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北村薫『空飛ぶ馬』(小説)

 友人の紹介で読んだ、「殺人が起きない」ミステリの傑作『空飛ぶ馬』。北村薫氏のデビュー作である本作。ここからはじまる『円紫さん』シリーズはライトミステリ(定義は人により異なるけど突っ込まないでいただきたい)のパイオニア的存在でもある。『ビブリア古書堂』シリーズや『タレーランの事件簿』シリーズなど、日常の謎が楽しめる人たちはきっと気に入る一冊であろう。Kindle版が出ていないのが惜しい。

【あらすじというか、感想的な何か】
<織部の霊>
 女子大生の「私」は恩師の縁から、ファンである落語家・円紫と知り合う。織部の茶碗に関する、僕なら見逃しそうなくらいの些細な謎を二人で会話のタネに解決する。
<砂糖合戦>
 シェイクスピアの『マクベス』モチーフを取り入れつつ、「ありえない量の砂糖をじゅんぐり回し入れている女子高生たち」の謎を解き明かす。構造のわかりやすさと、構成の巧みさが映えている一編。
<胡桃の中の鳥>
 温泉旅行先での「停車中の車からシートカバーが消えた」謎を解き明かす一編。大部分が前フリで、謎が始まるまでが長かった。
<赤頭巾>
 僕が個人的に一番おもしろかった一編。「夜9時に現れる赤頭巾少女」の謎を解き明かす。すべての話の構成が謎のためにつながっており、一本の噺として完成度が高いように思う。すべてが明かされた時、なるほど!、と唸った。
<空飛ぶ馬>
 「幼稚園に設置された木馬が何故か一晩だけ消えていた」謎を解き明かす表題作。

 日常の謎を扱った作品は身構えなくても読むことができるミステリとして、僕の好きなジャンルでもある。短編複数本で一冊を構成し、その一冊を通してのストーリーも同時に存在するという、連続ドラマ的な部分も読みやすさの一つのように思う。栞を挟んだ時の「記憶」に頼る部分が少なくて済むからだ。新刊を絞り尽くした人にとって、90年代ライトミステリは新しい開拓地なのではないだろうか。

【一言コメント】
京極堂っぽさもあるかと思ったが、あっちの読む難易度(物理)よりだいぶ敷居が低いなと思った。

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