壁/安部公房・著 さくっと感想文

積読本置き場から見つけた小説。
表題作は1951年(昭和26年)の芥川賞受賞作。当時はこんな野心的な作品が受賞してたんだなあ。

これは新潮文庫ので、「壁」を含む中編と、4つの短編入り。わりとオトク感あり。

私普段こういうタイプの小説あまり読まないので、慣れるまで少し時間かかったが、慣れてしまえば、面白かった。

ここに掲載された殆どの話が、ある日、前触れもなく、自分の存在が消えてしまう話。でも意志は残ってるから、そのまま物語はつづいてゆく。

主人公は、名刺に名前を獲られて、途方にくれてそこらをうろついたり(S・カルマ氏の犯罪)、影をなくして、その結果、肉体もなくして透明人間になって彷徨ったり(バベルの塔の狸)、足に絡みついた絹糸を引っ張ったら、糸と一緒にどんどんカラダが消えてったりする(赤い繭)。
かと思えば、世界中の「労働者」の液化が始まり(??←面白いこと考えるなあこの人)、結果、洪水になり、方舟を作って得意になっていたノアの一族を溺死させたりする(洪水)。

まあシュールなんだけど、なんだか一回回って、また現代の私達にどこかピッタリきそうな感じがする物語だ。

「洪水」と、最後の「事業」以外は、あまり社会性を感じさせる話ではないが、「壁」には言葉の端々に、普通に戦時中の話が出てきて時代を感じたし、そういう背景での、このストーリーというところにも、スゴク興味を覚えた。

とはいえ、あまり背景を考えたり色々と忖度したりするのは、ちょっと違うような気がする。(個人の感想です)

ただ、このひたすらブラックユーモアな世界を、ちょっとの時間旅してみるのも悪くないなと思った。
ちょっとでいいけどね。

そんで、私は「赤い繭」のラスト近く、

ついにおれは消滅した。(略)
ああ、これでやっと休めるのだ。

にスゴク感情を持っていかれた。

私は、双極性障害2型という精神疾患を持っていて、鬱期になると、こんな風な思考になることがままあるので、なんだかひとごととは思えない一言だった。

文章は平易で、スラスラ読める感じ。
大事なことなので2回言うけど、慣れさえすればこっちのものな、安部公房。ゼヒ一度体験してみるのも良いかも。

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