桐野夏生「とめどなく囁く」ネタバレあり

8年前に海難事故で死んだはずの元夫が、主人公の周辺で目撃されはじめ、果ては無言電話がかかってくる。

この荒唐無稽さにリアリティを持たせるためにか、主人公が、非常に理知的で、自己抑制の効いた女性であることで、まずは、私がこれまで読んだ桐野作品のなかで一番毒気の少ない印象を持った。

まず、一読して、いつも(というか、以前)より表現が粗く感じた。思わず写し書きしたくなる表現はなかった時点で、私のお勉強にはならなかった。

あと、会話文が異様に多い。桐野先生の地の文章がスキなので、残念だった。

もうひとつ余計なことを言えば、主人公に関して、短い間隔のなかで全く同じ言い回しがあった。
ちょっと付箋貼るの忘れて、どこだか覚えてないんだけど、ここは文庫になるときに改正されるだろう。

まあ、だけど、ラスト1/10から俄然面白くなり、最初は荒唐無稽な話かと思わされたことが、実は真実だったあたり、いかにも桐野作品らしい。

いつも桐野作品を読むときに感じるスピード感、早くページをめくりたくなって仕方なくなるワクワク感が、今回は薄かったので少々残念に思ってたが、ラスト1/10でひっくり返った。
俄然面白くなり、ラストはさすがの一言。

そして、前半の穏やかな再婚相手との生活ぶりからは考えられないような、不気味なラスト。
このまま、元夫は、死ぬ死ぬと言いながら、主人公の周りを付きまとい、彷徨い、そして、主人公の暮らしをおびやかす「石の下の蛇」になる予感で物語は終わる。
私はむしろ、この続編が読みたいと思った。

(何様かよの文章ですみません)

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