口述試験で面接官に「採りたい!」or「採りたくない!」と思わせる受験者とは

ツイッターを見ていたらⅠB新方式の筆記合格発表がされたことを知りました。これから一般方式も発表され、いよいよ口述試験となると思いますが、私なりに受験者へ口述試験の望み方について書きたいと思います。
普段であればなるべく要綱や統計を根拠に書くのですが、今回は公式発表されていることが少ないため、かなり主観が入っています。
そして、あまり今回の結論について言及している方はいないかと思います。ちょっと長いですが、こういう視点もあるのかと一つの読み物として読んでもらえれば幸いです。

口述試験の対策は、なぜ民間ではなく公務員なのか、国や区市町村ではなくてなぜ都なのか、道府県でなくてなぜ都なのか、などなど既に予備校やツイッターでも色んな方がアドバイスを書いているのでそこはプロに任せるとして、中で働く職員の視点から語らせてもらいます。

まず大前提として、面接官が誰なのかということですが、これは公式に発表されていませんよね。中にいると採用試験に携わらなくても誰がやっているかはわかってしまうのですが、おそらく面接官は誰なのかということは表向きには守秘義務がかかっているはずなので、巷で言われている「面接官は都庁の管理職」という前提で話を進めます。

口述試験ではおそらく「〇〇力(〇〇性)」といった採点項目について4~5段階で評価をしていき、最後に総合評価は何、という評価を行い、それを点数化していると思われます。

この「〇〇力(〇〇性)」というのは都が求める人物像からすると、課題発見力とか積極性とか協調性とかいくつかすぐに想像できそうなものがありますが、もし面接官が管理職だとしたら最後の決め手になるのは「自分の部下にほしいかどうか(一緒に働きたいかどうか)」ではないでしょうか。
これは私も受験時に聞きましたが、職員となって、もし私が管理職で採用試験の面接官をやるとしたら最後はこの気持ちを大事にしたいと心から思います。めんどうくさそうなやつだな、すぐ辞めちゃいそうだなという人は配属先でトラブル起こしたり、本当に辞めますからね。

では一体どういう人なら「自分の部下にほしいな」と思ってもらえるか?
・ものすごく都政について勉強していて、課題解決に意欲のある人?
・過去にリーダー系の役割を担ったことがある人?
・挫折したことがあってそこから這い上がってきた人?
もしみなさんが面接官だったとしたらどういう人と一緒に働きたいですか?一つ目の候補者なんて意欲があってぜひ職員にほしいと思いませんか?

さて、私が管理職なら、ですが、上のいずれでもなく、身もふたもない言い方をしてしまうと「どこの職場に行っても文句言わずに前向きに一生懸命働いてくれる人」です。これ以外にはありません。

理由を説明します。
当たり前の話ですが、管理職というのは実務家です。テレビのコメンテーターや受験生と異なり、都政に課題はあーだこーだ、こうしたらいいじゃないか、ああしたらいいじゃないか、で終わらずに、実際に予算を確保し、執行して都民に貢献しなければなりません。成果が進まなければ局部長から何やってんだと低評価をくらうなど、苦労は絶えない、課題解決に向けて常日頃考えている、いわばプロです。加えて多くの部下を抱えて進行管理をしてメンタルもチェックして、組織管理もしないといけません。そういうプロが新採候補に何を一番求めるでしょうか。
もちろん、最初に述べたような意欲ある新採候補など、都政に興味をもってもらい、色々と勉強してくれるのはありがたいことです。しかし、受験生が考えるような案はまず間違いなく既に都で実行しているか過去に都が検討したが採用されなかったものです。新採候補からず~っと都が抱えてきた課題を解決できるような方法が出てくるとは微塵も思っていないはずです。つまり、ほしいのは「都政の課題を解決できるスーパー新採」ではなく「外れじゃない新採」という非常に現実的な視点で受験生を見ていると思うべきでしょう。
それでは「外れじゃない新採」とはいったいどういう新採なのか、もう少し具体的にいうと、それは「すぐに辞めないor病気休職(休暇)に入らない」これに尽きます。

現実として辞めたり病休に入る職員はそれなりにいますが、特に新採含む若手で懸念されるのは「希望していた分野(局)ではない局に配属になって、やる気を失って課題職員化(辞める、病休など)してしまうこと」です。
色々なところで言われているとおり、今は一番最初に配属されるのは主税や教育が多く、新採の大半はそうした職場への配属を希望はしていないでしょう。しかしそのような希望外の職場でも割り切って積極的に仕事に取組み、主任試験や管理職試験に受かって都政の中枢を担っていく若手というのは数多くいます。そして本庁に異動しなくても、主任試験に受からない(受けない)職員でも、割り切って現場の仕事を粛々と進めて現場のエキスパートになる職員もいます。こうした職員はいわばしっかり仕事をしてくれる「外れじゃない職員」な訳で、組織にとっては非常にありがたい存在であり、評価も高いでしょう。
しかし、残念なことに「こんなのは俺の希望していた仕事じゃない。」「こんな仕事やりたくない」と仕事こそするものの、他のやる気を出している若手と比較して平々凡々となってしまい、主任試験すら(受けても)受からず、さらにやさぐれ、課題職員化してしまう若手もそこそこいます。
組織を管理する側からするとこういう「やる気のない職員」て非常に面倒くさいです。指示をしても露骨に嫌な顔をして、場合によっては拒否すらしてくる。その人だけならまだしも職場の雰囲気も悪くなり、他の人にまで悪影響を及ぼします。こういう部下がほしいという管理職は100%いないでしょう。

