前世への冒険-ルネサンスの天才彫刻家を追って-ネタバレあり感想

タイトルだけみるとスピリチュアル系の本みたいだけどそんなことはない。
作者は、森下典子というノンフィクション作家で、仕事の取材で出会った「前世が見える人」の言葉に疑問と好奇心を持ち、調べ始めることからこの本ははじまる。

作者はイタリアへ飛び、前世と言われたイタリアルネサンス時代の彫刻家・デジデリオという人について調査してゆく。

霊能者(前世が見えるという人)の言葉を徹底的に疑い、そうした上で文献を探しイタリア在住の通訳兼頼もしい協力者となってくれた男性とのやりとりは、知的好奇心に満ちていてとても愉しい。

後半は集めた様々な証拠から、彼女が導き出した推論を展開するが、500年前確かに実在した(と、記録に残っている)、デジデリオ、そしてそのきょうだいと思われる人物、愛した男が、鮮やかに浮かび上がって興味深い。

件の霊能者が「当たっているか、そうでないか」は、もはやどうでも良いことで、このような機会を得て、マイナーだた、一人の芸術家に光を当て、現代に蘇らせたことに、この本の最大の功績があると思う。

黒死病(ペスト)の時代に花咲いたと言われるルネサンス。子供の死亡率も現代とは比べ物にならないほど高かった時代に生き延び、作品を残した一人の男の生涯が。生き生きと目の前にせまってくるような、そんな本だった。

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