喋らない父を持った

みんなのかが屋を見て、改めて加賀さんのお父さんの話を聞いて、私の父と真逆の性格だと思った。真逆と言っても、極端に真逆。とても良い様には捉えられない。

ゾフィーの「飯」のネタの母親のように、父親の役割がわからない。


中学生くらいから、周りの女の子の友達で、自分の父親の悪口や文句を言う人が増えたように思う。
「お父さんに怒られた」「お父さんが色々口出してきて面倒くさい」「お父さんとまた喧嘩した」
世間一般の“お父さん”は、娘にあれこれ口を出したり怒ったりするらしいのだ。

しかし私の父はそれがない。父に怒られたことも、何かについて口を出されたこともなかった。周りの友達の話を聞いて、自分の家は平和だと思った。

仕事もしっかりしているし、お酒も飲まない、煙草も吸わない、ギャンブルもしない、女遊びもしない、暴力もふるわない、何一つ文句無いお父さん、のはずだった。


私が高校生になる年に、父は公務員を辞め、新しい職に就いた。
母は、「娘の生活が大きく変わるときに、前より収入が不安定になるのは不安だから考え直してほしい」と言ったらしいが、結局今の職に就いてからの方が、前よりも収入を増やしている。

私の父は凄い。自分の出来ることを全て理解していて、それを職にすることができる。


しかし、私の父は、


喋らないのだ。


父は私に対して怒ったことが無い、何かに口を出したことが無い、それだけではなくて、褒めたことも、喜んだことも、悲しんだことも、馬鹿にしたことも、アドバイスしたことも無い。何も無い。自分の気持ちを表したことが無い。母に対してもそうだ。

3人家族、私は1人娘。自分で言うのもあれだが、父は絶対に私のことが大好きだ。父親として、「娘にこうあってほしい」という理想はあるはずなのに。

私が進路を決めなければいけないときも、何も口を出してこない。
部活の公演が近づいていて忙しくなってきたときも、何も言ってこない。
私の帰りが遅くても、生活リズムが乱れても、バイトを始めても、彼氏ができても、何も、何も言ってこない。

大学に合格したときも、私が「受かったよ」と言うまで何も聞いてこなかったし、部活でコンクールに出たときも、「金賞だったよ」と言うまで何も聞いてこなかった。報告したところで、「おめでとう」と言われるだけで、詳しいことは何も聞いてこない。

テレビを見て感想を言ったこともないし、ご飯を食べて美味しいと言ったこともない。美味しくないと言ったことももちろんない。

そういえば、いつからか家族で出かけることは無くなっていた。中学生になって私が忙しくなったからだと思っていたけど、母が父に嫌気がさしていたからだった。小学生までは私のことを思って3人で出かけていたらしい。それも多い方ではなかった。
中学生になってからは、私は母と2人で旅行に行っていた。父に「2人で旅行してきてもいい?」と聞いても、「おお」と言われるだけだった。


母は、相当頑張っていた。なるべく父に話してもらおうと、私の身に起こったことを3人でいるときに父に話しかけたりしていたが、毎回あまりにも反応が薄いので「言わなきゃ良かった」と思うことが大半だったらしい。

私も私で、そんなに話してくれないなら、と、自分から話しかけることも減っていた。

私が大学生になってパソコンを使い始めたとき、機械が苦手だったので得意な父に色々質問をしていた。私は、それをせめてもの父とのコミュニケーションとしていたつもりだった。

しかし何回目かの質問で、「お父さんも調べてそれを言ってるだけだから、自分で調べな」と言われて、私と父の唯一繋がっていた糸が完全に切れた。私が切った。

せっかく私が話しかけていたのに、父を頼ってあげていたのに、そこを父が面倒臭がるのなら、私はもう父にはパソコンのことは聞かない。話しかけない。そのことを母に話したとき、私は初めて、父のことで泣いた。

大学の友達で、両親の仲が悪くて常に家の中で怒号が飛び交ってると話している人がいて、確かに、それは嫌だけど、私がもう、父のことで考えがひねくれすぎていて、「喋ってくれるだけ良いじゃん」と思うようになってしまった。(その子に言ったことはないです大丈夫です)

喧嘩するということは、自分が嫌だと思ったことを人に伝えることが出来ているということ。私の父は、何を考えているのか全く分からない。

大学生になってから、母も私に父の嫌なところを話してくれるようになって、2人で話し合って泣くことが増えた。

もう、本当に嫌なのに、興味無いのに、どうしてまだ、私たちは泣くのだろうか…

決して悪い人ではない。頭が良くて仕事も出来て、だけど人間それだけが大事かと言われたら、そうではない。コミュニケーションを取れないことが、最も精神的に追い詰められる。


ここに書けないようなことでも、父の不思議でよくわからない言動は様々あります。ずっと我慢してきた母は本当にすごい。私は母ととても仲が良いし、母のことが大好きです。

“喋る父”を持っていたら、今頃私と母は、どうなっていたんだろう…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?