見出し画像

腐女子よ、今こそコントローラーを執れ(副題:ルーク人気は何故ここまで落ち込んだのか)

ストリートファイター6に大規模なバランス調整が施されて早や二ヶ月。
ザンギエフがただリターンを増しただけで不動の最弱からSランク候補まで登り詰め、JP使いがこぞって「ざまあみろ」の嵐を浴び、リュウ使いは笑顔で大ゴスを擦り、周囲が均された事で改めてガイルとケンの恐ろしさが際立ち……

そしてそんなお祭り騒ぎの中、ひっそりと溺死していく一人の男がいた。
ルーク・サリバン。今作の新主人公である。

Year1においては異常な高性能のしゃがみ中Pで全てを解決し、一度触ればトップクラスの高火力で薙ぎ払い、そうして得たリードを城塞の如く守り切る最強格キャラクターであった彼は、今苦境に立たされている。
しゃがみ中Pは硬直差以外おおよそ平均的な性能に下げられ(とはいえガードさせて有利の6F技は依然として凶悪無比だ)、主要コンボルートには重めのコンボ補正が乗った事で火力も平均よりやや下程度に。
かつては人口も全キャラ中トップクラス、審議の余地すら無く不動の最強格であったなど、まるで信じられない有り様だ。

とはいえ、決して彼は戦えない性能になってしまった訳ではない。
しゃがみ中P一本に依存しすぎた戦い方を捨てて適切に技を振り分ければ依然として立ち回りの硬さは健在だ。
道着キャラ界において最強のドライブラッシュ性能や優秀な中足ラッシュ、前進する攻撃の多さによる差し返しからのリターンの出しやすさといった火力に繋げやすい強みの数々も失われていない。
ルークを使い続けたいという思いがあれば、これからも長く使い続けられる。道着キャラの中において個性を失った訳でもなく、適切で順当な性能になっただけの筈だ。

であるにも関わらず、今や彼は殆どレアキャラ一歩手前まで人口を減らしている。
ここまで彼を苦しめる物とは一体何なのだろうか。これを探るには、前作の昔話から始める必要がある。

ストV昔話

時は2021年末。ストリートファイターV最後の追加キャラクターとして、ルーク・サリバンが実装された。
「ストリートファイターの未来を担うキャラクター」という触れ込みで実装された彼は、

とてつもないクソだった。

そもそもストリートファイターVは、今作と比べて非常に地味かつ守備有利のゲームである。
ドライブラッシュのような押し付けて強い要素は少なく、1コンボの火力も今より全体的に控えめ。弾に対しては歩きガードからどこかでぶっぱ飛びを通すしか無く、ラッシュ仕込みジャスパ等という便利な道具は何処にもない。
弾抜け技などの性能も全体に今より弱い。謎に最速小技の発生Fに3Fと4Fの格差が存在する点も今からすれば考えにくい。
ジャンプ攻撃の性能も今より遥かに低ければ、下段から安全にダウンを取ろうにも多くのキャラクターがシビアな単発ヒット確認を必要とする。
ダメージは起き攻めと差し返しで出すのが基本であり、基本的に攻めという行為のインセンティブは非常に希薄。そんなゲームである。

その中において、ルークの性能はあらゆる要素において最強であった。
最速3F小技のしゃがみ弱Pは早いだけでなく長く、相手の甘い行動に対するリスク付けが容易。
歩きパリィのようなものが無いゲーム性において、サンドブラストはもはや「ガードして削られるしかない技」である。しかも当然、パリィより遥かにガードバックも大きい。近づくだけで、6ルークの何倍も苦しい思いをする。
打撃技の間合いまで近づいても、ほとんどノーリスクの立ち中Kが安全に相手を追い払う。遠距離、中距離、近距離、全てにおいて全キャラ中最高峰の技を好き勝手に振り回せるのだ。
そしてドライブラッシュのようなものがないゲーム性において、やたらと前進する技の数々は即ち「他キャラを遥かに凌駕するリターンの安定性」を意味していた。
勿論火力も高い。中足キャンセルや前に出る技の多さで攻め能力も最高峰だ。弱点といえばどれだけ頑張って探しても「大足がちょっと短め」の一点以外誰にも見つけられない。

挙句の果てには全キャラ共通でタイマー制の逆転システム(Vトリガー)を持つというゲーム性において、ただ一人ルークだけが「時間が経つとタイマーが回復する」という真逆の性質を持っているのである。
しかもこのVトリガーは格差が凄まじく激しい。「そこそこの大技を取らないと反撃すら確定せず失敗時は最大コンボを受ける使いづらい当身」程度のものも数多く存在する中で、この独自システム持ちのVトリガーは攻撃自体の性能も最強格だ。
今のSA1から無敵と暗転を無くしたような技、つまりはとんでもなく強い弾が飛んでくる。こんなものを持っている相手に対しては当然ながら滅多なことが無ければ近づけない。
近づけないという事は、Vゲージが回復するという事。すると、更に最強の弾が何度も何度も飛んでくる。

挙句の果てに、この技のボイスは「逃げんなよォ!」である。
説明を見れば分かる通り、この技を発動したルークはガン逃げこそが唯一無二の大正解の行動であり、最強技を発動した最強キャラが最強状態でガン逃げしながら「逃げんなよォ!オラオラァ!」と叫び、異常な性能の弾をばら撒いてくる事になる。

