となっていたような時代は過去のものになった。そのような時代には取引先件数を増やす=接点が増えるという図式が成り立ったが、今やお客様との接点は他の方法でいくらでも作れる。コロナがこの流れをさらに後押しした。(勘違いしないで頂きたいのは、メディアとしての優位性を失っただけで、実際の売り場に価値がなくなったということではない。)

このような状況においては、ブランド側もこのような強いお店を単なる取扱先の一店としてカウントできない。これから先はブランドにとって取引先件数が「何件あるか」という点はあまり問題にはならない。件数に関わらず、「どのような店に置いているのか」その内容・質・意思が問われる時代になっていく。なぜならば力を持っているお店は売上で言っても、他の店を数件束ねた規模になり得るし、それ以上に市場に対する影響力を持っているためである。

お店側が「なぜこのブランドを置いているのか?」と問われるのと同じように、ブランド側も「なぜこのお店に置いているのか?」と問われるようになるということだ。

このようにお店が広告塔としての力を持ち、それが市場を左右するようになり、相対的に一部のお店の存在感が増しているというのが現状起こっていることである。ただ現状は「広告塔」であっても、先に述べた「広告代理店」ではない。

ここで広告代理店とは何かという点から話したい。広告代理店の定義はその時代、そして人によっても変わってくる非常に捉え難いものだ。現在、広告代理店の業務は非常に多岐に渡っている。単に広告を作っているのが現代の広告代理店ではない。時には商品開発から携わり、コンサルティングのような業務もこなしたりと、企業の課題解決のためにあらゆる手段を考え、実行していく。生活者と企業の間を埋める、そのようなビジネスプロデューサーとしての役割が強い。今風に言うと、「クリエイティブエージェンシー」や「クリエイティブカンパニー」といった方が正しいのかもしれない。

話をセレクトショップに戻す。

なぜセレクトショップが広告代理店の機能を持つようになるのか。その背景には先述した、強みを持ったお店の存在感が増しているという現実がある。このような状況では必然的にお店とブランドの結びつきが増す。なぜならブランドの価値観が取引先の数ではなく、質が重視されるような状況ではブランド側も件数を伸ばしたいがために下手に取引先を増やすことはリスクとなるからだ。その結果たくさんの取引先から少しづつ売上を立てるのではなく、少数の取引先からたくさんの売上を立てる方向にシフトしていく。1億の売上を取引先100件で達成するのか、10件で達成するのかで考え方・戦略が変わってくるのは当然である。そして取引先との関係値は予算に比例するのだ。

お店とブランドとの結びつきが強くなり、「パートナー」のような関係になった時にお店側に求められるのは実際の売り場で得た定性的・定量的情報を元に、それをブランド側にフィードバックし、ブランドの抱える課題を共に解決する策を考え実行していく力であると考える。

今までのように展示会に行き、並べられたものの中でしかビジネスを展開できないお店は淘汰されていくであろう。山ほどあるその他の手段も発想できなければならない。

一番わかりやすい例は別注企画である。

あるブランドのインラインと別注企画の予算が逆転するモデルも珍しくなくなってくるのではないか。だからこそお店側はブランドやそのコレクションに対する深い理解と批判的な視線を持つ必要がある。むしろこのような視点を持つためにはブランドとの間に深い関係値がないことには不可能である。

セレクトショップは実際のお客様とブランドとのギャップをいかに埋められるか。それを商品やその他でいかに実現できるか。そこを考え世に出していくフィクサーとしての力が求められるのである。これはもはや広告代理店と同じ働きだ。

ただ最も異なる点は、広告代理店のビジネスモデルが手数料ビジネスなのに対し、セレクトショップは実際に売り場を持っておりそこで収益を上げていく小売ビジネスであるという点だ。広告代理店は基本的に結果に関わらず、手数料としてフィーをもらう。しかしお店は違う。ブランド側にコミットし、それが成果になった時はその分お店に返ってくる成果報酬型のビジネスだ。だから「売り場機能を持った広告代理店」と先に述べた。

それはまさにブランドと一蓮托生の関係性を築き、同じ方向を向き、あたかも同じ会社内であるかのように連携し、スピーディに意思決定・実行し、それをさらにフィードバックして次に活かしていくループを作っていく必要がある。

言うのは簡単だが、これは客観的に考えても非常に難しい。以前とは戦い方が根本から変わってくるのだ。

どのブランドを取り扱うかよりも、取り扱いブランドとどのようなことができるのか?どのような化学変化を起こせるのか?ブランドの潜在能力をいかに引き出し、まだ世の中にないものを生み出せるのか?お客様をワクワクさせられるか?

もはやお店の立地が良いだけでも、接客トークが上手いだけでも、インスタの写真がきれいなだけでも競争力を維持することはできない。

「取り扱い」ではなく「取り組み」の時代になっていくとはそういうことだ。



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