佐藤優オリジナルセレクション 松本清張傑作選「黒い手帖からのサイン」さっくり感想

松本清張の、中・短編を集めて現代の作家が解説しているこのシリーズ、私は桐野夏生さんと佐藤優さんのを選んで読んでみた。
もとより、松本清張のファンである。そして佐藤優氏の作品もダイスキなのである。これは読むしかないでしょう。

清張先生の作品は、どちらかといえば長編が読み応えがあってスキだが、短編もスキだ。
そしてノンフィクションもスキ。
「昭和市発掘」はたぶん全巻集めているんだけど、まだ読んでない。所謂積ん読です。

で、今回の中・短編集は、桐野夏生先生セレクションより、私は佐藤優氏の巻が面白かった。

なにしろ、「腹中の敵」という未読の短編が入っていて、これがえらい面白かった。

時代物である。
主人公は、織田信長の下で豊臣秀吉と競い合った、丹羽長秀という武将である。
信長亡き後、柴田勝家のように秀吉と相まみえることをせず、ずるずると秀吉の傘下にくだってしまう男の破滅に至る一生を描いている。

はじめ、先輩と後輩だった関係は、主の死とともに転倒し、やがて主と臣に変容してゆく。

病気に侵された長秀は、最後に自ら腹を割き、はらわたのなかに出来た異物(今でいう癌)を取り出し、それを秀吉にみたてて切り刻む。
競争に破れた男の、すさまじい無念が伝わってくる。

時代物でありながら、まるで現代小説を読んでいるような、人間を描く力に、清張先生の底力を感じた。

なお、この文庫本は、随筆「黒い手帖」という、なんというか、清張先生の物語作りの虎の巻的な本から抜き出しており、抜粋したそれを読むだけで、清張先生の、読者へのサービス精神の片鱗をみることが出来るような、気がする。

非常に示唆に富んでいて、勉強になる(気がする)

前に買ってかなあ。ちょっと未読箱を発掘してみるか。

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