自分の部下にほしいのは「どこの職場に行っても文句言わずに前向きに一生懸命働いてくれる人」だと最初の方に書きましたが、裏を返すと自分の部下にほしくない、つまり、採りたくない新採というのはこうした「特定の分野(局)ならやる気出すけどそれ以外ならやる気を出さない人」ということですね。

現実として、22歳で60歳の定年までに10数回は異動するでしょうが、希望の局や担当に異動できる人なんてそうそういません。ほとんどの人が思い通りにならない異動をしているわけです。当然面接官である管理職は知っています。そうすると、「特定の分野なら500の力を出すと思われるけれどもそれ以外はならやる気を失って70の力しか出さなそうな人」よりも「どこの分野でも100の力を出してくれる人」の方が管理職にとっては魅力なわけです。だって500の力を出す機会があるかどうかはわからないわけですから、だったら常に100の力を出してくれる人の方が部下にほしいですよね。先ほど述べたとおり、管理職は実務家です。確実に実績を出すために現実的な選択をするのです。

そして、今回このタイミングで記事を書いたのが口述試験でこうしたことをやりとりする機会があるからです。
よく口述試験の中で興味のある分野を聞かれてそこから話が広がっていくと思います。事前に準備してきたでしょうし、アピールするのは構わないのですが、あまりに熱が入りすぎると今度は「この人、この分野について取り組みたいということはよくわかったけど、この分野以外に配属になったときにやっていけるかな?」と思われるでしょう。こう思わせてしまうと危険信号だと思います。
口述試験の中では「どこの職場に配属されても前向きに頑張りたいと思います!」と言う場面があるかと思いますが、その枕詞には「異動の回数も多く、なかなか自分の希望の部署にいくことはあまりないと聞いていますが」と付けて、「都の異動の実情ちゃんとわかってますよ。希望外の部署に行くことがほとんどでしょ?心配しないで!私は外れ職員じゃないですよ。やる気ださないなんてことないですよ!」と組織の一つの歯車であることをわかっているということをアピールできれば「現実分かってるし、前向きに取り組んでくれそうだな。こういう部下ほしいな。」と思わせることができると思います。

口述試験の参考になれば幸いです。
受験生の方、頑張ってください。


そしてこれは最後に余談です。こんな記事を書いておいて何なんですが、むしろ私の伝えたいことはこちらのほうです。
何かというと、もし本当に特定の分野に携わりたい!携わらないなんてありえない!と思っている受験生の方がいたら正直なところ「都(というより地方自治体)の受験は止めた方がよい」と思います。
諸々書きましたが、別に「特定の分野に携わりたい!他の分野は興味ないから行きたくない!」という人を否定しているわけではないんです。むしろその分野で普通の人の何倍も成果を出せるならそのスペシャリストとして、世のため人のために頑張ってもらいたいと思っています。
でもね、残念ながら都を始めとした地方自治体ってそういう人には向いてない組織だと私は思います。福祉、税、まちづくり、教育など多岐にわたる分野を所管し、どこに配属されるかわからない地方自治体ではどこの部署にいっても満遍なくこなせる能力とそれを割り切るメンタルが必要です。今の役所は結果的にスペシャリストになる人はいても、最初っからスペシャリストを欲しがってはいないと思います。
本当にその分野に特化したいなら分野がある程度決まっている省庁の方がよいと思いますし、何なら民間企業やNPO法人、場合によっては大学などいわゆる「有識者」になって行政の委員会のメンバーになってアドバイスしたほうがよっぽど発言力は大きいですし、自分の考える施策の実現可能性も大きくなるでしょう。

今回の記事を読まなくても大半の人は聞かれたら心の中でどう思っているかは別として「どこの職場に配属されても頑張ります!」と言うでしょう。
しかし、入都して案の定辞めてしまったら本人は貴重な新卒カードをドブに捨ててしまうことになりますし、都にとってはせっかく育成した職員がいなくなってしまいますし、あなたが入らなければ代わりに入都していた職員がいたわけです。誰一人としてwinがいないのだからなるべく避けたいですよね。

「どこの職場に配属されても前向きに頑張りたいと思います!」←これ、本当にどこの職場に配属されるかわかりません。全く興味のない、どれだけ人の役に立ってるかわからないような部署に配属されることが本当にあります。合格するためには多少の嘘は仕方ないと思いますが、このセリフだけは本心から思えないのであれば嘘はつかない方が後々不幸にならなくて済むと思います。

このセリフが合格するための方便ではなく本心で発言してもらいたいと願ってやみません。

改めて受験生のみなさん、口述試験頑張ってください。