桐野夏生「日没」ネタバレ無し感想文

初版が今年の9/29だったのもあって、ネタバレに関することは書かない。

小説家の「私」は、突然届いたブンリン(総務省 文化文芸倫理向上委員会)という、知らない組織からの出頭を命じられる。千葉県に近い茨城県らしいそこは「療養所」と呼ばれ、治療を要すると決定づけられた「私」は、そこで作家としての精神の支柱と矜恃を奪われながら、苦しい軟禁生活を送ることになるが…

あらすじはこんな感じ。
瞠目したのは、目次からみるページ配分かな。

・第1章 召喚: 126p
・第2章 生活: 96p
・第3章 混乱: 54p
・第4章 転向: 48p

みただけで、ラスト怒涛の展開かと思いますよね。そうなんだけど、いつもの衝撃に関して言えば、足りない、ような気がした。私桐野夏生先生作品の中毒者だから。

緻密に作り込まれた、いつもの桐野作品の世界は影を潜めて、今回は、日本のどこかで現在も起こっているのであろう(?)、作家神隠し物語。

いろいろハッキリしないなかで、「私」の一人称で進むこの物語は、が故に全体的にふわっとした印象だ。読み始めると、桐野先生の筆力でつるつるっとラストまで読ませるが、(この、読むのが遅い私が三日ぐらいで読み終わった)あまり難解な言い方とか、桐野先生独特の比喩が殆どないので、…つまり、物足りない。

この本について、私がみた書評の多くは、後味の悪い作品だとか、劇的な展開だとか言っているが、個人的には、こんなに頭に残らない登場人物達と、主役や主要人物に肩入れ出来ない作品は初めてだった。

物語の舞台は、近未来にどこかの国か地域で行われるかもしれない焚書坑儒を思わせる不気味さ。だがそれに輪をかけて不気味なのは、「私」を取り巻く人間達である。
楳図かずおの漫画に出てくるように、あまりの怖さはある種の滑稽さを生み出すので。
今回の桐野作品は、なんかこんなカンジ。ただ、ここ最近の彼女の作品の中では良かった、あくまで個人的に。

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