【論文要約】谷晋二(2001) 発達障害幼児の言語指導. 日本行動分析学会(編), ことばと行動, ブレーン出版, 237-259.

 応用行動分析学は、まったく話しことばを持たず、ことばの理解も極端に限られていて、自閉的傾向を示す発達障害児に、ことばを教える試みを行い成果をあげてきた。 これはLovaas(1987)やGreen(1996)等に詳しい。 Lovaasらは、「座りなさい」等といった指示し従うこと、攻撃行動や自己刺激行動といった不適切な行動の減少からはじめること、療育者との一対一で着席した指導をおこなうこと、週20~40時間の指導時間を必要とする。 だが、より指導の効率化を図るためには、どんな刺激と反応の関係が言語獲得に必要で、どのような順序でそれを指導していくことが効率的かを整理していく必要があろう。

 Horne & Lowe(1996)は、命名(naming)の成立過程、刺激等価性の成立におよぼす命名の効果について理論的論文を発表している。 彼らは命名を、「話し手行動(speaker behavior)」「聞き手行動(listener behavior)の相互的(reciprocal)な関係」と定義して論じている。 「りんごはどれ」という質問に、指さしで応じる等といった聞き手行動から、命名が獲得されていくと考えている。 これは、おとなのことば(音声刺激)をこどもが聞くこと、ことばを手がかりとすること、ことばに応じること、おとなの指さし等といった働きかけを模倣などをするといった習慣的行動である。習慣的行動を行い、ほめことばなど社会的な強化が伴うと、その行動が確立維持する。

 聞き手行動の獲得と平行して、音声模倣行動(echoic)の獲得が、命名に重要な要素である。 話し手のことば(言語反応型)と同じことばを聞き手がいうことを、音声模倣行動という。 聞き手行動に音声模倣行動が伴うと、それが同時に出現するようになる。犬の声、犬の発見、犬との接触といった複数の異なった刺激に対して、「ワンワン」といった共通の反応が形成されると、これらの物理的に異なる刺激は機能的に等価な刺激クラスを形成する(機能的等価性:functional equivalence)。 そうなると、おとなの「わんわん」ということばを聞いて犬の方を向いたり指さしをするようになるだけでなく、機能的に等価な刺激に接し「ワンワン」と自発するようになる。

 さらに細かく、Horne & Loweらの論文をみると、言語獲得の基礎過程には反応分化と刺激弁別がふくまれる。 おとなの見ているものあるいは指し示したものを見る「注視行動」、事物に対する適切な習慣的行動や音声模倣行動といった反応分化、おとなのことばによる習慣的行動の制御や事物による音声刺激の制御といった刺激弁別がある。 命名獲得の下位行動としては、音声刺激だけでなく視覚刺激でも出現するといった刺激制御の移行が必要となる。 しかし、自閉症児には人に対する過敏性(小林, 1980)、社会的強化刺激の効力の弱さ(佐久間, 1978)、複数刺激が同時提示されるとどちらかにしか反応できないという刺激の過剰選択性(Lovaas, et al., 1971)といった問題が伴うことが多く、命名獲得の下位行動の形成に困難さがある。

 ことばを話せないこどもといっても、その状態はさまざまである。 どのスキルから指導していくかという戦略を立てる上で、スキル間の関係を整理する必要がある。 以下の戦略の基本には、人への接近行動および社会的強化刺激が十分であることが求められる。 命名獲得までの下位行動の形成には、身体的ガイダンスやプロンプトとフェイディング、シェイピングなどの技法が用いられる。 子どものもっている行動レパートリー、自発できるものから進める。 動作模倣や見本合わせの形成から、命名の下位行動の形成を行う。 音声模倣行動から、命名行動へと展開させる。 さらに、命名行動から、報告言語行動(tact)、要求言語行動(mand)、言語間制御(intraverbal)へと結びつける。 フリーオペラント法で土台をつくり、機会利用型指導法で生活場面において定着させていく。


言語学習スキル獲得のための戦略図

A. 人への接近行動/社会性強化刺激の形成 → B. やり取り行動の形成・B1. 同一見本あわせ → C1. 単純な動作模倣・C2. 道具を使った動作模倣・C3. 事物の適切な操作・C4. 事物の動作理解・C5. 事物の動作表現 → D. 音声模倣の形成 → E. 聞き手行動の形成 → F. 分類学習 → G. 機能的な動作理解/動作表現の使用 → H. 動作模倣/聞き手行動/事物の選択/動作表現/動作理解に音声模倣の随伴 → I. 事物の命名 → J. 事物の要求 → K. 言語間制御の形成 → L. 音声による概念学習


言語学習スキル獲得のための戦略拠点チェックリスト

1. 人への接近行動/社会性強化刺激(A.ほめられると喜び、その行動を繰り返す。 人を避けることがほとんどない)。 2. 動作模倣(C1ばんざい、手を頭などの単純な動作模倣ができる。 C3ハサミや歯ブラシなどの道具を適切に使うことができる。 C2道具を使った動作模倣が出来る)。 3. 刺激‐刺激関係(B1同一性見本あわせができる。 Eことばで事物の選択ができる。 Fジュースを見せたら、コップを選択できる。 動物、のりもの、食べ物、飲むものなどの分類ができる。 色次元での分類ができる。 形の分類ができる。 大小、長短の分類ができる。 B1文字や数字の同一見本合わせができる。 F人物や場所の分類ができる。 L「あ」はどれ、という質問に文字を選択できる。 「○○はどれ」ということばでの質問に家族やよく知っている人の写真を選択できる)。 4. 概念(L「どうぶつ」「のりもの」などのことばで対応する事物を選択できる。 E「食べるものは」「手をゴシゴシするのは」などの質問に、適切な事物を選択できる。 L「おおきい」「ちいさい」ということばで正しい方を選択できる。 「あお」「あか」などのことばで正しい色の事物を選択できる)。 5. 刺激‐反応関係(C2事物を見て、対応する動作をすることができる。 Eことばで適切な動作ができる)。  6. 音声模倣行動(D単音や反復音の音声模倣ができる。 たいていの単語の音声模倣ができる。 二つ以上の単語の音声模倣ができる。 単文の音声模倣ができる。 離れた場所にいる人に伝言ができる)。 7. 報告言語行動(I事物の名称をタクトできる。 事物を見て離れた場所にいる人に「○○があった」と報告できる。 「あかいりんご」「おおきなくるま」など形容詞+名詞の形でタクトできる。 「食べるものは」「手をゴシゴシするのは」などの質問に、ことばやサインで答えることができる。 「冷蔵庫に何が入ってる?」という質問に、冷蔵庫の中を見て正しくことばで返答できる。 写真や絵を見て「どこで」「だれが」「なにを」しているかが答えられる。 どこで、誰が、何をしていると言う説明をことばで聞いて、「どこで」「だれが」「なにを」しているかが答えられる)。 8. 要求言語行動(J欲しいものを声に出したり、動作で要求できる。 欲しいものを見るとその名前を言うことで要求できる。 欲しいものが目の前にない時に、その名前を言うことで要求できる。 ジュースを飲もうとした時にコップがなければ、「コップ」と要求できる。 二語文で欲しいものを要求できる。 困った場面で、名前を呼んで人を呼ぶことができる)。 9. 言語間制御(K「ヨーイ」(イチニ、ノ)ということばを聞いて「ドン」(サン)と答えられる。 「りんごは赤い」というような単文を聞いて、「りんごは?」という問いかけに「赤い」と答えられる)。

ブログ「生活と人間行動」の記事(2005年3月31日)再記。

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