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演歌の源流 # 10

今宵の雨 : 伊藤久男 1933

これが実質的な彼のデビューレコードである。
生涯一コロムビアレコード専属で通した辺りに彼の性格が現れている。
コロムビア一筋とは言えデビューのこの頃はコロムビアの傍系会社リーガルレコード専属で上の画像にその新聞広告を参考に貼り付けた。
後の大歌手も駆け出しはこうした扱いから先ず始まったものだった。
当時のレコードは広告にもある通り一枚80銭と言うのはこうしたマイナー系レーベル、値段を下げないと売れない程の無名の歌手の集まりだったが有名人ともなればメジャー系では黒盤(流行歌など)は二円 赤盤(クラシックやセミクラシック)は三円した と何かで読んだことがある。
歌のジャンルでこれだけ値段が違うと言うのもこの時代ならではか。

伊藤久男は前回の小稿でも取り上げたが、福島県本宮市出身、同郷では作曲家 古関裕而が同じコロムビア専属だったが、マーチの古関、和製スーザの異名を持つ。
1964東京五輪の選手入場のマーチを始め、NHKスポーツ中継のテーマ曲で今でも使用されている行進曲から、高校野球のテーマとも言うべき♫栄冠は君に輝く 果ては軍歌♫露営の歌 まで日本人の琴線に触れる印象深い曲を多く残した。
そうした功績から来年2020年春からの朝ドラで柳楽優弥主演の主人公のモデルとして古関裕而が選ばれた。
伊藤久男も、戦前から豪放磊落で如何にも迫力あるスタンスの歌い手だったので格好の軍事歌謡向き歌手として軍歌のヒット曲も多い。
♫暁に祈る ♫熱砂の誓い ♫露営の歌 など。
反面 その豊かな声量を生かした叙情的歌謡曲も多く♫高原の旅愁 ♫お島千太郎旅唄(前回紹介)
などここまでだけで戦前のヒット作。
戦後、軍歌を多く歌ったことから自虐心に苛まされ、深酒をあおり一時は再起不能に陥ったが、同業者からの励ましで再起、昭和22年1947年に復活した。
そんな時に田村しげる作曲の♫たそがれの夢
に出会い絶望しかなかった境地で一筋の光を見い出し、万感の思いを込めて録音してレコードもヒットした。
その後は♫シベリアエレジー ♫イヨマンテの夜 ♫中日ドラゴンズの唄 ♫あざみの歌 ♫山のけむり ♫オロチョンの火祭り ♫ひめゆりの塔 ♫君、いとしき人よ ♫数寄屋橋エレジー
などヒット作を連発 特に古関裕而作曲作品が目立つ。
日本の代表的流行歌を数多く歌った。
歌手岡本敦郎は昭和15年1940年に日劇(現在の有楽町マリオン)で伊藤久男の舞台で♫熱砂の誓い を聴いて感激して自分も歌手を志した と証言している。

伊藤久男は戦時中外地の慰問にいくようになりそれまでの自分はオペラの道に進みたくて仕方なかったと後に述懐している。
藤原義江と慰問で同行したときに君のバリトンは流行歌向きだから腰を落ち着けて取組むよう助言されて心境に変化が訪れて、その後慰問先で兵隊たちが自分の歌を聴いて涙を流す姿を見て流行歌道を往く事を決心したと言う。

本日お送りする♫今宵の雨 は二行詞の得意?な高橋掬太郎の詞がうらぶれ感をそそる。
本日も夜は雨と言う予報なので気分的にピッタリかな?と思い選曲した。
伴奏も最小編成の音だが、アルトサックスやフルートの演奏は見事である。
伊藤もデビューで後の面影は読み取れるものの、まだ何処か弱々しい声量だがこの歌についてはこの歌い方で丁度いい。
余り声を張って歌う歌ではない。
作曲は変名を使用していた頃の江口夜詩である。
テンポ早めなのが彼らしいが、レコードの録音時間も考慮した結果だと信じたい。

https://youtu.be/S4_GteC-ErA

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