誰が対戦するんだよこんなクソと。
紛れもなく、彼は最悪の存在だった。

仮に全プレイヤーが彼の性能を嫌っていたとしても何も可笑しい事はない。むしろ自然だ。
大会中継にルークが現れる度にコメント欄は大荒れに荒れ、「鬱陶しいな」とは思いつつも同時に「まあこれはCAPCOMの罪だな」「邪魔だけど正直こうなって当然だよね」と受け入れる。
多少の弱体化こそあれど、最終バージョンまで「ルークを倒すゲーム」という性質は変わらなかった。あまりの強さから真っ先に対策され、そんな努力の賜物として結果的に大会上位に名を残す事はそこまで多くなかったものの、そうであっても今なお誰もが「ストV末期はルーク一強のゲーム」だと認めている。
そこまで強いと当然、他の道着キャラクターを使う人間はいなくなる。リュウも、ケンも、豪鬼も、全てルークの下位互換と化した。

極めつけは、当時のルークのコンテンツとしての扱いだ。
最後の最後に追加されたので、当然のようにストーリー展開はほぼ無し。
アーケードモードでも殆ど掘り下げられる事は無く、今のようなジェイミーとの絡みも、頼もしい教官としての側面も、ホラーゲームに怯える情けない一面すらもない。
当時のキャラクター設定なんてものはほとんど無に等しく、小さな小さなメモ用紙が一枚あればそこに余白を残して全て収まってしまう程度の内容しか存在しなかった。

言ってしまえば、「急に万人受けを狙ったっぽいビジュアルのキャラクターが何のバックグラウンドもなく出てきてリュウ達の存在意義を尽く奪った挙げ句好き放題暴れ散らかした」というのが、ストリートファイターVにおけるルークという存在だ。
もはや説明の必要も無いとは思うが、当然の結果として彼は本当に本当に忌み嫌われていた。
強い憎悪というものはとにかく心に残る。旧作プレイヤー達にとって、かつてのクソキャラへの恨みはいつになっても色鮮やかに蘇るものだ。今からでもCAPCOMはルチャリブレカポエイラなんかの団体に謝った方が良い。

王者の孤独

そんなルーク嫌いの土壌がじっくりと育まれた上で発売されたストリートファイター 6Year1においてルーク使いの人口が異常に多かったとなれば、その考えられる理由はただ一つだ。

「勝てるキャラが使いたい」

そのキャラ選びに愛はない。思い入れはない。
ただ、勝てるキャラクターが使いたい。強いキャラクターが使いたい。
そしてそこにスタンダードかつ最強格のキャラクターが居れば、それが誰であれ使う。
ルーク使いの大半は、そんなプレイヤーが占めていたという事になる。

逆に言えば、最強格を転落した瞬間、見向きすらしなくなる。
彼らの求めているものは「ルーク・サリバン」でもなければ「攻め能力の高い道着」でも「速い球を持つキャラ」でもなく、ただ「勝てるキャラクター」でしかないのだから。
ましてやルークはスタンダードな性能の持ち主である。他の初期最強格であるJPなどとは違い、ルークでしか得られない楽しみというものにも乏しいのだ。

そうしてYear2。
ルークは弱体化され、予想された事態は起きてしまった。
使い手のほぼ全ては別キャラクターに移り、見事に彼は段ボールの中雨ざらしで震える事となった。
ましてや前作の嫌われようである。旧作プレイヤーであれば尚更、ルークなんか使いたくないという思いは強い。
即ち、これまでのヘビーゲーマーの過半数はルークを見捨てるに足る理由を持っていた。

正直に言うと、これはどうしようもない事だ。
プレイスタイルは人それぞれの、個人の自由である。愛よりも性能にこだわる、そんな心持ちが人を強くする事も少なくない。(言うまでもなく逆も然りである)
そして、そんな動機で強さを追求した人達がネット上に集めた集合知が、カジュアル層のプレイヤーまでもを支えるインフラとなる。
何も悪い事は無い。誰にも罪は無い。

だが、些か悲しすぎるとは思わないだろうか。
数年前とは違い、今ではルークは「厚みのある」キャラクターとなった。
ワールドツアーでは常に頼もしい我らが教官として、そしてジェイミーと揃うとさながら子どものような喧嘩をして。
特に腐女子層からの人気は絶大で、もはやストリートファイターのBL代表と言っても過言ではない。
Pixiv上を見ると、その人気の飛躍的向上は目に見えて明らかである。なんとV時代のルークはPCブラウザ版Pixivにおいて1ページ分にすら満たないほどのイラストしか投稿されていないのだ。その10倍ほどの数が、今では投稿されている。
更にX上で人気のルクジェミ描きはPixivに投稿していない事も多く、ここで可視化されていない暗数も凄まじい事が伺い知れる。尚、私はジェミ×ルク派である。

こんなにも、彼は愛されるようになったじゃないか。
こんなにも、素敵なキャラクターになったじゃないか。
なのにゲーム内では飽きられてポイでおしまいなんて、そんな悲しい話が他にあるだろうか。

今、ルーク・サリバンという男に光を当てる事ができるのは、我々腐の者なのではないだろうか。
ストリートファイター6、今なら半額です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?