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演歌の源流 # 5

サムライニッポン : 徳山 璉 1930

郡司次郎正 原作「サムライニッポン」は幕末の桜田門外ノ変で大老井伊直弼が惨殺されるまでの話だが、暗殺した水戸浪士の中に混じって新納鶴千代という主人公が実は暗殺した井伊直弼の私生児だったという非情なドラマであった。

小生は昭和40年公開の東宝映画「侍」で観たが岡本喜八演出の筋運びのテンポが良く何度も食い入る様に観た。
アクションも派手で、鶴千代役の三船敏郎の際立った個性プラス神業のような殺陣(一度に4人斬っていた。特撮なし、リアル演技だ!)に度肝を抜かれたものだ。
そもそも映画史では昭和6年封切の日活映画「侍ニッポン」が初映画化だったが勿論サイレント映画で監督脚本 伊藤大輔 主演 大河内伝次郎、梅村蓉子 の大ヒット作品だったが残念ながら現在ではフィルムそのものが無く観れない。

日本のこの時代の傑作サイレント映画は国と映画会社の怠慢で大半が散逸、焼失で満足な形での視聴が出来ない。
我が国は常に軍事、経済を中心に添えた政策の歴史だったのであり文化には殆ど理解を示さなかったその代償がこの惨状である。
この時その映画の主題歌としてビクターレコードから徳山璉(たまき)と元祖うぐいす芸者の藤本ニ三吉が同じ曲をアレンジを変えて一枚のレコードにパッケージするという戦略の下発売された。
この歌はよく売れたがその手法はレコード流行歌という新たなビジネスモデルが確立したほんの三年前から実践されてきた。
よく知られた徳山璉の方はオーケストレーションされた純然たる流行歌だが、以前にも一度小稿で紹介した松平信博の作曲で、映画音楽作曲家だった松平らしいサイレント時代の映画伴奏曲を彷彿とさせる銘品である。

人を斬るのがサムライならば
恋の未練をなぜ切れぬ

この先一段上行する。

伸びた月代(さかやき)さびしく撫でて

そして最後は下行する。

新納鶴千代にが笑ひ

サイレント映画、殊にチャンバラと言われたフィルムが流れる時にBGMでよく使われる三味線とピアノの和洋合奏特有の曲調だが、作曲家松平信博の真骨頂である。
ひっくり返した裏面にはその和洋合奏手法を用いた日本橋葭町の売れっ子芸者藤本二三吉唄うところの同じ♫サムライニッポン なのだが日本調アレンジにしたらこうも変わるか、というくらいにまるで違う曲のよう。
だが、確かに西條八十の書いた詩は徳山の方とはまるで違う、つまり西條八十はA面B面と違う詩を書いたのだ。
これもビクター戦略なので有ろうか。

ユーチューブで検索ちゃんすると両方聴けるのでご興味ある方は是非。

こちらの音源は蓄音器の再生動画だ。
ビクターはレコード会社の鑑で、昭和3年の初電気録音からしっかりと発売した全盤のメタルマスター原盤を保存(戦災で本社は焼失しているのに!)しており90年目の今でもいい音で再生出来る。
これぞテクノロジーであり、デジタル再生になりいよいよその真価を発揮できている。
しかし著作権についてはシビア過ぎてユーチューブにビクターの音源は御法度と言わんばかりのブロック
振りであり、アップしても悉く削除の対象となる。

https://youtu.be/5a29vADMe1w

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