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天才を駆り立てるもの Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd "RE_PRAY" TOUR

 羽生結弦が「Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd "RE_PRAY" TOUR」を見事に完遂した。

 2023年11月にさいたまスーパーアリーナで始まった"RE_PRAY"ツアーは横浜ぴあアリーナMM大楽の2024年2月19日まで通算6回の公演を通して進化し続けていた。

 大楽では音楽やプロジェクションマッピングへの憑依度が一段と上がり、上体やフリーレッグの動きの華やかさ、鋭さが増して羽生らしい動きの個性がさらに際立ったように感じる。
 
 「鶏と蛇と豚」は足の動きなど細かくてとてもユニークな作品だが、最終公演では腕や上体の動きが一段と洗練されていた。

 エッジで奏でる「メガロヴァニア」も氷へのアプローチが複雑さを増していたようだ。

 「破滅への使者」は狂気に近いほど絶望的な孤独を、自身の生身の肉体を追い詰めることで形にして晒すという、演技を超えた表現に圧倒された。
 競技会以上の難度のジャンプを跳び切ったのもすごかったが、目的は技術的な要素の成功というより、限界を超えた負荷の向こうにしかない未知の瞬間をとらえることではなかったか。
 一線を越えてもまだ見ぬ世界を手に入れたいという命知らずな激しさは彼を唯一無二にしている魅力のひとつであるけれど、時に追い続けるのが怖ろしくなる。

 2022年7月のプロ転向宣言後、最初の単独公演として競技人生を中心に自らを振り返った「プロローグ」。
 葛藤と旅路の軌跡を癒しと励ましの物語へと昇華させた東京ドーム公演「ICE STORY"GIFT"」。
 そして「ICE STORY」第2弾として"GIFT"につながるテーマを紡ぎながら、ゲームを柱に据え、非ゲーム民、ゲーマーを問わず共感させる普遍性と震えるほどに刺激的なドラマ性を両立させた"RE_PRAY"へ。

 羽生結弦は光の当たる角度で違う輝きを見せる宝石のようにとめどなく豹変し、私小説的な導入からファンタジーへ、さらにダークでミステリアスな異世界へと軽々と遷移していく。自分自身に近いキャラから様々な人のディープな思い入れを背負ったゲームキャラ、癒しや希望を象徴するような神々しい姿まで、すべてを異なるオーラを放つ説得力を備えた存在として氷上に出現させた。

 プロ転向宣言からわずかに1年半ほど。次々と世に出した斬新な作品達によって底知れないクリエイターであり表現者であることを見せつけ、それ自体が生き物のように変容するショーと言う途方もないものを自作独演した挙げ句にキラキラと瞳を輝かせながら「まだ、もっと上手くなれる」と語る貪欲さを、なんと評せばよいのだろう。

PS:
 "RE_PRAY"ツアーを振り返ると、本当にいろいろな気づきや驚きがありました。大画面と贅沢な音響システムで鑑賞した大楽ディレイビューイングは素晴らしかったです。TELASAの各アングルはまだ見きれていません。
期間中には横浜公演のためにイタリアから来日された作家でバレリーナ、イタリア羽生学会のアレッサンドラ・モントゥルッキオ様にお目にかかるという望外の幸せをいただき、彼女のお話に学んだことも書きたいと思っています。

他にも書き留めて置きたいことがいくつかあるのですが、整理するのにまだ少し時間がかかりそうです。
張本人の羽生選手はとっくに先に行ってしまってnotte stellata 2024がもうすぐ。
追いつけない…




 

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